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断罪イベント?な件について…

「まて、証拠も無く第1王子たるレイモンドに謀反の嫌疑をかけることは許されんぞ」

 ジオニール陛下が即座に怒気をはらんだ言葉を発する。


「うちの可愛いアイネリアを傷害事件の犯人のように言うからにはそれなりの証拠があるのだろうな」

 お父さまもお怒りのようだ。


「カスミは優しい子だ。理由もなく人に怪我をさせることはあり得ない」

 ジョーイさんも鋭い視線で二人の公爵を睨んだ。


「もちろん、証拠はございます。

 うちのナターシャとステットブルグ公爵家のイリアは大変懇意にさせていただいていますが、昨年の夏に階段から突き落とされて骨を折るなどの大怪我を負いました。

 その犯人がそこにいるアイネリア・フォン・ヘイゼンベルグ侯爵令嬢とカスミ・レム・ワットマン男爵令嬢なのです。」


 大きな声で私たちの罪をまくし立てたのはヨークシャー公爵である。


 何を言っているのだ、このおっさんは!

 あの怪我は私とカスミちゃんを階段から突き落とそうとしたナターシャさんとイリアさんが、レビテーションで空中に逃れた私たちに対応できずに自滅した、完全な自損事故である。

 怪我をした直後に、今ヨークシャー侯爵が言った筋書きの嘘八百をナターシャさんとイリアさんも主張したが、たまたま階段を上がってきていたレイモンド様が私たちの身の潔白を証言ださり、二人の公爵ご令嬢には偽証をしない旨のきついおしかりが学園から行われたのだ。


