第十九話 そんなこと
新年明けましておめでとうございます。
今年も「いせふん」をよろしくお願い致します。
俺達はクモ助と別れ、『自然の楽園』へ来ていた。
『自然の楽園』は『神樹シドラ』最上階にある、フィーの庭園だった。
何でも、フィーは無類の植物狂らしい、言い方が変だが、事実、庭園には世界中ありとあらゆる植物が育てられていた。しかも、その大半がフィー自身で世界中から集めたらしく、光り苔もその一つだった。
『自然の楽園』に入ると、そこに広がっていたのはまさに『楽園』だった。
天井はなく青空が見えている。人工的に造られたにしては自然な小川や、様々な色の草花、大きさも色もバラバラなのに妙に統一感のある木々など、まさに『自然』だった。
そんな『楽園』に一つだけ『不自然』な場所があった。
そこは『自然の楽園』の中央で、ポッカリと穴が空いてしまっているようだった。そこだけ芝が狩り揃えてあり、『自然』がない。さらにそこには、純白のガーデニングチェア(?)やガーデニングテーブル(?)があり、ティータイムに使うであろう場所だった。もうイスとテーブルでいいや。
そして俺達はその場所に座っている。正確には高価そうな純白のイスの上に。
さらに、オルシオさんが(歌いながら)紅茶まで持ってきてくれた。なので俺の前には高価そうなティーカップの中に高級そうな紅茶が入っていた。
正直俺には紅茶の味の違いなど一切分からないので、「これは妾お手製の茶葉から作った超厳選、超美味な紅茶なのじゃ!!」とか言っていたので、恐らくこれは美味しいのだろう。
「さて、本題に超入ろうかの。お主、地球という違う『世界』のことを知っておるな?」
「「?」」
そうフィーが俺に尋ねた。
アンとユーズは何のことかわからず、?を浮かべている。
「なら、本当にあるんだな、『地球』は。」
俺はイスに座りながら拳に力をいれて言った。
「どういう意味じゃ?お主は〝転生者〟ではないのかの?ふむ、やはり・・・、」
「いや、〝転生者〟かもしれない、だけど、俺は〝転生者〟がわからない。『俺』がわからない。」
俺は視線をティーカップに落としながら、震える唇を動かして言った。
「・・・?お主には『地球』の記憶があるのじゃろう?」
フィーが顎に手を当て、眉間に皺を作って聞くが、
「俺には、『村上 仁』という人間の記憶がある。・・・とも言えるし、ないとも言える。」
明確な答えが出せない。
それにより俺以外が全員?を浮かべている。
「・・・どういうことじゃ?」
フィーに尋ねられたので、俺は『俺』の考えを話した。そして、『村上 仁の記憶』に出てきた女神(仮)のことも。
・・・
・・・・・
・・・・・・・
「「「・・・。」」」
俺の話を聞いてから、全員が沈黙していた。
恐らく、何を発したらいいのかわからないのだろう。
そんな中で口を開いたのは、フィーだった。
「ふむ、やはりお主は〝転生者〟で間違いないじゃろう。しかし・・・、」
フィーはそこで言葉を区切った。
そして俺は、ホッとしているのだ。『俺』が、妄想から生まれた空っぽの『俺』じゃなかったことに。
「何故、お主の称号に〝転生者〟がないんじゃ?」
は?称号?
俺は思いもよらない言葉を投げかけられ、取り敢えず自分の手のひらを見て、「解析鑑定」をする。
・個体名 ルーミ=ナーヴァ
・種族 半悪魔
・称号 原初を従えし者
・特殊能力 「神の瞳」「創造力」
・希少能力 「痛覚耐性」「状態異常耐性」「精神攻撃耐性」「熱変動無効」「範囲結界」「魔力感知」「覇気」「影移動」「超再生」「念話」「詠唱破棄」
〝転生者〟はない。
〝転生者〟はないけどッ!何!?〝原初を従えし者〟って!!
