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放課後の約束を忘れていた件について…

 何とか初日の授業を乗り切り無事に放課後を迎えることができた。

 といっても、私の記憶にあるのは6時間目の剣術・護衛術の授業だけだが…


 カスミちゃんにあらためてお礼を言って一緒に帰ろうとしていると、キャスバル王子から声がかかる。


「二人とも、学生食堂にお茶を用意しているから一緒に行こう」

「「はいっ?」」

 何のことか分からず、思わずカスミちゃんとハモってしまった。


「なんだ、忘れていたのか?

 今日の放課後は二人の冒険譚を聞かせてもらう約束を昨日したじゃないか」


 そういえば、昨日の帰りにそんな約束をしていたような気もする。

 これは、しばらくおつきあいするしかないだろう。


「あっ、それから、一緒に話を聞きたいという者がいるから同席することになった。

 兄上とアーサーだ。

 よろしく頼む」


 どうやらレイモンド王子とアーサー君も一緒らしい。



 食堂に着くと、窓際の日当たりがいいテーブル席に、アーサー君とレイモンド王子が既に来ていた。

 何かの話題で盛り上がっているようだ。

 近づいていくとレイモンド王子から声をかけられた。


「二人とも、アーサーから聞いたが、剣術の授業ですごかったらしいですね。

 是非、僕とも手合わせをお願いします。

 あ、カスミ嬢、自己紹介がまだでしたね。失礼しました。

 2学年のレイモンド・デル・アルタリアです」


「はじめまして、レイモンド王子。

 ワットマン男爵家のカスミ・レム・ワットマンです」


 カスミちゃんとレンモンド王子の挨拶が済むと、私たちはテーブルを囲んで席についた。


「では、早速二人の冒険者としての活躍を聞かせて欲しい。

 俺たちは剣の鍛錬などは積み重ねているが、この国から出たことすらないから、是非君たちの冒険譚を知りたいんだ」


 私はカスミちゃんと顔を見合わせる。

 冒険譚と言ってもローミラール星人との超能力バトルやギガノトサスルスとの肉弾戦を語る訳にもいかない。

 月面コロニーもダメだろう。

 話せる内容が非常に限られる。


 私は言葉を選びながら説明する。

「冒険者と言っても見習いですので、薬草集めが中心です。

 あとは、ビッグラビットを狩って収入を得たりしていましたが、皆さんを驚かせるほどではないと思います」

「後は、最後の方で熊さんを仕留めたくらいかな」

 カスミちゃんが話を合わせてくれる。


「ビッグラビットを日常的に…」

「熊ってまさかグレーベア?

 まさかグリズリー系じゃないよな…」

 王子たちは、呆然とした表情で独り言をつぶやいている。


 まさか、この程度でもやり過ぎだったのか?

 冷や汗がこめかみに流れるのを感じる。


「熊って種類は何ですか?」

「ビッグラビットはどれくらい捕ったんだ?」

 レイモンド王子とアーサー君が矢継ぎ早に聞いてくる。


「熊の種類はたしか…ダークグリズリーじゃなかったかな?

 ねえカスミちゃん」

「そうよね。

 サラス共和国の周辺で熊と言えばダークグリズリーが一番多いからたぶんそうだと思うわ。

 ビッグラビットはステークハウスの依頼もあったから一週間に1匹くらい取ったかな?

 ねえアイネちゃん」

「たぶんそれくらいだと思うわ」


 私とカスミちゃんはお互い確認しながら質問に答える。

 すると男の子三人は握り拳を固めてぷるぷると震えながら目をきらきらとさせている。


「ブラボー!素晴らしい。

 あの素早いビッグラビットを週に1回、安定して狩れる能力、熊の中でも破壊力の大きいダークグリズリーを討伐できる戦闘力。

 明らかに君たちは強い。

 是非、今から俺と手合わせしてくれ」

 キャスバル王子が突然立ち上がると大きな声で叫んだ。


「あっずるいぞキャスバル。

 手合わせは僕もお願いしたい」

 レイモンド王子も続く。


「それなら俺もお願いします」

 アーサー君も立ち会いたいみたいだ。


 冗談ではない!

 仮にも王子様と立ち会うなど、下手して怪我させたら身の破滅だ。


「あの、私たちか弱い女の子なんですが…」

 私が抗議の声を上げる。

 横ではカスミちゃんが猛烈な勢いでうなずいている。


 横目で見るとカスミちゃんと視線が合う。

 気持ちは同じよという感情が伝わってくる。


 しかし、前方では暑く燃えかがった男の闘争心をたぎらせ目をきらきらさせている3人が、それを許してくれる気配はない。


「前にも言ったと思うが、強さに男女は関係ない」

「ダークグリズリーを倒せる者をか弱いとは言わない」 

 キャスバル王子とレイモンド王子に私たちの抗議は軽く一蹴された。



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