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異世界で三兄妹が奮闘する話。  作者: G2
第二章 魔の大森林編
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第三十五話 わがまま

 

 『神樹シドラ』最深部。


『私も加勢しますッ!』


 オルシオの脳内に、イリスの叫ぶような声が響いた。


「いけませんッッ!!貴女は先程担ぎ込まれたばかりでしょう。それに、怪我人も多いのです。天使兵の方々にも伝えなさい。森を脱出しなさい、と。」


 本来、「念話」は思うだけで伝わるが、口から声が出る程にオルシオは焦っていた。

 威圧混じりのその声色から真意を受け取ったのか、


『・・・ッ、わかり、ました。』


 イリスはいとも簡単に引き下がった。

「念話」が切れる。その瞬間、オルシオは口元に笑みを浮かべた。

 目の前に、圧倒的上位者がいるというのに。


「終わったかしらぁ?」


 そこに立っていたのは、十七か十八歳ぐらいの女性。腰まで届く長い白髪に、真紅の瞳。額には人ならざる者の証である二本の角。そしてその妖艶な体付きを見せつけるように、バニースーツを着ている。その口元には笑みを浮かべており、唇の隙間から種族の特性ともいえる牙が見えている。


「ええ、終わりましたよ。さあ、始めましょうか。」


 オルシオは自らに身体強化魔法をかける。

 さらには、手足が獣のように変化していく。肌は剛毛に覆われ、爪は鋭く長くなっていく。

 彼の種族は天狗族。

 何かに受肉せねば現世での活動時間が限られる天使族が、大神族という魔物に受肉することで生まれる種族である。


「さて、始めましょうかしらぁ?久しぶりに動けるようになったんだしぃ、肩慣らし程度にはなってもらうわよぉ?」


 対するのは、〝九罪王〟第七位、色欲王(ラスト)


急速に(プレスト)非常に強く(フォルティッシモ)ッッ!!」


 オルシオは勢いよく地面を蹴り、右手に全ての魔力と力を込めて、ラストへ向かって突き出した。

 その速度は音速にも達しそうだったが、ラストのほっそりとした左腕は軽々とオルシオの手を止めていた。

 さらに、部屋の四方から枝が伸びてきて、彼の腕をガッチリと動かせないようにしてしまった。


「まさかッ!」


 オルシオの背筋に、妙な悪寒が駆け抜けていくのが分かる。

 彼の主、フィスィノシアは『神の命』と呼ばれる命属性を司る〝大天使〟。彼女は、命の魔法を使って樹木を操る。

 そして、ラストの能力は、『生と死』を操る・・・つまり、命属性。


「貴女は・・・、」


 オルシオはラストの能力を、『生と死』を操る、ということしか知らない。

 それはつまり、ラストが何処までの力を持っているのかもわからない。


「神樹を掌握したのですかッ!!」


 ラストは歪んだ笑みを浮かべて、


「あら、それがどうかしたのかしらぁ?」


 黒い風のような〝死〟が流れるようにオルシオに放たれる。

 右腕が固定されて動かすことのできないオルシオには、逃れる術がない・・・はずだった。




 ラストはオルシオが死ぬと確信していた。

 しかし、そこに彼はいなかった。


(まさかっ、自分の腕を・・・、)


 ラストは横に振り向いたが、遅かった。


 隻腕となったオルシオと、〝九罪王〟第七位、ラスト。

 二つの影が激突し、その内一つが崩れ落ちた。


 静寂が訪れ、勝者は敗者を見下ろし、こう呟いた。


「死者の軍勢に入れようかと思ったけどぉ、やっぱりやめるわぁ。私の魔力がずいぶんと喰われてるしぃ、残りを節約するとなるとぉ、この神樹ちゃんも動かせないもの。」


 勝者は、はあ、と一回ため息をつくと、


「やっぱり自分で歩くしかないのよねぇ。」


 豊満な胸が疲れの原因とでも言うかのように、肩を叩きながら歩きだした。




「久しぶりっ!ルーみん!」


 スメルトと激戦を繰り広げていたルーミと、ルーミの記憶を失ったユーズの前に現れたのは、〝九罪王〟第九位にしてルーミ達の村を滅ぼしたエンヴィーだった。


 そして現在、二人そろって鎖でグルグル巻きにされながらエンヴィーと空飛んでます。

 どうしてこうなった、と考えながら、ちらりとユーズの方を見る。


(うわー、完全にグロッキー状態だな。)


 なんてことを思っているうちに、轟!!という音とともに、後ろを追ってきていたスメルトの羽の一枚が、ルーミのすぐ横を突き抜ける。


「うっわー、危なかったー!大丈夫、ルーみん?」


 風のせいで少し聞き取りずらいが、なんとも緊張感のない声でエンヴィーが言っているということはわかる。


「大丈夫?じゃねえよ!死ぬかと思ったわ!!というか、何で助けてくれるんだ?」


「う~ん・・・とりあえずこの状況乗り切ったらで!」


「は?なんt・・・ぐわっ!」


 言い切る間もなかった。

 急にエンヴィーが止まり、回りながらスメルトと向き合った。

 彼女の持っている、ルーミ達の身体に巻き付いている鎖の先端ごと回ったため、遠心力がかかり、ルーミ達にはかなりの重力がかかった。さらには、より一層鎖が締まったせいで、ルーミまでグロッキー状態となった。ユーズが耐えれているのが不思議なくらいだった。

