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予約が捌ききれるか危険な件について……

本話は、連載時に構想があったものの執筆する時間がなく飛ばしていた話です。

連載終了後に付け足したものですので、もしお気づきの点があれば感想欄などでお知らせください。


 さて、遠足の翌週、私とカスミちゃんが登校すると、なぜか大勢のクラスメイトや先輩方に教室の前の廊下で取り囲まれた。


「待っていたぞ、二人とも」

 キャスバル王子が先頭に立って声をかけてくる。


「キャスバル様、それにレイモンド様までいったいこんな朝早くから何事ですか?」

 二人の王子がそろい踏みで多くの生徒を後ろに引き連れ代表して私たちに話しかけているのだ。


『まさかの断罪イベント???』

 私はカスミちゃんと視線を交わす。二人ともこめかみから冷や汗が流れる。


 すかさずエンパシーで集まった生徒達の感情を把握するが、怒りや憤りは感じられない。

 むしろ期待と欲望を感じる。


 焦る私とカスミちゃんに向かって、我慢できないとばかりにキャスバル王子が声を発する。

「約束の肉まんとサンドウィッチを要求しに来た。

 いつ買うことができるんだ」

 キャスバル王子の大きな声に、真横のレイモンド王子と後ろに控えているその他大勢が一斉に頷く。


「アイネちゃん、どうやら遠足の時に売り切れた後、約束した分のことみたいね」

 カスミちゃんの言葉に私は頷くが、ふと疑問が生じてキャスバル王子とレイモンド王子の方を向き質問する。


「用件は理解しました。他の方は分かりますが、キャスバル様もレイモンド様もあのとき肉まんやサンドイッチを召し上がったのではありませんか?」


「うっ……

 確かにそうだが、全種類制覇したわけではない。

 他のも是非所望したい」

「僕も同意見だ。

 僕が来たときには最後の肉まんが一個だけだったので、サンドイッチやカレーマンは見てすらいない」

 キャスバル王子の言葉にレイモンド王子が乗っかって自分たちの肉まんを食べる権利を主張する。


「どうする、アイネちゃん」

 カスミちゃんが集まった人の多さに少し困惑しながら、私に聞いてくる。

「この人数を満足させるほど作るとなると、大きな厨房を借りないと無理かも知れないわね」


「それなら、城の厨房を使い放題にしておく。まかせておけ」

 私の言葉を聞いていたキャスバル王子がすかさず口を挟む。


『いや、それはまずいだろ……

 私事わたくしごとで城の厨房を占拠したら……』

 心の中で突っ込みながら、私は笑顔で言葉を選ぶ。

「それには及びません。

 学生食堂に交渉してみます。

 皆さん、今しばらくお待ちください

 いくわよ、カスミちゃん」

 私はカスミちゃんに声をかけ、脱兎のごとく餓えた人の群れの隙間をすり抜けて食堂へ向かった。


 食堂は、朝の営業中だった。

 寮生は寮で朝食を取る人が多いが、平民学生の仲には生活費節約のため自宅通学している人も多い。

