第4話 凡人は草原をさまよう
スライムから逃亡して私は草原をさまよっていた。
スライムから離れて、息切れを起こさないように小走り程度の速度でスライムの逆方向へと進む。ある程度距離をとり、振り返るとスライムから逃げ切っていたようで安心した。
それから辺りを見回すと草原と木々の生い茂る森が見えるだけであり、森は魔物が多そうな気がするので森の反対方向へと草原を進む。
先のほうに葉の枯れ落ちたであろう大きな木が生えているのが見えたのでその木を目指して歩き出した。
「とりあえず木に登って、辺りに何か目印になりそうなものはないか調べてみよう」
独り言が多い気がするが三十路の独身者なんてそんなものだ。テレビを見て、時に1人で笑い、1人でツッコミを入れる。そんな事を考えながら歩いていくと木を目視できるところまで来ていた。
木は10メートルくらいの高さで、枝別れが多く登りやすそうに見える。
じっと木を眺めて一息つく、木の周囲や枝に見える限りではモンスターはいないらしい。
次はもう少し木に近づき、足元に落ちていた石を握りしめ、木に向かって投げつけた。
当てる自信はなかったものの運良く1回で木に当たった。
いつでも走りだせるようにじっと木を観察しながら全身に力を入れる。数秒間が長く感じ、額から汗が流れるのを感じた。
10秒ほど時間がたって私は息をついた。
良かった。枝に擬態したり、木のうろなどに住むモンスターはいなかったようだし、木自体がモンスターってこともなかった。トレントとかこの世界にいるかはわからないけど注意しておくにこしたことはない。
木登りなど子供時以来やったことはないが、出来ないなど言える状況ではない。いつ日が暮れてくるかわからないのだ。
自分自身を鼓舞しながら下を見ないようにして必死で木を登る。
なんとか木を登り、周りを見渡してみた。
街や集落は見つからなかったが、人が通っているであろう痕跡を発見した。
「やった! 道だ! 草が生えてない箇所が続いてるってことは人の行き来がそれなりにありそうだ、運が良ければ馬車とかも通るかも知れない」
道は見つけた。私の視界の先に水平に走る道がみえる。しかし、行き先は左右どっちも不明。看板なんかあるはずもない。これから私はどっちの方向に進むか決めなくてはいけない。