第十二話 始まりの終わり
またかよ、と思う人もいると思いますが、歴代最長です。
俺の刀はエンヴィーを斬った。
刀は〝闇〟や『範囲結界』と共に砕け散ってしまった。
〝折れた〟ならまだ良かった。しかし、〝砕け散った〟なら非常に不味い。
何故なら、〝折れた〟ならば、『創造力』ですぐに直せたのだ。しかし、〝砕け散った〟のなら『創造力』では簡単には直らない。
『創造力』の発動条件は、俺が触れていることだ。
粉々になった刀のかけらをいちいち探していたら、日が暮れてしまうからだ。直せないことはないが。
ということで、俺は刀を失ってしまった。つまり今の俺には、武器がない。
更に言うと、魔力もほとんど残っていない。
何故わかるかというと、俺が血涙を流しているからだ。
魔力とは、生命の源だ。
なら、そんな魔力を使い続けるとどうなるか。
当然死ぬ。
だからこの血涙は体からの警告のようなものだ。
なので、俺はもうほとんど魔力がないことがわかる。
しかし、そこまでして放った一撃でも、
「いったぁ~いなあ~。」
エンヴィーは倒せなかった。
痛いとは言っているが、全く痛そうには見えない。むしろ笑っている。
エンヴィーは、何事もなかったかのようにスタッと起き上がった。
服は斜めに切り裂かれており、その下の肌も同様になっている。
それを見た俺の身体は震え始める。心臓は破裂するのではないかというほど脈打ち、脚はガクガクと震える。歯はカチカチと鳴り出す。
今まで感じたことのない恐怖が俺を襲う。
すぐにでも逃げ出してしまいたい、という衝動に駆られるが、身体が一切動かない。
「でも~久しぶりに〝痛み〟を感じたよ~。キミならボクを殺してくれるかもな~。あっ!そうだッ!キミのことルーみんって呼んでいい?いいよね、ルーみん♡」
そう言ったエンヴィーが、まるで恋する乙女のように微笑んだ。
コイツは・・・この・・・状況で・・・何を・・・言って・・・いるんだ?
狂ってる。
俺は・・・一応お前を殺そうとしているのに、戦っているのに、なぜそんなことが言える?
狂気、狂人いや、狂鬼。
俺は、完全には理解していなかった。
コイツは、俺の想像を絶する狂鬼だ。
「あっ!そうだ~!ルーみんだけなら見逃してあげてもいいよ~。」
俺は、見逃してもらえる?つまり、助かるってことか?死ななくて済むのか?
・・・
・・・・・
・・・・・・・
は?俺は今、何を考えた?
エンヴィーは、俺だけは、と言ったんだぞ。
つまり、俺以外は見逃されない。
それが意味するのは、アンとユーズの死だ。
そんなことも考えずに、自分だけ助かろうとした俺が許せない。村を滅ぼし、アンとユーズを殺そうとするエンヴィーが許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せるはずがない。だから、俺は、
「嫌だ。俺は、お前の情なんて受けない。」
「いいの?後悔するよ。」
「俺は、アンとユーズを守りたい。その為なら・・・後悔など、ない!!」
断った。
何故なら、ここで見逃されてしまったら、前世に戻ってしまう。 一人で、機械のように生きていたあの頃に。
そんなことになったら、俺は確実に後悔する。
だから、俺は自分の欲求を満たすために戦う。
例え、この身が滅びようと、二度目の死が訪れようとも。
不思議と身体の震えは止まっていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は、大地を蹴って、エンヴィーに向かって走り出す。迷いなく、只々一直線に。
武器がなくても、俺は立ち向かう。
腕を振り上げる。手を握りしめ、拳を作る。
《全く・・・ルーミ様は。》
振り上げた腕に、〝闇〟が纏わりつく。
俺は、拳をエンヴィーに打ち込んだ。
しかし、その拳は、エンヴィーの細い右腕によって止められる。
「あ~あ。残念だなあ~。じゃあ、あの豚みたいに殺してあげるよ。」
落胆した様子のエンヴィーは、左手に黒く光る玉を作っていく。
光る玉の大きさはピン球ぐらいで、今まで見た中では一番小さい。
《ッッ!!超高エネルギーの魔力弾です!遮蔽物の多い森の中へ一旦離脱します!》
頭の中でサーガの焦った声が聞こえる。
途端に身体が浮き上がり、引っ張られる感覚に襲われる。
いつの間にか背中には蝙蝠のような羽が生えていて、後ろ向きで森へと飛んでいた。
「バイバイ。ルーみんッ♪」
エンヴィーは、狂喜の満ちた笑顔で、ルーミのいる方向へと魔力弾を無造作に放る。自分の魔力弾で自らを殺さぬよう飛びあがり距離を取る。『多重結界』を発動させたうえで。
技法 焔龍核撃
