何故か儲かった件について…
「全然足りん!」
「腹減ったー!!」
私が取らぬ魚のお刺身で妄想に浸っていると突然背後から声をかけられた。
「お前たちの弁当、美味そうだな」
「アイネリアさん、カスミさん、よかったら少し分けてくれないか」
キャスバル王子ご一行がよだれを垂らしそうな状態で、私たちの持っている特製サンドイッチと肉まんに熱い視線を送っている。
どうやら自分たちで持ってきたお弁当では足りなかったようだ。
「どうする。カスミちゃん」
「私は作りすぎてたくさんあるから分けてもいいと思うけど…」
「そうよね。私もたくさんあるけど…」
私が気にしているのは、私の肉まんもカスミちゃんの鶏肉照り焼きサンドも、私のパイロキネシスで加熱しないと美味しくいただけないかも知れないという点だ。
冷め切った肉まんには、どう考えても食指が動かない。鳥の照り焼きも美味しさ半減だろう。
この一週間、土魔法で目立ちまくっているので、今更という気もするが、一般的にこの世界の火魔法は物に点火する魔法として認識されており、温度を自由に調整できる魔法とは思われていない。
私はひそひそ声でカスミちゃんに相談する。
「パイロキネシスの温度調整ができるってばれてもいいと思う?」
「うーん、どうだろう。やっぱり冷めたままじゃ美味しくないだろうし、秘密が守れるなら分けてあげるってことで、どうして温かいのかは聞かない約束して見たらどうかな」
「頼む、金なら払うから少しくれ」
「相場の2倍までなら払うぞ」
私たちの相談を、ただではあげられないという相談と勘違いしたのか、キャスバル様やアーサー君から買取の打診があった。
「分かった。分けてあげるけど、一つ約束して。
私たちのお弁当はある秘密の方法で温かい状態なんだけど、そのことは決して突っ込まないで欲しいの」
私の提案にみんな頷いている。
「それで、代金はいくら払えばいいんでしょう?」
ロバート君が財布を取り出して硬貨を何枚か取り出す。
「それは、食べてみて美味しかったらでいいわ」
「私も、それでいいと思います。皆さんの口に合うか分からないから」
カスミちゃんも同意する。
合意が形成されたところで、私は3種類の肉まんを、カスミちゃんは特性サンドイッチを三個取りだし、一旦私が預かって加熱してから王子たちに渡した。
「うおっ、本当に温かいぞ」
「驚いた。いったいどうやって…。
いや聞かない約束だったな…」
アーサー君とキャスバル王子は少し驚いたがすぐに食欲が優先したようで、まずはサンドイッチにかぶりつく。
「うっ美味い。」
「何だ、この鶏肉の味付けは!」
「甘辛くて柔らかくて、それでいて歯ごたえと旨味もあるなんて…」
どうやら三人ともカスミちゃん特製サンドが気に入ったようだ。
あっという間にサンドイッチを食べ終えた三人はバランの葉に包まれた肉まんを見て、どうしていいか分からず固まった。
「アイネリアさん、これはどうやって食べるんでしょうか?」
ロバート君が不思議そうに尋ねる。
「このまま食えるのか?」
アーサー君はバランの葉っぱごと食べそうな勢いだ。
「いえ、葉を剥がして中のパンを召し上がりください」
私は慌てて説明した。
三人がバランの葉を剥がすと湯気が立ち上り、肉まんのいいにおいがする。
キャスバル王子がカレーまん、アーサー君が普通の肉まん、ロバート君がピザまんにかぶりつく。
「うっ熱い。熱いけどなんだこの香りは!少しぴりっと辛くて美味い。しかも中は挽肉がたっぷりだ。野菜も刻み込んでいるのか!」
どうやら王子は気に入ったようだ。
「こっちはお肉の味が濃厚で塩こしょうの味付けが絶妙だ」
「僕のはトマトの風味でちょっと酸味もきいています。美味しいですね!」
アーサー君とロバート君にも好評で何よりだ。
肉まんを食べ終えた三人はなにやら相談をはじめ、すぐにこっちを向いて大銀貨6枚分を渡してきた。
「美味かった。これなら1つ中銀貨1枚はするだろうから、相場の2倍で大銀貨1枚を支払うことにした。」
「これでいいですか?」
キャスバル様とロバート君からサンドイッチと肉まんの代金の説明があった。
大銀貨6枚というと6000マール、日本円で6000円だ。
肉まん三個とサンドイッチ三つでこの金額は少し多すぎるような気がする。
「あの、もらいすぎのような気がします」
私がおそるおそる言うと、隣でカスミちゃんも盛んに頷いている。
「いや、これだけ美味しい上に、ここまでの輸送コストを考えると妥当な線ではないかと思います」
ロバーツ君が金額の算定理由を説明してくれた。
これはつまり、日本でも観光施設や遠隔地では自動販売機の料金が割増になっているところがあるのと同じと考えればよいのだろうか。
結局私たちは銀貨6枚を受け取ることにしたのだが、騒ぎはそれでは収まらなかった。




