忙しい日々…
自宅に帰った私はとても忙しい日々を送っている。
ロイド兄様は春休みが終わって王立学園へと帰っていったため、最近は相手をしなくてすむが、休み中は私に剣で負けたのがよほど悔しかったのか、毎日手合わせさせられた。
もちろん私の全勝である。
普通の日の午前中は来年に迫った王立学園への入学を前に基礎の勉強、午後は弟のジークと剣の稽古をしたり妹のカオリーヌの世話をしたり、夜は早めに就寝してサラセリアへ飛び、ヘンリー隊長におはようの挨拶をして朝食をいただき、見習い冒険者として活動する。
睡眠不足解消のために、薬草を適当に集めたら月面コロニーに帰り昼寝とコロニーの各エリアを維持するための魔力供給だ。
もちろん自宅の私の部屋の入り口は、大きな衣装ダンスでつっかえ棒をしてドアが開かないようにしている。
これで夜に私の部屋に入ろうとした者がいても諦めてくれることだろう。
サラセリアの夕方にはヘンリー隊長と家に帰り、夕食の後早めに就寝。
自室に鍵をかけるとテレポートでアルタリアの自宅に帰り、急いで身支度を調えて朝食会場へ向かう。
睡眠時間は月面コロニーの自室で6時間は取るようにしているが、正直11歳の体にはきつい。8時間は眠りたいところである。
もう一つの問題は食事である。
自宅で3食、ヘンリー隊長と夕食、朝食の2食、計毎日5食である。
肥満防止のために、一食あたりを少なくしていたら、両親にも隊長にも育ち盛りの年頃にしては食事の量が少ないと心配されてしまった。
仕方なく食事量を増やしたが、このままでは確実に太ってしまう。
私はカロリー消費のために、キガノトサウルスと対決したときの超重量装備を常時身につけて行動し、ダイエットに努めることになった。
ステータスの伸びは恐ろしくて確認していない。
ハクウンたちは近くの森で放し飼いにしているという設定で、実際は月面コロニー恐竜エリアで大半の時間を過ごさせている。
時々、ジークが遊びたがるので、そのときだけはテレポートで連れてきているのだ。
学園入学準備の勉強で一番大変なのはダンスとマナーである。
特にダンスは、ちょっと気を抜くとパートナーを務めてくれている先生や弟を持ち上げたり放り投げたりしそうになる。
手をつないで回転したときに力加減を間違えて、ジークに空中遊泳を体験させてしまったときは冷や汗をかいた。
たまたま中庭で練習していたので天井がなくて本当に助かった。
落ちてきたジークを受け止めて、涙目のジークをなだめるためにハクウンとセキホウの協力を仰がざるを得なかったほどだ。
ダンスの先生はたまたま席を外しており、このことはジークと私だけの秘密となった。
一方、学力面は7歳までに完成していたのでほとんど苦労していない。
というか、最初の一週間で家庭教師の先生が、自分には教えることがないといい辞めてしまった。
そうこうしているうちに時は流れ、自宅に帰って3ヶ月があっという間にたち、季節は夏を迎えたときに私はあるものを自宅近くの森の中で見つけたのである。
それは、広葉樹の低木であった。
よく見ると、節ごとに3本に枝分かれした枝を持っている。
これはもしや前世でお札の紙や和紙の原料になっていたミツマタという植物の仲間ではなかろうか。
私は早速その植物を根ごと掘り出すと、自宅に持ち帰り挿し木で増やせないか実験を始めた。
実もついていたので蒔いてみる。
結果、植物は3ヶ月後に挿し木にした分が無事に根付き、とても数が増えていた。
前世と同じミツマタと名付け、家の周りや道の街路樹としてどんどん植えることにする。
私は、紙の生産ができないか本格的に研究することにした。
更に3ヶ月後、季節は冬になっていた。
すっかり葉を落としたミツマタのうち、羽振りがよくない枝を剪定し、和紙の製法を試してみる。
水酸化ナトリウムを使った苛性ソーダ法が使えればお札の紙もできるかも知れないが、ここはオーバーテクノロジーにならないように、普通の灰を使ってみる。
結果、何かが足りないのか均質な紙にはならず、厚みにバラツキが出た。
まだまだ、改善が必要なようだ。
しかし、試作品を見たお父さまは目を丸くしていた。
どうやら、少々厚みにバラツキがあっても羊皮紙しかないこの国では驚きの製品だったようだ。
私は製法をお父さまに伝授し、我が侯爵領の特産品とするためにミツマタの植樹を奨励することを進めた。
やがて、春が来た。
自宅に戻って1年が経過しようとしている。
私が植えたミツマタは白いきれいな花をつけて人々の目を楽しませている。
私は12歳になった。
学園へ入学する年齢である。
余談だが、学園へ入学するまでの1年間で、妹のサイコキネシスが暴走しそうなときは私が無理やり押さえ込むことを続け、何とか魔力の制御が私の補助なしでもできはじめたのは本当に幸運だった。
代わりに、私にとても懐いた妹は、私と一緒に学園へ行きたがり、とても困った。
何とか説得した結果、首都の侯爵家別邸に妹は移り住み、週末には私が遊びに行くということで納得してもらった。
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