そう名付けられた、『黒炎』、『炎熱操作』、そしてルーミの『神の瞳』をもってしても見ることが叶わなかったスキルを使い、それを圧縮させることによって、莫大なエネルギーを生む魔力弾が大地に接触する。
接触したクリカラは、爆発する。しかし、それは普通の魔力弾とは違う数百倍、数千倍の威力を誇る。更に違うのは、圧縮から解放された膨大な魔力が全方位へと向かわず、激しい衝撃波と膨大な量の熱、そして熱による閃光を放ちながら、まるで天へと昇る黒龍の如く上へ上へと昇っていく。
放たれた衝撃波と熱は、木を焼き、森を更地にし、大地を焦土と化す。
クリカラの範囲内にある全ての物体を焼き消す、それがクリカラという名の魔力弾の力であった。
しかし、そんな力に抗った者がいた。
それこそがルーミ=ナーヴァという名の少年だった。
彼の意識はとうになく、全身は火傷をしていない箇所を探し出すのが難しいくらい焼け爛れていた。
それでも彼は生きていた。爆発のギリギリで〝闇〟によって身体を覆い、何とかクリカラを耐えきっていた。常人ならば、炭どころか灰も残らぬ一撃だったのにもかからわず。
そしてクリカラを放った張本人が、焦土と化した大地に降り立つ。
「わあ~!おっどろいた!クリカラに耐えるなんて、やっぱり殺したくないなあ~。でも皆殺しにしないとプライドに怒られちゃうしな~。ほんっとアイツって傲慢!ま、そんなわけだからバイバイ。ルーみん♪」
誰も聞いていないが、エンヴィーは一人で葛藤した。
そして、出した答えも、相手は意識を手放してしまっているので届くはずなどなかった。
エンヴィーはルーミにとどめを刺すために、再び魔力弾を作る。しかし、クリカラではなく、ティーを消滅させたときに使ったものだ。
そして、それを放とうとしたその時、何者かが近づいていることにエンヴィーは気が付いた。
近づいてくる者を警戒するように、エンヴィーは距離を取った。
「あ~あ。時間切れか~。」
その者の正体を見たエンヴィーはそう言って笑う。
その者は、エンヴィーとルーミの間に降り立つ。
その者の容姿は、紅葉色の髪をサイドテールにしているエンヴィーと同じくらいの年齢に見える少女だった。その手には、自分の身体と同じくらいあるのではないかと思うほどの杖が握られていた。
少女が降り立った地面から、焦土と化した森が、大地が蘇っていった。
焼け焦げた大地は元に戻り、何もないところから木や草が生え始め、森となった。
決して時が戻ったわけではなく、新しく森が創られた。
しかし、少女とエンヴィーの周りは、焦土のままだった。
「嫉妬の王よ。今回の狼藉、分かっておろうな。超無礼、超不快。」
少女は、妖気と『魔王覇気』を放ちながら言った。
『魔王覇気』というスキルを扱えるのは〝魔王〟という高みに上った者のみ、エンヴィーはその高みに至ったため所持している。
つまり、少女はエンヴィーと同格の存在ということ。
エンヴィーは負けじと、妖気と『魔王覇気』を放つ。
生まれて数分も経っていない森の、ポッカリと空いた空間に、二つの妖気と『魔王覇気』がぶつかり合う。
片方は自然のような穏やかなオーラ、もう片方は混沌としたどす黒いオーラ。
エンヴィーは黒炎を纏った鎖を数本出現させ、少女は自身の背後にある木の枝を流動的に、まるで生きているのかの如く操る。
二人の少女は向き合い、睨みあう。
常人ならば、二人の妖気と『魔王覇気』を前に生きてすらいれないだろう。
それほどまでに、強烈なオーラがぶつかり合っているのだ。
ふと片方のどす黒いオーラを纏う少女が、
「あ~あ。もうや~めた。どうせこの状態じゃ負けちゃうし。じゃあね。自然の魔王。と、ルーみん♪」
妖気も『魔王覇気』も消し、そう言い残して、飛び去った。
飛び去ったのを確認し、自然の魔王・・・フィスィノシアも妖気と『魔王覇気』を消す。
「ふぅ。何とか追い返せたのじゃな。まったく、もし闘いになってしまっておったら、この森が消えてもおかしくなかったからのう。本当に超迷惑、超面倒じゃ。」
フィスィノシアは、肩に力を入れるのを止め、安堵する。
「おっと、そうじゃった。この者を癒さねばのう。今回のえむぶいぴーというやつじゃからのう。超感謝、超恩人じゃから。」
そう言いながら、フィスィノシアはルーミの元へ駆け寄り、治療を始める。
これにて、一人の少年の姉弟を守る戦いの始まりが終わったのであった。
「あ、そうじゃ。イリスが保護したと言っていたのう。・・・大丈夫じゃろうか。超心配、超恐怖じゃな。」
やっとエンヴィー戦が終わりました。
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