 忙しい庶民の朝、早朝に自宅で朝食を取れない人や、一部の学校職員の人がこの時間何人か学生食堂を利用している。


「「おはようございます」」

 私はカスミちゃんと声を揃えて厨房で働いているスタッフのおばちゃんに挨拶する。


「はい、おはようございます。

 おや、見ない顔だね。

 朝の定食ならそっちに出ている皿を一つと、向こうのロールパンと飲み物がセットになっているよ」


「いえ、朝食は寮でいただいてきました。

 今朝はちょっと厨房を使わせていただけないかと思って来たんです」

「二人は寮にいると言うことは貴族かいいところのお嬢様だろ。

 二人が厨房を使うのかかい?珍しいね。」


 私とカスミちゃんは、これまでの経緯と私たちが特殊な事情で料理もできることを説明し、厨房の利用許可を求めた。


「なるほど、そういうことならちょっと食堂の長に聞いてきてあげるよ。

 時々自分たちで料理して宴会をするグループに貸すこともあるから、時間帯さえ上手く調整すれば希望に添えると思うよ」


 おばちゃんはそう言うと食堂の奥のスタッフルームへ消えて行く。

 ものの一分もしないうちに、おばちゃんは初老の少しふっくらしたいかにも料理長という風体をした男性を連れてもどってきた。


「あんた達が厨房利用希望者かい」

「「はい、そうです」」

 男性の問いかけに、私とカスミちゃんが同時に答える。


「わしはここの食堂の責任者をしているトミーだ。

 それで、いつ食堂を使いたいんだ」

「できれば放課後の早い時間にお借りしたいと思います」

「それならおそらく問題ない。

 ここは昼がメインで、朝と夕は利用者が少ないからな。

 昼の片付けが終われば使っていいぞ

「ありがとうございます。

 それでは明日の放課後利用させてください」

 トミーさんの了解が得られ、早速利用の詳細を詰めて検討する。


「それで、食材はどうする。こっちで用意するか?」

 私とカスミちゃんは顔を見合わせ視線で頷く。


「大変ありがたい申し出ですが、今日の放課後、私たちで購入しておきます」

 私は、トミーさんの申し出をお断りする。

 なんと言ってもベーキングパウダーはこの世界にない。

 カスミちゃんの溜まり醤油も調味料として認識されていない品だ。


「そうか、それならもし氷室の使用を希望するなら、明日の朝食材を持ち込んでおくといい。

 これくらいの時間なら、朝のお客さんもあらかた捌けているから、こっちで預かっておくよ」

「ありがとうございます」

「よろしくお願いします」

 トミーさんの申し出に礼を言い、私は餓えた生徒達の持つ教室へと踵を返した。


「どうだった?」

 私たちが教室に戻ると、教室前の廊下に待機していた生徒達を代表してキャスバル王子が聞いてくる。

「明日の放課後、厨房を貸してもらえることになりました」


「うおおぉぉーー」「やったーー」「またあれが食べられるのね!!」「今度こそ必ず手に入れるわ」

 私の答えを聞いて生徒達から歓声が上がる。


「それで、皆さん。どれとどれを食べますか?

