第九話 契約
今回、キリがいいので少し短めです。
「はあ。もう終わりか~。もっと楽しめると思ったんだけどな~。」
エンヴィーは、まるで子供が玩具を壊してしまった時のような、落胆の表情を顔に浮かばせ、呟いた。
「あ~あ。つまんない。目的の悪魔族も見つからないしな~。」
そう呟きながら、エンヴィーはルーミに近づいていく。
そして、ルーミまであと五歩というところで、
「ブモォォォォォォ!」
誰も背中に乗せていないティーが、最高速度・・・地球で言うスポーツカー並みの速さで森から飛び出し、エンヴィーへと突進した。
通常の人間なら、即死レベルの突進を、エンヴィーは、
「多重結界」
と、呟くと、エンヴィーの周りにドーム状の見えない壁が、何枚も出現する。
ティーは、突如出現した透明な壁に気づかず、そのままの勢いで突進する。
当然ながら、ティーと透明な壁は激突する。
厚さ1mmにも満たない結界とスポーツカー並みの速さの猪ならば、普通に考えれば、猪が勝つだろう。
しかし、相手が悪かった。般若と猪では“格”が違った。
ティーはそのままの勢いで激突するが、負けたのはティーの方であった。しかも、壊せた結界はゼロ、傷一つついていなかった。ティーの方は、衝撃で頭蓋骨にひびが入っていた。
気絶してもおかしくはなかった。しかし、ティーは主人の兄を救うため、主人の願いを叶えるために、必死に気を失わないように踏ん張った。
しかしそれは、全くの無駄だった。
「はぁ~。邪魔がよく入る日だなぁ~。」
眉間に皺を寄せて、エンヴィーは炎の鎖を数十個出現させる。
そして、無慈悲にも、今にも気絶しそうなティーに向かって放つ。
放たれた鎖は、ティーの肉をえぐり、血を燃やす。
「ブ・・・モォ・・・」
五分後、残ったのは、焼け焦げた肉塊のみだった。
ティーは、主人の望みを叶えることが出来なかった。
しかし、ティーは幸せだった。
魔物にとって、名前を付けられることが、何よりもの褒美だったのだから・・・。
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延々と続くように思える闇の中で、ルーミは一人立っていた。
ああ、俺は死んだんだな。
少しは時間が稼げただろうか。
二人は逃げれたのかな。
はぁ、二人の・・・特にアンの結婚式を見るまで死にたくなかったな。
あれ!?
俺、未練たらたらあるな。
あ~やり残したこといっぱいあるわ。
俺なりに今世の人生計画あったのにな~。
まず、アンとユーズと村を出るだろ、ほんでその後、世界一周して、今世こそ結婚して、子供が生まれて、アンの結婚相手をぶん殴って、ユーズの結婚を静かに見守る。で、奥さんと幸せな家庭を築いて、子供の成長を見守り、孫の顔を見て、なんもやること無くなったら老衰で死ぬ、という最高の人生計画。
あ~あ。
死にたくなかったな~。
生き返れないかな~。
生き返れたら、思いっきり復讐して、第二の人生を謳歌したいなぁ。
《なら、私と契約を結びませんか?》
暗い暗い闇の中に、中性的だけど何所か男性のような声が響く。
え!?誰?
《申し訳ありません。私に〝名〟はございません。ただ言えるとすれば、私は原初の悪魔族です。》
コイts・・・えっと、あなたは僕の心を読みましたか?
《はい。読みました。貴方は心の中で思うだけでいいですよ。後、敬語じゃなくてもいいですよ。》
やっぱ読まれてたか。
それにしても悪魔族か・・・異世界は何でもありだな。ちなみに原初って何だろう?
《原初というのは、最初に生みだされた悪魔族のことで、最も古い悪魔族の総称です。》
お、おう。
まぁ、すごいってことだな。
でも、心の中で思ったことが全部伝わるのは不便だなぁ。
《・・・。》
無視かよ!
ハイハイ。わかりました。少しぐらい我慢しますよ。
《ありがとうございます。》
聞こえてんじゃねぇか!
《では、契約についてご説明させていただきます。》
コイツッ・・・なかったことにしやがった。
《私はわけあって封印された身でして、封印が解けるまで貴方の中に匿ってほしいのです。対価として、貴方に力を貸して差し上げましょう。どう使うも貴方次第です。》
なるほど・・・。
文字通り悪魔との契約ってわけか。
ちなみに「わけ」とはなんだ?
《詮索していただかなければ幸いです。貴方の過去・・・おっと、前世と言ったほうがよろしいですかね。》
コイツ・・・。
俺が転生者だってことバレてるな。
まぁ、そんなことどうでもいい。
あの二人を、アンとユーズを守れるなら、俺は悪魔にだって魂を売ってやる。
《では、契約成立ということで。》
ああ。これからよろしくな!サーガ!
《は?おっと、申し訳ございません。あの、サーガとは?》
ん?お前の名前だけど。
《よろしいのですか?》
え?いいに決まってるだろ。
お前に名前がなかったら、俺が呼びにくいし。
《ありがとうございます。では、私はルーミ様、とお呼び致しますね。》
お、おう。
堅苦しい奴だな。
まぁいいか。
そう思った瞬間、俺に途轍もない虚無感が襲った。
身体から力が抜けていく感じがする。
え?何が起こった?
《私に〝名付け〟を行ったことで、ルーミ様の魔力が失われたのだと推測されます。》
そうなの?
あ、そういえば母さんがそんなことを言ってたような・・・。
もういいや。
起こってしまったことは仕方ない。
死ななかっただけましだ。そうポジティブに考えよう。
ちなみに、残りの魔力どれ位かな?
《少々お待ちください。・・・約9%ほどですね。》
あっぶな!
一割切ってるじゃん。
今度から軽々しく〝名付け〟するのやめよう。
なんてことを考えていると、14年ぶりにあの声を聞いた。
《確認しました。これより、亜人種への進化を開始します。》
パソコンの音声のような、無機質のあの声を。
毎週日曜22時投稿にしようと思ってのですが、僕と同じなろう小説家のオスイモノ先生にさいそくされたため、今週分(第九話)は木曜日になってしまいました。
一応謝ります。
申し訳ございませんでした。




