第三十三話 死神の過去
雑魚だ、と魔王はルーミに対してそう思った。
スメルトの能力は、魔王達が当たり前のように持っている「魔王覇気」や「防御結界」、「耐性」系を除くと、希少能力「鱗粉操作」のみである。
肉眼で捉えられるか捉えられないかという粉ほどの鱗粉を自在に操ることによって、剣や槍に変化させるスキルである。
当然、その能力で敵を倒して来たし、〝死神〟と呼ばれる魔王にもなった。
しかし、先程の槍の一撃。
(チッ、どうなッてんだ。アイツに何があッたんだ。何が変わッたんだ!)
そう。今では、ルーミに攻撃は届かない。
すべて〝闇〟に防がれ、避けられる。
さらには距離を詰められ、ルーミの攻撃を防ぐ始末。
もはや、スメルトは防戦一方になっていた。
(クソ、クソ、クソクソクソッ!コイツはここで殺さなくちャなんねェんだよ!ユーズの為にも、このアホ面はここで殺さなねェといけねェんだ!!)
そして、鱗粉の数が増える。それと同時に、百本以上の剣が作られ、
「これで沈みやがれェェェ、アホ面ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
一斉に、ルーミに向けて襲い掛かる。
(ユーズに、オレみてェな思いなんかさせねェためにも、テメェは死ね。)
何故、スメルトがこう思うのか。
その真実は、彼の過去にあった。
スメルトは、西の大陸、『蝶の里』というところで生まれた。
子供は、親を選べない。どんなに理不尽でも受け入れなければならない。
彼は、生まれながらにして不幸だった。とはいえ、彼の家が貧乏だとか、彼の親が理不尽に暴力を振るったなどではない。むしろ幸せと言っても過言ではなかった。周りから見たら、に限るが。
彼の母は、現代の地球で言うならば、『毒親』だった。彼に完璧を求め、肉体的にではなく精神的に蝕んだ。
そんな心労のためか、彼の父親は、彼の幼いころに亡くなっている。
それゆえ、母親の愛情は、スメルトのみに注がれ続けた。
そのころ、彼はこう言われ続けた。
『あんたの為に言ってるんだからね!』
(なァにが、オレの為だ。テメェの為だろうがよォ。)
『あんたはやればできるんだから、もっと出来るでしょう?』
(オレはテメェの期待に応えたじャねェか。これが精一杯なんだよ。もう期待すんじャねェよ。)
『あんたは剣術や槍術をしておくべきよ。その方が有意義でしょ。』
(勝手に決めつけんなよ。全然有意義じャねェんだよ。結局テメェの意志じャねェかよ。)
幼少期から言われ続けた。
そして、幼少期から言われ続けたから、彼は二つ返事で承諾することしかできなくなっていた。
彼は、彼の母親に逆らうことが出来なくなっていた。母親に逆らおうとすると、『何か』が邪魔した。恐怖に似た、『何か』が。そして同様に、周りに助けを求めようとすると、『他人に迷惑をかけてはいけない』という当たり前の言葉が邪魔をした。何故か、助けを求めようとすると、母親が悪いと思えないのだ。
そのもどかしさ、矛盾した二つの心。
それらを抱え、母親の重圧に耐え続け、彼が十三の時に、それは起きた。
『蝶の里』、その名前の由来は、そこに住んでいる人々の種族。
蝶人族。
生まれてから十三歳になるまで幼虫体として暮らし、十三歳になると背中から羽が生え成虫体になるという種族。
一説には、さなぎの状態を飛ばすことから、母体の中で幼虫体。そして外に出てきた時点でさなぎなのではないかと言われている。
当然、スメルトも蝶人族。故に、十三歳になった時点で羽が生えてこなければいけなかった。
しかし、彼が十三歳を過ぎようとも、羽が生えてくる気配はなかった。
その事実に、彼に対して完璧を強いてきた母親は怒り狂った。周りからは、軽蔑されるようになった。
そんな、あまりにも理不尽な現実。それを受け入れるには、十三の子供には厳しく、壊れかけの心に止めを刺した。
結果、彼は壊れ、暴走した。
彼には、誰にも明かしていない能力があった。まるで、羽が手に入らなかった代わりに手に入れた能力。
それこそが、「鱗粉操作」。
それは、彼自身の鱗粉だけでなく、他人の鱗粉さえも操ることができた。
彼は、憎しみ故にその能力を振るい、怒り故に暴走した。
気が付いた時には、里は壊滅。生存者は、一人もいなかった。
彼はその後、蹂躙された後のような里を離れ、新たな住処を求めて旅をした。そしてその末に、ある事件が起こり、『魔王連盟』へ加入することになるが、その物語はまたの機会で。
百本以上の剣がルーミに降り注いだことによって、土煙が起こっていた。
(アイツの口ぶりが、あのクソババアに洗脳されてた時のオレの口ぶりと同じだった。だから、アイツを救うために、コイツは殺さなくちャなんねェんだ。)
ユーズを脳内に浮かべながら、スメルトはそう考えていた。
そして土煙が晴れると、そこには・・・
「ああん?アホ面だあ?何て呼ばれようが俺は気にしない。ただ、ユーズの思い出は返してもらうぞ、くそ魔王。」
そんな減らず口が叩けることが不思議だった。
それぐらい、ルーミは傷ついていた。
百本以上の剣、それらすべてが命中したわけではない。しかし、十本近くは突き刺さっているはずだ。
なのに。
どうして。
「何で、テメェは倒れねェんだよォォォオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
その時だった。
スメルトは異変に気が付いた。
身体が熱い。鼓動が速い。
さらには・・・
ルーミは、魔王の動きが止まっていることに気付いた。
さらに、魔王の身体から聞こえる、パキリパキリ、というコンクリの壁がひび割れるような音。
そして、ルーミの口からは、自然とこんな声が出てきた。
「な、んだ?その・・・黒い、羽?」
羽、というより翼のようだった。
黒よりも黒く、光すら飲み込むような漆黒。
形は蝶の羽。二対四枚の翼。
「くくく、かははは、はははははははははは!」
その笑い声とともに、羽とも翼とも言えるそれらが、一斉にルーミに襲い掛かった。
戦いの中で強くなる・・・だと!?
主人公って誰でしたっけ?




