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重要事項を忘れていた件について…

 サラセリアの伝染病騒動は何とか収束に向かったようで、やっと平穏な日々が帰ってきた。

 私は冒険者として薬草やお肉を短時間で集め、月面都市で爆睡して学園生活に備えるという当初の計画を実践し、授業3日目からは睡眠学習モードを何とか解除することに成功している。

 もっとも、不規則になった睡眠時間のおかげで時差ぼけのような状況が2日ほど続き、剣術と魔法の実践で力加減を誤りそうになったことは内緒である。


 そして今日は金曜日、週末である。

 王立学園は完全週休2日制で明日から2日間はお休みだ。


 王都に別邸がある貴族の子女や自宅がある生徒は、帰宅するのが普通であり、遠方から来ている一般庶民の学生は寮にとどまるのだ。


 カスミちゃんも男爵家の別邸が王都にあり、今は最初の週末と言うことでジョーイさんもこちらに来ているので一旦帰宅するという。

 私たちは一旦寮に帰って、二人で貴族の別邸が並ぶ住宅街へと歩いて帰ることにしていた。

 お父さまやジョーイさんは馬車で迎えに行くと使いをよこしてきたが、王都を見学しながらゆっくり帰りたいと丁重にお断りした。

 それにしても二人ともそれぞれの領地経営は大丈夫なのだろうか。

 何日も領主が留守にしていてはよくないことは明らかだ。


 二人で並んで商店街を歩いているとサラセリアの街を散策していた頃を思い出す。


 学園の制服を着て並んで歩いている私たちは、おそらく一般庶民の学生に見えることだろう。貴族はお供や護衛もつれずに出歩いたりしないからである。


 屋台の串焼きをおやつに購入して、途中の中央公園で休憩し王都の景色を堪能する。

 以前、世界半周の結果報告できたときは慌ただしくてゆっくり見ることはできず、通り過ぎただけのようなものだ。

 今回も入学のばたばたでほとんど王都の様子を見ることができていない。

 将に今日が初めての王都観光という所だ。


 学園の授業が終わって時刻は4時過ぎ。まだまだ明るい時間だ。


「それにしても二人で街を歩くのは久しぶりだね」

 カスミちゃんが焼き鳥の串をほおばりながら幸せそうに笑っている。


「そうだね。1年と少し振りかな…」

「ねえアイネちゃん。明日のお休みは何か予定があるの?

 もしなかったら久しぶりに二人で冒険者してみない」

「うん、いいけど…、妹のカオリーナも一緒でいいかな?

 週末には相手をしてあげる約束なのよ」

「いいけど、冒険に連れて行ってら危なくない?

 たしかまだ4歳くらいだよね…」

 カスミちゃんは魔獣の捕獲に小さい子を連れて行くのが心配なようだ。


「たぶん大丈夫だと思うよ。

 言ったかどうか覚えていないけど、カオリーナも超能力者なのよ。それも天然の…」

「えっ、それじゃあ妹さんも前世持ちの転生者だったりするの?」

「うーーん、たぶん違うと思うわ。今のところ普通の4歳児だから。ちょっと超能力が強いだけの…」

「…………。

 超能力が強いの?」

「たぶん、この世界の基準で言うとかなり強いと思うの。

 ステータスを開かせてみたんだけどまだ数字が読めないらしくて正確には分からないのよ。

 けど魔力は4桁言ってるみたいなの…」

 カオリちゃんは目を丸くしてビックリしている。


「4桁って1000オーバー?

 字が読めないのに何で分かったの?」

「数字は読めないけど数は数えられるのよ。

 まだ1から5までしか正確には数えられないけど…

 それで、ステータスにいくつ数字だ並んでいるか数えさせたら、他のは全部1桁だったのに前から2番目の項目だけが4つ数字があるって言うのよ…」

「前から2番目って言うと…」

「そう、魔力の項目なの。

 魔力が少なくとも1000以上あると言うことなのよ…」

「すごいわね、4歳で1000以上とか…

 私は記憶を取り戻すまでは100もなかったわ」

「そうよね。

 私は胎児期から超能力を使いまくっていたからもっとあったけど、前世の記憶もないただの4歳児が1000以上とか、この世界の基準からするととても大きい数値だと思うわ」

「それでも狩りに連れて行くのは危なくない?」

「カオリーナは、自分に危害を与えるものには容赦なくサイコキネシスでそこら辺のものをぶつけるのよ。

 たぶん魔獣クラスでもビッグラビットくらいなら撃退すると思う…

 それに、最近は私とサイコキネシスの練習もしていたから魔力量はもっと増えていると思うのよね。暴走していなければいいけど…」

「暴走…、それは大変だね…

 でも、確か貴族は5歳で魔力測定があるって前に言っていなかった?

 私は5歳の頃、平民の娘していたからやったことないけど、前アイネちゃんが数値をごまかすのにヘトヘトになったって話してたよね」

「そうなのよ、それが心配なの…」


「……」

「…… っん?

 私たち何か忘れていないかしら…」


「そういえばアイネちゃん、入学式で1週間後にステータス測定があるって言っていなかった?」


「そうだ!

 学園の生徒は入学後にすぐステータス測定があるって言ってた!

 どうしようカスミちゃん!?」

「まずは落ち着こうよ、アイネちゃん。

 とりあえずステータスを確認してみよう」

「うん、分かった。ステータス」


 私は小声でつぶやきステータスボードを出現させる。

 カスミちゃんも確認しているようだ。


 体9999+ 魔力9999+ 力9999+ 素早さ9999+


 そこには当然のように全項目振り切れた数字が表示されていた。


 それはそうだ。

 ギガノトサウルスと勝負した10歳のときに全項目振り切れていたのだ。

 あれから2年、ときには二人で訓練し、ときには一人で特訓し、そしてローミラール星人も撃退した。

 強くなっていることはあっても弱体化していることはありえない。


 カオリーナの1年後を心配する前に、自分たちの3日後を心配するべきだったのだ。

 どうしてこうなった…


「…………」

「…………」


 私たちは無言でしばし見つめ合った。

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