第七話 消滅
ヒューズとイザベラのコンビネーションは、まさに阿吽の呼吸と言っていいほど完璧なものだった。
二人は剣に、それぞれ火と水を纏わせ、一点のみを狙って刺突した。火と水は、混ざりあいながら衝撃波を放ち、貫こうとする。
当然ながら、並みの人間には、このとてつもないほどの衝撃と貫通力は止められない。
そんな、殺傷能力の高い技を受けたエンヴィーは、クスリと微笑んで、
「やるね~」
と、感心したように言った。
それと同時に、光と、火と水によって出来た水蒸気がヒューズとイザベラ、そしてエンヴィーを包み込む。
ヒューズとイザベラは、全ての体力とほとんどの魔力を使い切った。
それにより、血涙と吐血をしていた。
ヒューズは、全力を叩き込んだ。故に、これで終わったと思っていた。
しかし、複合魔法を放った瞬間、幼い頃のヒューズとイザベラが・・・いわゆる走馬灯が視えた。
それだけが、ヒューズにとって不可解だった。
そんなことを思いながらも、ヒューズとイザベラは地面に降り立ち、膝をついた。
村人達からは、歓声が上がっていた。
「複合魔法英雄の投槍」というのは、火と水を合わせることで爆発と衝撃を生み、それを鋭く放つことで貫通力を上げる技だ。本来ならば、技を放った後、直径50センチ程の槍が通った後のような円形の穴が出来て、それに加えて激しい爆発が起きる・・・はずだった。
水蒸気が晴れた。
本来なら、そこには何も残らないのだが、
「さて、遊ぶのはこれくらいにしよっかな~♪」
エンヴィーと、エンヴィーの周りを浮遊する燃え盛る鎖が、さっきと変わらないまま残っていた。
つまり無傷。
実は、ヒューズとイザベラの一撃は、エンヴィーの周りにある、燃え盛る三つの鎖と能力によって、完璧に防がれていた。
ヒューズとイザベラのすべてを出し切った本気の一撃でも、エンヴィーに傷一つ付けられなかった。
その事実を理解した村人達の歓声は、ピタッと止まる。
そして、歓声は悲鳴へと変わる。
一方、ヒューズとイザベラの体力も魔力も底をつきかけていたため、もう戦えないことを即座に理解した。
「さあ、終わらせちゃうよ~♪」
そう言ったエンヴィーは、右手を天に掲げ、極大の光の玉を出現させる。
まるで太陽のようだった。
それを見たヒューズは、
(ああ、僕はもうここで死ぬと思う。・・・出来ることなら、アンの結婚式を見てみたかった・・・。)
と、子煩悩を発動させていた。
ただしアンに限る。
そして、先ほど見た走馬灯を思い出し、
「・・・イザベラちゃん。」
「何さね?」
イザベラは、太陽のような光の玉を見ていたが、顔をヒューズへと向ける。
ヒューズは最期、
「愛してる。」
と、告げた。
「私もさね。」
そう返したイザベラは、ヒューズと口づけを交わす。
それを見たエンヴィーは、ワナワナと震え、
「最期までッッ・・・!ああ、もう!嫉妬しちゃうなァァァァ!」
血走った目で、光の玉をヒューズとイザベラに向けて思いっきり放った。
当然、体力の尽きているヒューズとイザベラに、これを回避できる方法は存在しない。
たとえ、体力があったとしても、この極大の光の玉からは逃れられないだろう。
ヒューズとイザベラが、村人たちが、そして村が、光に包まれる。
~ルーミ~
俺は今、村へと戻ってしまったアンを追いかけている。
今のアンは、完全に錯乱してしまっている。
まあ、無理もないと思う。
まだアンは12歳の少女なんだ。
逆にユーズが平静を保てているのがすごいと思う。
ん?いや、よく見ると、ついていけてないって感じだな。
まあ、それが当然か。
俺の方がおかしいよな。
だって見た目は、14歳だもん。
こんな緊急事態なのに、冷静に考えられる14歳いないとおもうからね。多分。
こういうところは、転生した特権だな。
正直、全力でポーカーフェイス保ってるけど、心の中はめっちゃ焦ってるんだよ。
俺はこの14年間、家族とともに過ごしてきた。
当たり前だと思う人がいるかもしれない。
俺は前世で、全くと言っていいほど、家族と接してこなかった。
接してこなかった、というのは、ともに過ごしたと言えないと思う。
故に、家族の絆というものが俺には全く理解が出来なかった。
両親が死んだというのに、何も感じなかった。涙も出なかった。只々無関心だった。
まるで、赤の他人だったかのように。
いや、実際、赤の他人だった。
血が繋がってるだけの関わり合いのない、赤の他人だった。
だが、今世は違う。
母さんは、不器用だし、剣術のけいこは鬼みたいに怖い。
だけど、子供のことを第一に見てくれる人だ。
父さんも、顔はマジで怖いけど、とても優しい
相手のことをとても理解してくれる。
アンとユーズは、少し不器用だけど、どんな時でも俺についてきてくれる。
どんな時でも俺のそばに居続けてくれる。
俺を慕ってくれる。
二人よりも魔法の才能も力もないというのに。
そんな家族がいたから、俺は幸せだった。
家族の絆というものが分かった。
これからもいつまでも、こんな時間が続けばいいと思った。
だから、失いたくなかった。
だけど、母さん達は、アン達を俺に託した。
だから、せめて妹と弟だけは、守ろうと誓った。
たとえ、アンとユーズに憎まれることになっても。
できれば、憎まれたくも嫌われたくもないんだけどね。
俺はまだ、「お兄ちゃん、嫌い!」なんて言われたことないんだけど、言われたらどうしよう。
なんか、それが一番怖い気がしてきた。
そんなことを考えていると、アンに追いついた。
いくらアンが速くても、ティーの速度には敵わない。
俺は、地面に両手を着けて、アンの目の前に「創造力」で土の壁を創りつつ、立ちふさがった。
「創造力」は、俺が何かに触れないと使えない能力だからだ。
危なっ!
あと少しで森から出て、村に出るところだった。
「なんでッ!なんで止めるの?お兄ちゃん!」
「無理だ!あれには敵わない。」
何故、俺がそこまで断言できるかというと、
最初にエンヴィーを見たときに、「解析鑑定」も行っておいた。
結果は、《妨害》。
こんなの出たことがなかった。
少なくとも俺が出会ったすべての魔物や人からは。
さらに、魔力量も桁違いだった。
まさに化け物。
勝てるはずがないと一瞬で思い知らされた。
「そんなことわからないじゃん!みんなで戦えばもしかすると・・・」
ドゴォォォォン
もしかすると、の後を言おうとしたアンの言葉を遮るように、物凄い光と爆音が、俺の背後・・・村から聞こえた。
それにより起こった爆風によって、俺の土壁は吹き飛んで、俺とアンは倒れた。
倒れたといっても、土壁が守ってくれたので無傷だ。
上半身を起こした俺は、まずアンとユーズの状況を確認した。
アンは、俺と同じように上半身を起こした、ユーズは、ティーが守ってくれたようなので大丈夫そうだ。
俺は何があったのかと、後ろを向くと、「未来視」で視た映像と全く同じ景色が広がっていた。
サーガ村があった場所は、クレーターのようにへこんでいた。
俺は、「未来視」を視ていたこともあって、何が起こったのか瞬時に理解した。
サーガ村が消滅してしまった、ということを。
お読みいただきありがとうございました。