 エンヴィーにもルーミ達の身体に巻き付いている鎖のせいでかなりの力が加わったはずなのに、態勢すら崩さなかった。流石は〝九罪王〟と言わざる終えなかった。

 そして鎖を掴んでいない方の手に握られた傘を開くと、


「六連=火龍(ヒドラ)!」


 その先から六本の鎖が現れ、それら全てから炎が噴き出し、それは徐々に形を作っていき、出来上がったのは。

 六匹の炎龍。

 それらは一直線に放たれ、スメルトは四枚の羽で自身を包み込むようにして防御した。

 そして、羽を再び開いたときには、エンヴィー達は消え去っていた。

 スメルトは一回舌打ちをすると、次の動作を始める。




「ふい~、あーぶなかった~。」


 エンヴィーとグルグル巻きの芋虫状態の二人は、一度森の中に身を隠すために降下していた。


「おっと、鎖解くの忘れてた。」


 エンヴィーはてへ、とでも言うように小さく舌を出して、指を一回パチンと鳴らす。

 それだけで鎖が力を失ったように解けた。


「何で、助けてくれたんだ?」


 エンヴィーとルーミは敵対関係、のはずだ。

 実際に二人は殺しあっているし、フィスィノシアが現れなければルーミは死んでいた。

 つまり、エンヴィーに二人を助ける理由などないはずだ。


「う~ん・・・」


 エンヴィーは顎に親指を当てて少し考えると、


「なんとなく、かな!・・・それよりさ、」


 そう言い切った。

 強者の言葉だった。

 そしてさらに続けるように、


「あの魔王倒すの、協力してあげようか?」


 悪戯をする子供のような笑みで、そう言った。


「え?」


 そう呟いたのは、先程までグロッキー状態で倒れていたユーズだった。


「だ、だめだよ!だって、この人は僕と姉ちゃんの村を壊したんだよ!?信用できないよ!」


 ルーミも同じ気持ちだった、が。


(どう思う、サーガ?)


『正直、信用なりませんが、このままでは勝つことなど到底不可能です。ここは協力関係に持ち込んだ方が得策かと。』


 という回答。

 確かに、あの化け物に勝つためには、こっちも化け物でいくしかない。

 ユーズの記憶とエンヴィーとの協力。

 エンヴィーとの協力を選べばユーズの記憶は戻るかもしれない。だけどそれを選ばなければ、最悪死ぬ。

 もう、ほぼ一択しかない。

 だが、どうしても、エンヴィーは肉親の仇なのだ。

 心の奥の方。黒く、どす黒く渦巻く、復讐心という名の感情が納得しないのだ。

 エンヴィーの手を取るなと囁くのだ。

 そして選択肢はもう一つある。

 エンヴィーの協力を得ず、ユーズの記憶を諦め、このまま逃げ出すという方法が。

 しかし、こんな方法は選びたくない。

 先程、ユーズを見つけた時に感じた、大切な人に忘れられるという感覚。

 とても恐ろしかった。まるで、深い深い谷の底に落ちていくような感じがした。

 だけど、わかっている。これがただのわがままだってことを。自分さえ我慢すればそれでいいのだ、と。

 でも、ルーミにその選択肢は選べなかった。選びたくなかった。

 そして迷いに迷ったルーミは、ある一つの言葉を思い出した。


『過去のものの為に、今のものを捨てるな。』


 過去の復讐に囚われず、今の記憶を取り戻す。

 正直、虫が良すぎるとルーミは思った。

 誰がどう考えても、このまま逃げ出してしまうことが最善だ。

 だけど、


(そうだ。こんなの、ただの俺のわがままだ。俺一人が我慢すればいい。だけど俺は、俺がアンとユーズを逃がしたいっていうわがままの為に悪魔に魂を売ったんだ。ユーズの記憶を取り戻したいっていうわがままの為なら、鬼にだって魂を売ってやる。)


 ルーミはユーズをチラリと見ると、


「ごめん。」


「えっ、」


 次にユーズが何かを言う前に、


「エンヴィー。頼む、お前の力が必要だ。」


 そう言って、仇の手を取り、頭を下げた。


「ふっふっふ~、このエンヴィーちゃんにまっかせなさ~い!」


 (ない)胸を張ってそう言うエンヴィーを見て、ルーミは少し笑ってしまった。


「待ってよ!」


 そう叫んだのは、普段は大人しいユーズだった。


「僕の記憶のために我慢なんかしなくていいんだよ!傷つかなくていいんだよ!」


 それは、あまり感情を表に出さない少年の、必死の叫びだった。

 しかし、それを切り捨てるように、


「ユーズ、それは、俺との思い出はどうなったっていいってことか?」


 ひどい質問だった。

 ユーズの良心を抉るような言葉。


「そ、れは・・・そうじゃ、ない、けど・・・。」


 ユーズは言葉が詰まってしまう。


「俺はな、悲しいんだよ。」


 ふと、ルーミはそう口にした。


「三人で遊んで、三人で釣りをして、三人で森に入って、そんな大切な思い出の中に、俺が入ってないってことが、寂しくて、悲しいんだ。」


 ユーズは目元に涙を浮かべていた。


「でも、でもっ・・・、」


 その言葉を遮るように、ユーズの頭に手を置いて、ルーミは言う。


「だから、さ。付き合ってくれよ。俺の、こんな、わがままに、さ。」


 ユーズは何も言わず、コクリと頷いただけだった。


 そのタイミングを見計らったように、横から二人の様子を見ていたエンヴィーが言った。


「さあ、あのメルヘン不良ちゃんに、反撃してやろうぜ~!!」


 とある三兄妹の長男は、仇の手を取って、自らのわがままのために、化け物と戦うことを決意する。

 

今回、二章で一番書きたかった話かもしれない・・・。

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