黒き星
「なんで気付かないの?」
「はぁ、はぁ」
テオンは悪夢に魘されて目を開けた。
(昨日と同じ夢。いや、昨日より鮮明だった。あれは俺の幻想のはずだ。未だに俺はあれに後ろ髪を引かれているのか)
テオンは溜息を吐き、ベットから這い出た。服は汗で少し濡れていた。
(服とかの生活雑貨も買わないとな)
テオンは自分の濡れた服を見ながら何となくそう思った。そして、今日のやる事の計画を頭の中で建てた。
(雑貨を買うのと、ギルドに行って情報を収集しないとなあ)
テオンはまだ、こっちの世界に来て2日目である。この世界線では知っていることよりも知らないことの方が多いのだ。例の一つとしては昨日、門に行く途中にあった奴隷館では奴隷が売買されていた。だが、奴隷についても分からないし、買った方が良いのか買わない方が良いのかも分からない。
つまり、『郷に入っては郷に従え』という事だ。だが、郷のことを知らなければ郷に従えないのだ。
その点をテオンは危惧していた。もし、自分が日本で普通にしていた事をして、犯罪者になってしまってはクランを作るというい夢が儚く消えるだろう。まあ、もしそうなったら、テオンはその国を物理的に潰して証拠を消し去ると思うが。
テオンは食堂へ降りてサンドイッチとスープを食べて、*今日食べたご飯は昨日と同じ。テオンは家庭料理的な雰囲気のご飯を気に入った様です*ギルドへ向かった。
ギルドにはあまり人がいなかった。
(みんな、昼間だから依頼でもこなしてるのかな?取り敢えず、どこか図書館みたいなのがないか受付の人に聞いてみようっと)
テオンは受付に近づいて、可愛い系の受付さんに声を掛けた。
「すいません。どこか図書館はありませんか?なにぶん、最近(この世界に)来たばかりなので」
「貴方がテオンさんですか?お会いできて光栄です」
(えっ?俺ってそんなに有名になってたの?)
「なら、地下室の書庫をご利用下さい本当はダメなんですが、ここのギルド長がテオンという人をB級冒険者として待遇しろと言われましたので、B級から地下書庫を使ってもいいので多分使っても大丈夫ですよ」
冒険者のランクは下から順に
G→F→E→D→C→B→A→S
と、成っている。
それに付随して、魔物も
G→F→E→D→C→B→A→S
と、プラスして聖獣と魔獣を未知ということでX
そして、別枠として
ドラゴン種→人種→鯆種(イルカ)→鯨種
と、成っている。
別枠の人種は人ではなく、魔人と呼ばれる者達だ。この者達は人間のような容姿だが、どこかが人ではない形になっているらしい。
「そうですか、ありがとうございます」
「地下書庫はあちらの扉から入って下さいね」
「分かりました」
テオンは受け応えを丁寧にやって、扉に向かっていった。
地下書庫は予想を遙かに上回る量の本があった。だが、テオンを除いて誰もいなかった。
(ヒェー、こんなにあんのか。財力凄いな。なんか、誰もいないと宝の持ち腐れだな。取り敢えずは魔法と魔物の生態系とか弱点とかの本だな)
魔物などは生物に分類されていた。何故か魔人も生物に位置していた。多分、人としては見ていないということだろう。
ここの世界では11分類だった。どうやら第1が魔法らしい。魔法が世界に根付いている証拠の1つだろう。
テオンは魔法については比較的に簡単そうなの本を、魔物については図鑑を持ってきた。そして、途中で気になった魔石についての本と進化についての本など10冊態度を持ってきた。本が多いのでポーチに入れといた。
丁度、真ん中辺りに本を読むスペースがあるのでそこを使って読む。
まず、魔法についての本から
曰く、魔法の素は体に流れている魔素である。
曰く、その魔素を変換した物を使い世界を欺く事で発動できる。
曰く、個によって世界を欺きやすい属性が得意属性になる。
曰く、魔法媒体があると魔法を放ちやすくなる。
曰く、世界を欺く為に詠唱が必要である。
曰く、極々稀に詠唱をせずに魔法を放つ者がいる。
曰く、強化魔法だけは自分を欺く為詠唱がいらない。
曰く、魔法によって起こる現象に名前を付けると、イメージしやすく魔法を放ちやすくなる。
曰く、世界を欺くので、大きい魔法になる程難易度が上がる。
曰く、難易度は下から順に
下級→中級→上級→戦術級→戦略級→X級
と、なっている。
曰く、戦術級は街を破壊する事が出来る程の魔法である。
曰く、戦略級は国を破壊する事が出来る程の魔法である。
曰く、X級は損害が計り知れない。
曰く、魔法は組み合わせられる。
曰く、魔法には無限の可能性がある。
と、書いてあった。
テオンは試しに詠唱をしないで指先から電気を出してみる。
ビリリリッ
(できてしまった。じゃあ、この前俺が盗賊の前でやったあの詠唱は無駄だったのか。厨二病みたいで恥ずかしい)
テオンは顔を赤く染めて悶えていた。
しばらくして、恥ずかしさに悶えていた心を持ち直して、少し魔法の鍛錬をしてみた。
魔素を体に循環させる様な感覚で操ってみた。ちょっとずつちょっとずつ魔素を動かしていく。
魔法を発動する時は斧槍に向かって魔素を移動させる様な感じでやっていたが、それよりも体全体に魔素を流していた方が直ぐに魔法を放つ事が出来る。だから、こういう地味な鍛錬も必要らしい。
(初めてだから、慎重にしないとな)
だが、テオンの心構えは儚く終わりを告げる。何故ならいきなり爆発音がきこえたからだ。
ドッッカァァァン!!!!!
