第十八話 『俺』という存在
『おお、似合っとるのう。』
フィーは、俺、アン、ユーズの格好を見て呟いた。
フィーの「思念伝達」が発動中なので、頭の中に直接フィーの声が響く。
俺が作ってもらったのは服だ。
それも、俺の前世の知識を大盤振る舞いに使った品々だ。
しかし、その知識がクモ助に伝えれず、なかなか苦労した。実際には苦労してないが、その工程に力を使ったという感じだ。
まず初めに、前世の服のデザインを伝えるのが難しかった。何故かというと、紙がないからだ。驚いたことに、本はあるのだが、紙はないという。しかし、その問題はすぐに解決した。木版を使い、炭でデザインを描こうとした。
描けなかったのには理由がある。それは、俺の画的センスがゼロだったからだ。
俺が描くたびに、皆の顔が「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」といった感じになるのだ。俺の精神が辛かった。
その打開策が出たのは、シドラさんの一言からだった。
『「思念伝達」で伝えればいいじゃないですか。』
『え?出来るんですか?』
『出来ると思いますよ。』
何でも、「思念伝達」という能力は、言葉を相手の頭の中に思念として直接響かせるという能力とイメージを相手の頭の中に思念として直接伝えるという能力があるらしい。
なので、俺の「走馬灯」で前世の服のデザインを引っ張り出し、フィーの「思念伝達」でクモ助に伝えた。
そして、最も難易度が高かったのは、チャックだった。
服の繊維はクモ助が、染色はフィーの『植物コレクション』とやらから出来るのだが、チャックやボタンはそうはいかない。なので、俺の「創造力」で創ることにした。
ボタンは簡単だった。小さい円盤を創って、真ん中に二つ~四つの小さな穴を開けるだけだったから。
しかし、チャックは激ムズだった。前世の科学技術の凄さを再認識した。開発者を単純に尊敬した。自分はなんで異世界でチャックなんて作っているんだろう、なんて思うほど練習を重ね、やっと完成した。
そんな努力の結晶を、今俺達が着ている。
俺の服は、白色の半そでのシャツを下に着て、その上から藍色のチャック付きパーカーを羽織る。そして紺色のジーパンを履くといった感じだ。藍色と紺色という何とも暗い色を使っているのは、前世で年中スーツだった名残かもしれない。そもそもチャック付きパーカーなんかにしていなければ、チャックなど作る必要はなかったのだが、妙にこだわるのが俺の悪い癖だろう。
次にアンの服は、フィーの紅葉色のワンピースを動きやすいように、太股が少し見えるようにした服だ。太股を少し見えるようにしているのは確信犯であるらしく、それでいて羞恥心があるのか短パンを履いている。魔女っ娘の衣装のデザインを見せたところ、帽子に興味を示したらしいのか、自分の顔より大きい紺色の帽子を被っている。ちなみに、アンの象徴とも言える赤毛は先程と同じでおさげにしている。ぶっちゃけまんま『赤毛のアン』だ。
最後にユーズだが、妙にマフラーを気に入ったらしく、時期で言えば夏が終わった頃なのに、茜色のマフラーをしている。服はチェックのTシャツがいいと言ったが、チェックの実現が不可能だったので、無地のポケット付き半袖Tシャツ。そしてポケット付き半ズボンと、ポケットだらけになっている。マフラーに半そで半ズボンって・・・これが前世と今世の違い、なの、か・・・?
そして服を着るときに気づいたが、アンとユーズはともかく、他の人達が、俺の額の黒い宝石に何故かふれないのだ。大体ただの村人が、宝石を持っていること自体怪しいのに、なぜ誰もふれないのか・・・。気づいているけど見えないフリをしているのか。そもそも見えていないのか。それとも他に別の理由があるのか・・・。大前提としてサーガとは何者か。謎は深まるばかりだ。
そんなことを考えていた時、
『いやあ、ホントに似合ってるね。それにしてもチャックなんて初めて見たんだけど、何で知ってるんだい?』
クモ助がそんなことを聞いてきた。
全身から変な汗が出てくる。暑くもないのに。冷たい汗が。
どうする・・・?なんて言えばいいんだ!?実は前世の記憶があるんですよーとか言うのか?転生者なんて奴は前世じゃオカルトとかそういう類いのヤツだぞ!!信じてもらえるわけがない。
そもそも俺は〝転生者〟なのか?そんな考えを今まで自問自答してきた。
そして俺は一人である結論を出した。裏付けなど一切ない。証拠もない。ただの幻想だが。
俺は、俺という存在は、『ルーミ=ナーヴァ』という人間が、『村上 仁』という人間の記憶を元に創った人格ではないか?と。
『記憶が人を作る』とはよく言ったものだ。つまり、『俺』という人格は、『ルーミ=ナーヴァ』という人間を『村上 仁』という人格が上書きしてしまったから作られたということではないのか?
なら、『ルーミ=ナーヴァ』とは、『村上 仁』とは、『俺』とは、なんだ?
『村上 仁の記憶』の中に出てきた女神(仮)は、『俺』に何をさせたいんだ?
そもそも女神(仮)なんているのか?
『村上 仁の記憶』というものを『ルーミ=ナーヴァ』が創り出してしまったというだけではないのか?『村上 仁の記憶』は『ルーミ=ナーヴァ』の妄想の産物ではないのか?『村上 仁の記憶』というのは実際には存在していないのではないか?
そして、『俺』は、その結果偶然生まれてしまった副産物ではないのか?
ならば、『俺』は、〝転生者〟と言えるだろうか?
『・・・ちゃん!お兄ちゃん!』
気が付くと、俺はアンに大声で呼ばれていた。
『大丈夫?すごい汗・・・だよ?』
言われて初めて気づいた。全身からは大量の汗が滴っているし、呼吸も荒い。
俺はフウー、と深呼吸をして、
『大丈夫。』
アンを落ち着かせた。
『さて、ルーミよ。核心を突こうか。』
フィーが区切って話す。
『お主、〝転生者〟じゃな?もしくは、地球という場所の記憶を持っているな?』
再び冷たい汗が全身から出てくる。服の下で汗が肌を伝うのがわかる。
身体が少し震える。
言葉が出ない。
喉に空気が詰まったような感覚がする。
『俺は・・・〝転生者〟かもわからない。俺は・・・『俺』がわからない。俺は・・・本当の『俺』が・・・わからない。』
俺が絞り出すように言うと、フィーはふむ、と手を自分の顎に当てた。
『場所を変えぬかの?そうじゃなー・・・あっ、あそこがいいのう。』
フィーは再び、しかし先程とは違い、もったいぶるように区切る。
『お主たちを妾の庭園、「自然の楽園」へ招待してやろうかの。』
ちょっと何言ってるかわからない、って思う人が多かったと思いますが、僕の文章表現力はこれが限界なので申し訳ございません。




