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やっちゃったものは仕方ないので覚悟を決めた件について…

 考えてみればカスミちゃんの超能力の先生は私だ。

 私は日本語でサイコキネシスやレビテーションを説明したので、当然この世界の呪文で教えてはいない。

 あの長い呪文を一度聞いただけで再現できるはずもなく、突然指名されたカスミちゃんがかけ声だけでサイコキネシスを発動させてしまったのも無理はないのかも知れない。


 私は覚悟を決めた。

「先生。

 私たちは冒険者として7歳から11歳まで活動し、ビッグラビットなども二人で捕獲しました。

 魔獣と対峙するのに詠唱していては間に合いませんので、自然と無詠唱で使えるようになったんです」


「ということはアイネリアさんもできるんですか?」

 サマンサ先生の問に私は頷くと、カスミちゃんの壁の隣に全く同じサイズの土壁を出現させた。


「すごい。二人も無詠唱魔法の使える生徒がいるなんて…

 これはすぐに報告しないと…」

 そうつぶやくとサマンサ先生は突然出口の方に駆けだし、扉の前で思い出したようにこちらを振り返ると指示をだした。


「皆さん、それではしばらく今の二人の魔法を参考に各自練習してください。

 ちょっと自習にします」

 そうつぶやくと廊下へと消えていった。

 ビッグラビットも真っ青の早業である。


 サマンサ先生が消えると、魔法練習室の中もざわつきはじめる。


「いや、無詠唱の二人を参考にと言われても無理だろ…」

 アーサー君がキャスバル王子に向かってぼやいている。


「それにしても二人ともすごいな…

 アイネリア嬢は既に婚約者候補だが、ここはカスミ嬢にも婚約者候補に入って欲しいところだ」

 キャスバル王子は物騒なことばをさらりと漏らしている。


 そこに目をきらきらさせたロバート君が近寄ってきた。

「お二人ともすごいです!

 あっ、申し遅れました。

 僕はロバート・フォン・ヒュッテンバーグといいます。

 アイネリアさんのヘイゼンベルグ家とは代々魔術師長の役職を争ってきたヒュッテンバーグ家の次男です。

 よろしかったら是非僕に無詠唱のコツを教えてください。」

 ロバート君は目をキラキラさせて熱く話しかけてきた。


「まて、抜け駆けはずるいぞ、ロバート。

 俺も是非教えて欲しい」

 キャスバル王子も続く。

「それなら俺には魔法を最初からだ」

 アーサー君も参戦してきた。


 他の生徒も私たちを囲んで是が非でも魔法の極意を聞き出したいようだ。

 しかし、日本語で説明しても理解できないだろうし、この世界の言語で土の組成や物性を説明するのは不可能に近い。

 私たち二人は仕方なく、何度も説明しながら実技を示すこととなった。


「いい、みんな。あの辺りの地面に向かって壁になれって思いながら魔力を使うの」

 カスミちゃんが説明しながら地面を指指すと新しい土壁が出現する。


「そんな簡単に言われてもできないよ」

 アーサー君が不満そうだ。


「そんなことないよ。先生も行っていたじゃない。イメージする力が強ければできるって!

 ほら、こうよ!!」

 私も壁を作ってみせる。


 サマンサ先生が魔術学科長のエンドラ先生を連れて練習場に帰って来たときには、練習場の床は私とカスミちゃんが作って見せた土壁で埋め尽くされていた。


「これはいったいどうゆうことですか?」

 驚いたようにエンドラ先生が聞いてきた。


「サマンサ先生に言われた通りみんなに魔法の説明を実演付きでしていたらこうなりました」

 私が答えると今度はサマンサ先生が聞いてくる。

「これだけのものを二人で作って魔力切れは大丈夫ですか?」

「何とか大丈夫みたいです」

 カスミちゃんが答える。


「しかし困りましたね…

 これだけの土壁を元に戻すのは大変そうです。

 明日の授業に支障がなければよいのですが…」

 エンドラ先生がため息をついた。


 私とカスミちゃんは視線を合わせると頷きあう。

「わかりました」

「それじゃあ元に戻しますね。

 アイネちゃん右側からお願い」

「分かったわ。カスミちゃんは左側からね」

 二人で土壁の方を指指すとサイコキネシスを発動した。

「「えいっ」」

 二人の声がハモった瞬間、土壁は地面に吸い込まれ、練習場の床は何事もなかったかのように平たくなった。


「まさかこれほどとは…」

「冒険者とはみんなこんなにすごいものなのですか…」

 エンドラ先生とサマンサ先生が呆然とつぶやいたところで6時間目の終了を告げるチャイムがなる。


「それでは今日はこれまでです。

 皆さん教室に帰ってください」


 立ち尽くしている二人の魔法教官を練習場に残して、私たちは教室に向かった。

 扉をカスミちゃんと通るとき、出口の外で待っていたおなじみの二人にいつも通り絡まれる。

「あなたたち、いい気になるのもいい加減にしてくださいね」

「そうよそうよ。ちょっと魔法ができるからって生意気よ。

 覚えてらっしゃい!」

 ナターシャさんとイリアさんは忌々しげに私とカスミちゃんを睨むときびすを返して行ってしまった。


 どうやらまたまた二人の公爵令嬢のヘイトを稼いでしまったようである。


 私たちも教室に向かおうとすると、今度はキャスバル王子、アーサー君、ロバート君から声をかけられる。

「二人とも、できれば今日の放課後魔法の練習に付き合ってくれ」

「剣と格闘でも遅れを取っているのに、魔法でも完全に負けている。少しでも学園最強の君たちに近づきたい」

「僕ももっと君たちの魔法を身近に見たい。是非お願いします」


 王子もアーサー君もロバート君もなんて練習熱心なのだろう。

 やはり、男の子は戦闘民族なのだろうか。

 それにしても聞き捨てならない単語が混じっている。

 私はカスミちゃんとアイコンタクトを取るととりあえず抗議しておく。


「三人とも、か弱い女の子二人を捕まえて学園最強は無いんじゃありませんか!」

「そうです。いくら王子様たちでもあんまりです。訂正を願います」


「数え切れないほどの土壁を一瞬で平らにする人間をか弱いとは言わない」


 私たちの抗議はキャスバル王子に一蹴された。

残りの二人も王子の言葉に頷いている。


 どうしてこうなった…


 放課後の練習会には何故かレイモンド王子とロイド兄様も加わり私たちは夕食の前まで付き合わされたのである。

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