 私があまりの無茶な言いがかりにあきれていると、レイモンド王子が先に口を開いた。

「その件については、僕がたまたま目撃しており、完全にナターシャさんとイリアさんの自損事故であると結論が出ているはずです」


 その言葉を聞いてステットブルグ公爵がにたりといやらしく笑う。

「それこそが、レイモンド様と侯爵令嬢、男爵令状の3人がグルである証拠なのです。

 そもそも考えてみてください。

 私どもの娘たちは公爵家の子女として幼少の頃から英才教育を施しております。

 失礼ながら、そちらのご令嬢二人は、片や平民育ちの成り上がり、片や誘拐されたあげく記憶喪失で冒険者上がりと、とても信用できる人物ではないのです。」


 更に、ヨークシャー侯爵がまくし立てる。

「しかしながら、冒険者としての戦闘力は高く、そこに目をつけたレイモンド様がこの二人を自陣営に取り込んで謀反を企てたというわけです。

 なにせ、レイモンド様は妾腹ゆえ、まず今のままでは王太子になれませんからな。

 その証拠に、レイモンド様は学園卒業後のこの一年、執務に励んでいるように見せかけて、必ず行方不明となられておられました。

 私どもの調べでは、その姿をくらました時間に、国家転覆の奸計を練っていたいうことが分かっております」


 めちゃくちゃだ、このおっさん。

 言うに事欠いてレイモンド様が夕方抜けだし謀反むほんたくらんでいるなど。

 レイモンド様は確かに毎日夕方になるとお城を抜け出していたが、その行き先は学園の訓練室である。

 そこで私たちと剣や魔法の訓練を卒業後も続けていたのだ。

 このことは私とカスミちゃんだけでなく、訓練に参加していたキャスバル王子やロバート君、アーサー君、クラスメイトのみんなも見ている。

 なにせ学年が上がるごとに放課後の訓練の参加希望者が増え、最後の方は抽選になっていたくらいだ。

 まあ、初期から参加していた王子たちと講師を務めていた私たちは毎日強制参加だったが…


「証拠はあるのか!」

 ジオニール王は一喝いっかつするが、二人の公爵はひるまない。

「もちろんでございます。証人これへ!」


 ヨークシャー侯爵が入り口の方へ叫ぶとドアが開き、3人の男が入ってきた。

 いかにも胡散臭そうな3人である。私のエンパシーでもビンビンと悪意が伝わってくる。


「早く証言せよ!」

 ステットブルグ公爵にせかされてリーダー格らしい一際怪しい男が口を開いた。

「へい。私どもはたまたま夕方から下町で飲んだくれていたときに、そこにおられる方が犯罪ギルドに入って行くのを見ました。

 身なりもよい方が非合法組織の犯罪ギルドに入って行くなど何かあると思い、こっそりのぞいて話を盗み聞きしたのです。

 そのときそのお方は、近く王をしいするので腕の立つものをできるだけ多く集めるように言っておりました。間違いありやせん」

 リーダーの証言に他の二人も盛んに頷いている。


 本当にめちゃくちゃだ。犯罪ギルドといえば、私とお父さまの世界半周を妨害してきた連中で、そのときの効用主は将にこの二人の公爵だった。

 むしろヨークシャー侯爵とステットブルグ公爵が犯罪ギルドで犯罪者を募ったという方がしっくりくる。


 ここまで考えたとき、何かパーツがカチリとはまったような気がした。


 もしかしたらヨークシャー侯爵たちは国家の乗っ取りを企んでいるのではなかろうか。


 最初は娘たちを使って、キャスバル王子のきさきの座を射止め、影から国を牛耳ろうとしたのだ。


 しかし、婚約者が私かカスミちゃんになりそうになったので、私たちを追い落とすために今回の茶番を仕組んだ。

 その際、キャスバル様より冷静沈着で扱いにくそうなレイモンド様をのぞくために、偽証を部下にさせて、冤罪を着せようとしている。


 そう考えると、本日の二人の公爵の奇行も納得できる。

 ナターシャさんとイリアさんは断罪の中心にいてもいいはずなのだが、それぞれの父親の影に隠れて真っ青になっているところを見ると、この計画自体に乗り気でないのか、本人たちも知らなかったのかというところか…



 しかし、これはあまりにも無茶なのだ。

 この件にはキャスバル様他、アリバイの証人が余るほどいるのだから。


「レイモンド、侯爵はああ言っているがお前はどうだ?」

 ジオニール王が戸惑いを隠せずに聞くと、レイモンド様が答える前にキャスバル様が大声で怒鳴った。


「いい加減にしろ!ヨークシャー侯爵、ステットブルグ公爵!

 でたらめもここまで行くとしゃれにならない。

 兄上にはれっきとしたアリバイがある。

 しかも、そのアリバイ証人は他ならぬこの俺だ!

 俺以外にも多くの学園生が証言できる。

 王族にこのような濡れ衣をかけるとは、貴様たちの方がよからぬことをたくらんでいるのではないのか!」


 王子、ご立腹である。

 他の卒業生の中にも放課後の訓練参加者たちを中心に頷いている人が多い。


「なっ、これはどういうことだダーラス。

 レイモンド王子は一人で姿をくらましているからアリバイはないはずではなかったのか!」

 キャスバル王子のアリバイ証言に動揺したヨークシャー公爵が胡散臭い三人組のリーダーに聞く。

「あいすいません、公爵様。

 あの王子が毎日王城から姿をくらましたのは本当でごぜえます。

 あっしどもは手分けした尾行したのですが、王子の移動速度があまりにも速く、毎日途中で見失ってたのでごぜえます…

 ですから報告では、『レイモンド王子は毎日夕方城を抜け出し、どこかに猛スピードで走って行く』とだけお伝えしたはずですが…」

「なっ…」


 手下の言葉に二の句を継げなくなって二人の公爵は固まった。


 確かに、レイモンド王子のステータスは並みの大人では足下にも及ばない。

 というか、毎日私たちと訓練した成果が如実に出て、レイモンド王子もキャスバル王子も人外への道を一歩踏み出しかけているのだ。

 そんな王子に、普通の人間が尾行を試みても達成できるはずが無いのである。

 尾行に失敗したダーラスという男は、自分が見たところまでを伝えたのだが、その先を勝手に都合よく解釈した公爵が盛大に勘違いして話をねつ造したと言ったところか…


 キャスバル王子の証言でフリーズしてしまった二人の公爵に向かって、ジオニール王が威圧を込めて声をあららげる。

「王族に対する暴挙と言っても過言ではないぞ、ヨークシャー侯爵、ステットブルグ公爵!

 二人には謹慎、蟄居申しつける」


 王のこの言葉で、固まっていた二人の公爵が再起動した。

「こうなっては致し方ない。

 プランBに変更だ!

 いいな、ステッドブルグ殿」

「心得た!ヨークシャー殿。

 者ども出会え!!」


 バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!

 二人の公爵の声に反応し会場の四方向全てのドアが激しく開け放たれた。


 本話が本年最後の投稿です。ここまでおつきあいくださった方、ありがとうございます。

 よいお年をお過ごしください。

【追記】

 本話は二人の公爵が冤罪をかけようとして失敗したという話でした。

 これにて、学園編はひとまず終結します。

 次回から心証突入…というか本話の最後で既に心証突入しているようなものですが…

 こんな話ですが、あと少しおつきあいください。


 私事ですが1月2日から札幌へ遊びに行く予定ですので、明日からしばらく更新が止まるかと思います。

 昼間はスキー場、夜は札幌市内というサイクルを1月7日まで続けます。

 その後も、溜まった仕事(リアルの仕事)に追われることが予想されますので、更新のペースが乱れると思います。ご容赦ください。


 尚、札幌にコンピュータ持って行きますので、もしかしたら更新する日があるかも知れません。


 それでは、皆様、今度こそよいお年を!

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