第三十二話 ルーミvs魔王
すいません。
遅れました。
間違ってしまいました。狂界戦争はいせふんとなにも関係ございません。
『魔の大森林』西部。
そこには、異様な光景が広がっていた。
少し前まで、異形の魔物と『神樹』がぶつかり、激しい戦場と化していた。魔物が唸り声をあげ、火の玉や光線が飛び交っていたはずだった。
しかし、その場所に広がっているのは・・・
その光景に、『神樹』の枝の上に立っているシドラはやりすぎてしまった、と苦笑いしていた。
地面から伸びる無数の木の杭。人間の胴程の太さのそれらは、魔物たちの生命の源である魔核を正確に貫いていた。もはや動く魔物など一匹たりともいない。月光に照らされたその場所は、赤、青、緑、様々な色が混ざり合って黒い血の海と化していた。
それを引き起こしたのは、『神樹シドラ』・・・いや、シドラだ。
シドラの種族は、樹精霊族。『神樹』の意志が実体化した精神生命体。しかし、本体はあくまで『神樹』なので、樹精霊は意思疎通を図りやすくするためだけに存在しているとも言えるだろう。あるいは・・・
「・・・?」
その時、異変が生じた。
樹精霊族とは、本体の意識をホログラムのように映し出すための仮の肉体だ。
その肉体が、一瞬ブレた。
「・・・?どうかされましたでしょうか?」
まだ空飛ぶ島が残っているため、警戒態勢を解いていないオルシオが、シドラの背後に控えながら尋ねた。
焦るようにして、シドラが答える。
「オルシオ急げ!!俺の自我が残っているうちに!!色欲王を倒せぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
オルシオは音速に近い速度で、その場から消える。
そして、残されたシドラに、ノイズが聞こえる。
ザザ・・・ザ・・・ザザザ、ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッッ!!
ノイズが途切れた後、声が聞こえる。
「さあて、そろそろ暴れてやろうかしらぁ?」
端的に言うと、ルーミの刀は魔王に届くことはなかった。
何故なら、何もないところに突然現れた拳大の盾のようなものに阻まれたからだ。
漆黒の盾のようなものには、斬ることを重視した日本刀であっても傷一つつかなかった。それどころか振るった側のルーミの手首の方が、ミシミシと悲鳴を上げた。
ルーミが次の動作をする前に、魔王の頭上に、漆黒の大きなつららのようなものが三本現れ、ルーミに振り下ろされた。
(くっ!!)
後ろに転ばんばかりの勢いでルーミが避けると、すぐに三本の大きなつららは集まり水のように形を変え巨大な剣となり、態勢を立て直して間もないルーミを横から薙ぎ払った。
ルーミは刀で体を守るように構えたが、勢いは殺せず、再び吹き飛ばされた。
数メートル吹き飛び、木の幹に当たったところで左肩を叩きつけられるようにして止まる。
今度は、先程のように素早い連撃はなく、はあはあ、と息を少し整えた。
(くそっ、衝撃を和らげるように真横に飛んで刀の鎬で受けたけど勢いが殺せなかった・・・ッ!刀が折れなかったのが不思議なくらいだ。)
そうこう考えている内に、魔王は近づいてくる。
(何か・・・、何かあるはずだ。あれは確実に異能の力だ。スキルか魔法かはわからないけど。必ず魔力が関係してるッ!)
今度は鞭。
誰も掴んでいないのに、しなやかに振るわれる二つの鞭は、ルーミを裂こうとしてくる。
ルーミは「創造力」を使い、自分の前に地面を変化させた土壁を造り、勢いを殺して横へ転がるように逃げる。
(今の「創造力」もそうだ。俺は無意識に地面に魔力を流し込んで土を動かした。それと同じようにあいつも魔力を使っているはずだ。その魔力の流れを見ればあいつが何をしているかわかるはず・・・ッッ!!)
再び剣。
しかし今度は巨大ではなく、二本の人が通常に使うようなものだ。
それらが木の間を縫うように、縦横無尽に襲い掛かってくる。
ルーミは器用に、一本の剣を挟み込むようにして土壁を造り出す。そしてもう一本は、一回受けつつ力押しで吹き飛ばす。
(さっきより威力がない。二本に分かれてるから?とにかく、魔力を見ればわかるはずなんだ。もらいもんだけど「神の瞳」だろう!!万物に宿る魔力ぐらい見ろォォォおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)
今度は槍。
刺されば人の身体など簡単に二つに分けれそうな巨大な一本の槍。
ルーミの反応が遅れた。
先程の剣の一本は、土の壁に埋め込むようにして捕らえたはずだった。しかし、気づくとその刀は土壁から消えていて、吹き飛ばしたはずの剣も槍と化していた。
(しまっ!!)
このままではルーミの身体が、上半身と下半身に分かれる。
ガキンッッ!!という金属同士がぶつかり合うような音が、夜の森に響き渡った。
ルーミは吹き飛ばされた。
しかし、それだけ。槍によって身体に大穴が開いてスプラッターショーのようにはならなかった。
ルーミが無傷の理由。それは・・・
『申し訳ありません。遅れてしまいました。』
サーガが戻ってきた。
それにより、〝闇〟が使えるようになり、ルーミの胴体を守るようにして創り出された。
そして、今の槍によって、ルーミには気が付いたことがあった。
ふう、と息を吐いて、ルーミは言う。
「魔王。お前がどんなに強大な存在であろうと、弟を害した。お前の能力はわかった。こっから反撃させてもらう。」
本当に申し訳ございませんでした。