凡そこの世の物とは思えない程の音が耳をつんざこうとする。
その一瞬だけ、気が散り、妙に力んでしまった。
その一瞬が大きなミスを招いた。
体の魔素が一気に身体中に流れ込んでしまった。
一気に流れた所為で魔素が暴発し、意識が遠のいていく。
視界がブラックアウトする。
「うっ」
どれ位の時が経ったのだろうか。
意識が戻ってきた。
(喉が渇いているしお腹も減ってるな。トイレも行きたい。大分時間が経ったんだな)
テオンは地下室を出て行こうとする。が、扉が開かない。鍵が掛かっているようだ。
扉を叩いても返事が返ってこない。
テオンは遂に強硬手段をとった。
手に魔素を固めて思いっきり雷魔法をぶっ放した。
ビリリリッッ
という音とともに扉が壊れた。否、焼けたのだ。
扉が倒れるとギルド内にいた人から一斉に視線を受ける。
その中で1番ガタイが良いリーダーらしき人が近くに寄って来た。そして、近くに居た御付きの人みたいな人に声を掛けた。
「何故、地下書庫から人が出てくるのだ?全員、避難を完了したのではないのか?」
「す、すいません。一度声をかけた時に返されなかったのでてっきり誰もいないかと」
「一度中に入って確認を取れと言っただろう!」
「す、すいません」
そして、自分の方に顔を向けた。
「御仁よすまぬ。次の物資の輸送の馬車に帰りに連れて行ってもらえるよう便宜するから許してくれ」
「いえいえ。地下書庫で魔素の循環をやっていた時に勢い余ってやり過ぎてしまい、気を失ってしまいまして」
「そうか。このギルドではどうなってるか知らんが、あんまりこういう所で魔法の練習をするのはいけないと思うぞ」
「分かりました。次からは気を付けます。それで1つ質問をいいでしょうか?」
「あまり時間がないから手短に頼む」
「さっき、魔法の練習をしていた時に爆発音が聞こえたのですが何が起きたのですか?」
「隕石が落ちた」
「は?」
「黒き星が落ちてきた。黒き星の伝承は知っているよな?」
「すいません。最近遠くの国からここに来たもので」
「そうか。なら話そう、と思ったが時間がないから俺の後ろにいるやつに聞かせてもらえ」
「ありがとうございます」
「そうだ、私の名前はオーギュスト=バーロンだ。隣のバレンという町で男爵をやっている。何かあれば頼りにして来てくれ」
「私の名前はテオンと言います。男爵だと知らずに非礼をお詫びします」
「いや、俺はそんなこと気にしないから大丈夫だぞ。フェアル後は頼むぞ」
と、言いオーギュストはギルドを数人の者と一緒に出て行った。そして、オーギュストの後ろにいる人が出て来た。
「こんにちは。私はオーギュスト様の下で執事をやっているフェアル・マッジと申します」
「よろしくお願いします」
「それではあまり時間がありませんので歩きながら状況説明と先程の伝承をお伝えします」
と、言ってギルドを後にした。空は少し暗かった。
(そういえば本をポーチに入れたままにしちゃった。まあいいか、どうせ火事場で気づかれないでしょ)
「まずは状況説明を。今から約4時間前に西の空に黒い星が見えるという報告を受けました。それから1時間後迷いの森に黒き星が落ちました」
「迷いの森っていうのはここの外にあるあの大きな森?」
「そうです。そして、それから30分後この街からの避難が開始されました」
「なんで、避難する必要があるの?」
「それは伝承の時にお伝えします」
「は、はあ」
「ちょうど10分前に街民全ての避難が完了しました」
「早すぎませんか?」
「いえ、事態は急を要する事でしたのでこれでは逆に遅すぎする程です」
(一体、その伝承とやらはどれだけ危険なんだよ)
「そうですか」
「そして今はここ周辺の名のある冒険者を集めて少数精鋭で迷いの森への強行偵察をしようと準備を始めている所です」
「そんなに」
「いえ、この後自国や他国から軍隊が派遣され調査及び掃討がなされると思います」
「そういえばなんでオーギュストさんはここに来てるの?」
「オーギュスト様は元々冒険者で名を上げて貴族になったという異色の経歴の持ち主なので冒険者から熱烈な支持を得ているため、冒険者を纏める為に派遣されました」
「成る程」
「では、今から伝承をお伝えします
昔よりも遥か昔。森で狩りをしていた巨人に黒き星が落ちてきた。だがその巨人は死なずに大きな力を持った。その巨人は自分を神と名乗り、当初はあらゆる者に支持されていた。が、その巨人はある時を境に人を殺し始めた。だが、誰も止められない。ある時を境にその巨人は街を壊し始めた。だが、誰も止められない。ある時を境に国を滅びさせた。だが、誰も止められない。そしてその巨人がこの世界を失くそうした時に空より白き星が降って来た。その星に巨人の子に当たった。その子は父を苦しながらも倒した。だが、それと同時にその子も死んだ
という伝承です。もし、これが本当ならば直ぐにその神とやらを殺さなければいけません」
「成る程」
「おや、どうやらちょうど馬車が来たようです。道中をお気を付けて」
「ありがとうございます」
そう言って、テオンは馬車に乗り込んでいった。のちに起こることも知らずに。
やっとできた。
次話からは違う人の視点になると思います。
面白ければブクマや評価、コメントをお願いします。
多分これからも不定期になりますがよろしくお願いします。