 作る量を決めたいので、ご自分が食べたいものを言ってください」

「あ、食材の価格くらいは料金に反映させてもらいますからよろしくお願いしますね」

 私とカスミちゃんの言葉に頷きながら、キャスバル王子が少し考えて口を開く。


「値段は遠足の時と同じでもかまわない。

 あの味がもう一度食べられるなら、いくらでも払おう」

 太っ腹である。


「いえ、それには及びません。

 輸送コストもかかりませんから……」

「それなら、中銀貨1枚でどうだ」

 私が価格を提示しようとしたら、キャスバル王子が先に値段を決めてきた。


 遠足の時は大銀貨1枚、およそ日本円にして1000円を受け取ったが、それは遠足の砂浜までの輸送費込みの価格である。

 中銀貨1枚は日本円で500円相当……

 これでももらいすぎのような気がする。


 日本のスーパーマーケットやコンビニでは肉まんは100円ちょっと、サンドイッチも一つなら100円ちょっとだ。

「どうする……

 カスミちゃん……」

 私はカスミちゃんに相談する。


 カスミちゃんは少し考えてから一つの案を出してくれた。

「価格はキャスバル様の案でいきましょう。

 その分食材に費用をかけて作ればいいと思うわ」

「そうね……

 そうすればきっともっと色々できるわよね……」


 私たちはおおよその計画を練り、集まっている生徒のみんなに向かって話す。

「皆さん。価格は一つ中銀貨1枚にします。

 今から予約を取りますから、食べたいものに手を上げてください。

 二つ食べたい人は両手を上げてくださいね」


「三つ食べたいときはどうするんだ」

 キャスバル王子が私の説明に突っ込んできた。

 この王子様はいったいどれほど食べようというのか……


「今回はお一人様一つの種類につき2つを上限とします。

 それでも4種類コンプリートすれば最大8個買えますから、きっとお腹いっぱいになると思います」

「分かった。今回はそれで納得しよう。

 早速だが俺は全種類2つで頼む」


 キャスバル様は育ち盛りなのか、最大数をいきなり注文してきた。

「キャスバル様、それでは全種類のコールで両手をあげてくださいね」

「分かった」

「それでは予約を受け付けます。

 まずは肉まんを予約される方!」

 私の声に男子のほとんどが両手を挙げた。

 これは作りきれるだろうか……

 いささか不安になりながらも、私はカスミちゃんと二人で数え間違いがないように気をつけて上がっている手の数を数えた。


 結果、肉まん53個、ピザまん31個、カレーマン47個、サンドイッチ84個となり、あわせて200を超える注文が舞い込んだ。

 果たして明日の放課後だけでこれだけの食材を調理できるのだろうか……

 いささか不安である。






 さて、食材の調達も無事に終わり、今はカスミちゃんと寮へ戻る途中だ。

 大きなリュックサックを食材で満杯にした私たちは、周囲の人からかなりの注目を集めている。


 それはまあ、小柄な制服少女二人が自分と同じくらいの大きさのリュックをぱんぱんにしてならんで歩いているのだから、目立つなと言う方が無理である。


「ねえ、カスミちゃん……

 これ、明日の放課後だけで調理し終えるのかな……」

 私は120食分の肉まん材料に思いを馳せながら疑問を口にする。


「普通にやれば無理じゃないかな……」

 90食分の照り焼きサンド材料を背負うカスミちゃんは少し考えてから答える。


「やっぱりそうだよね……」

「どうするのアイネちゃん」

「超能力を駆使するにしても、人目があるところでは無理ね……」

「今夜の内にある程度仕込んでおかないと行けないと思うはわ」

「やっぱりそうよね」


 結局結論は最初から決まっていたのだ。

 物理的に一から調理していては放課後の2時間くらいでは間に合わない。

「カスミちゃん、今晩迎えに行くわね。

 これだけの材料を何とかするには寮だと無理だわ」

「やっぱり月面コロニーで何とかするしかないよね」

「ええ、あそこなら超能力は使い放題だから、短時間で何とかなると思うの」

「全面的に賛成するわ。というか、それしかこれをのり来る方法ないよね」


 私たちは落ち合う時間を約束して、一旦それぞれの部屋へと引き上げる。


 サラセリアでの活動を手早く終えて、夜の10時きっかりにカスミちゃんと月面コロニーへテレポートした。


 ここは私が拠点として使っている部屋だ。

 マンション形式で台所だけは十分広く作ってあり、同じ構造の部屋がいくつも空き部屋として存在する。

 電力、火力、水道などはESPを駆使してほぼ日本のマンションと同等の品質が提供できる状況だ。

 足りない調理器具はその場で作ればいい。


 私は自分がいつも使う部屋のキッチンへ食材を下ろして準備する。

「じゃあ、アイネちゃん、隣の部屋借りるね」


 カスミちゃんは隣の部屋のキッチンを使って照り焼きを作る準備に入る。






 何とか深夜1時に仕込みを終え、明日は蒸し器で加熱するだけで肉まんを提供できるところまで仕上げることができた。

 時を同じくして、明日照り焼きを加熱した後、レタスと一緒に食パンに挟めばサンドイッチが完成する状態で、カスミちゃんが合流する。

「何とか睡眠時間が確保できそうね」

「正直、一時は徹夜も覚悟したのよね」


 カスミちゃんと互いの健闘をたたえつつ、明日の放課後にベストなパフォーマンスを発揮できるように二人とも月面コロニーで爆睡した。

 このときの私たちは、まさかあまりの好評ブリに、食堂で定期的に照り焼きサンドと肉まん提供せざるを得なくなるなど、夢にも思っていなかった。




 



よろしかったら新作『リピート勇者』も応援お願いします。

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