新入生歓迎遠足に出発した件について…
ヘンリー隊長との夕食を終え、サラセリアの自室にこもるとすぐに学園の寮にテレポートする。
時刻は午前7時50分。
今日の遠足は8時30分にグラウンドに直接集合なので、まだ少し登校するには早い時間だ。
私は学校指定の剣術用訓練腹に着替え、おまんじゅうでぱんぱんにふくれたリュックを背負う。
用心のために先週買った剣も持ち、ベルトへ鞘を固定する。
準備を済ませるとほぼ同時に、カスミちゃんが部屋のドアをノックした。
「アイネちゃん、おはよう。
準備ができていたらそろそろ行きましょう」
「すぐ行くわ、カスミちゃん」
私がドアを開けると、カスミちゃんもぱんぱんに膨らんだリュックを背負い、私と同じように帯剣していた。
「「プッフフフ」」
私たちはお互いの格好を見て思わず笑ってしまう。
まるで示し合わせたようなペアルックだ。
寮の一階では、お弁当を自作しなかった生徒が食堂で好みの食材をバスケットに詰めている。
さすがに貴族の子女が多い学園の寮なので、食堂のメニューもしゃれたものが多い。
普通の朝食は基本食は無料だが、パンとサラダだけなので有料の食材を食べている寮生の方が多いように見受けられる。
持ち出しの弁当は別料金になっているが、美味しそうなものがあれば追加で購入していくのもありだ。
もっとも今回は既にリュックに隙間がないので、追加購入したものを詰め込むのは無理かも知れない。
「カスミちゃん、何か追加で購入する?」
「やめておくわ。
見ての通り作りすぎたお弁当でリュックがいっぱいなのよ。
アイネちゃんはどうする?」
「私も、水筒とお弁当でいっぱいなの。
ポーチに少し隙間があるけど、追加で購入しても食べきれないと思う」
「それじゃあこのまま行きましょう。
ところで何を作ったの?」
「それはお昼のお楽しみよ。
日本のあるファストフードを再現してみたの」
「それは楽しみね。期待していいの?」
「ヘンリー隊長に試食してもらったら好評だったわ。
カスミちゃんは何を作ったの?」
「サンドイッチよ。
もっとも中に挟む具材はこっちのスタンダードじゃないけどね」
「気になるわね。何?」
「それはお昼のお楽しみにしましょう。
私のもちょっと懐かしい味かも知れないわよ」
「楽しみね。お昼が待ち遠しいわ」
私たちは互いの努力の結晶を分け合うことを約束しながら集合場所のグランドに集合した。
片道15キロの道のりは私たちにとってたいした距離ではないが、他の生徒も全員そうかというとそうでもない。
特に体力が無い女子生徒にはかなりきつい道のりだ。
平坦な草原の中の未舗装路は、ときにぬかるみ、ときに凸凹し、ボーッとしたり友達との会話に夢中になったりすると足を取られて転ぶこともある。
普段から素材や獲物を背負って未知無き草むらをかけずるまわってきた私とカスミちゃんは、明らかに他の生徒のものよりも大きい荷物を背負っているにもかかわらず、いつの間にかクラスの先頭を歩いていた。
「あなたたち、そんな大きなリュックを背負っているのに歩くのが速いわね」
クラスの先頭で引率しているキャスリーン先生が半ばあきれ、半ば賞賛して声をかけてくる。
「さすがに冒険者をしていただけのことはある」
「俺たちより元気に見えるな」
アーサー君とキャスバル王子がすぐ後ろから話しかけてきた。
「ありがとうございます。褒めても何も出ませんけどね…」
「依頼で薬草集めなどしていたので野道はなれているんです」
私とカスミちゃんが答える。
「後ろが遅れてきたみたいだから、ちょっと休憩しましょう」
道の半ばを過ぎたところでキャスリーン先生が小休止を宣言した。
前後を歩く他のクラスも休憩しているようだ。
一番遅れているグループに入っていたナターシャさんとイリアさんも追いついてきて、恨めしそうに王子たちと休憩している私たちを睨む。
「あなたたち、そんなに元気なら私の荷物もお持ちなさい」
「そうよ、平民や冒険者風情が貴族クラスにいること自体が間違っているんだからせめてそれくらい役に立ちなさい」
追いつくと同時に絡んでくるとは、本当にこの二人はぶれない。
「お前ら、いいかげんにしろよ」
「それが人にものを頼む態度かよ。
自分の荷物は自分で持つもんだろ」
私たちにかわってキャスバル王子とアーサー君が怒り出す。
「そうですね。二人とも自分がきついからといって人に自分の荷物を持たせてはいけないわ。がんばりなさい」
キャスリーン先生が公爵家の二人をたしなめる。
休憩が終わると二人は渋々という様子で自分の荷物を持ち立ち上がった。