そして、何時俺は「解析鑑定」された!?
《恐らく、あの闘いのあとではないでしょうか?意識がない場合、魔王ほどの「解析鑑定」では抵抗が行えないと思いますので。》
はあ、さようですか。
にしても、
「〝転生者〟には称号に〝転生者〟が付くものなのか?」
「うむ、妾の知り合いもそうじゃったからのう。」
知り合い・・・ってことはッ!!
「俺以外にも〝転生者〟がいるのかッッ!?」
俺は勢い余ってイスから立ち上がってしまった。
「まあ、まあ、超落ち着けい。居るぞ、最近は会っておらぬがな。」
「そうか・・・。」
ということは、オカルトじみた〝転生者〟は本当だった。『村上 仁の記憶』は、『地球』は、本当にあったんだ!
俺はとても安心した。長い間考えていた謎が解けたから。
でも、でもッ!本当にそれが真実なら。
『俺』は、『村上 仁』は、『ルーミ=ナーヴァ』という人間を殺してしまったのではないか?
『ルーミ=ナーヴァ』という人生を壊してしまったのではないのか?
もし、それを承知で女神(仮)が『村上 仁の記憶』を『ルーミ=ナーヴァ』に植え付けたのだとしたら、女神(仮)は、俺に、この世界で、何をさせたいんだ!?
意味が分からない・・・。
俺は・・・一体、何をしたらいいんだ?
「兄ちゃん。」
そんなことを考えていると、ユーズが呼びかけてきた。
「兄ちゃんが隠してたのは、そんなことだったの?」
え、そんなこと、って・・・。
「そうだよ!!お兄ちゃんが悩んでたのはそんなことだったの?」
アンも同様に騒ぎ出した。
「「そんなことだったら!!」」
アンとユーズ、両方に迫られる。
「兄妹なんだから、私たちに頼ってよ!」
「兄弟なんだから、僕たちに頼ってもいいじゃん!」
二人の声が重なる。庭園に響き渡る。
「「「・・・。」」」
再び静寂が訪れる。
そんな静寂を打ち壊したのは、
ぐううううううっっっ!!
という、アンの腹の虫だった。
「くっ、はぁっはっはっー!!やはり面白いのう。お主らは。」
フィーはイスに座りながら、両手で腹を抱えて目元に涙さえ浮かべていた。
「まあ、もう夜ですし、仕方ないでしょう。」
シドラさんが、ヤレヤレ、といった感じに言った。
それにしても夜?上を見上げても青空しか見えない。
「ア、ア、ア~♪この天jy
「この天井はですね~。光魔法を使って、青空と夜空を使い分けることができるんですよ~。」
オルシオさん・・・、発声練習終わったところだったのに・・・。イリスがオルシオさんの声を遮った。
そうか、何をしたらいいか、じゃない。
そんなことは、俺自身で決めればいいんだ。
だから、俺は・・・、
「なあ、フィー、お前の植物いくつかもらっていいか?」
「む、いいが、何に使うんじゃ?超疑問、超探求なのじゃが。」
「俺の手料理を振舞おうと思ってな。」
自由に、自分勝手に、生きていけばいいんだ。
目標なんてなくたって、俺は家族を守れればそれでいい。
ただただ、自分の、私利私欲のために生きていけばいい。
誰かを守るための私利私欲で。
と、少年は思ったのだった。
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誰も居なくなった『自然の楽園』で、魔王フィスィノシアは一人残り、座って考えていた。
(女神とやらは何者じゃ?あの無機質な声、〝世界の言葉〟こそが『神』ではないのかのう・・・。久方ぶりに魔王会議にでも参加しようかの・・・。)
フィスィノシアは少し考えて、答えが出ないのを悟ると、
(まあ、どうでもよいか。難しいことを考えるのは嫌いじゃしなあ。)
能天気に思考をやめ、
(そんなことより、何を作るのかのう。超楽しみじゃのう!!)
脳内を食事のことのみで満たしたのだった。




