破滅フラグ増殖中…
感動の再会を済ませた私は疑問を父に投げかける。
「それで、お父さま、どうしてこんな所まで来て、護衛を雇おうとしているんですか?」
「そう、そうだった!
ゆっくりと語り合っている暇などなかったんだ。
実はあと、1ヶ月、厳密には29日以内に、ここから西にある10の国のオリジナルグッズと証拠のスタンプを集めてアルタリアの首都アルタリアポリスの中央公園に行かないと我が侯爵家は破滅するのだ…」
「はいっ!!???」
私は素っ頓狂な声を発してしまった。
「どういうことでしょうか…………お、と、う、さ、ま………」
自分でしゃべっていて自分の声が怖い。
猛烈に嫌な予感がする。
お父さまは理知的で思慮深い面もあるが、一旦何かあるとあつくなってしまうこともあるのだ。
「そう、怖い声を出すものではないよアイネリア。
なーーに、期限までに約束のものを集めて都に帰れば問題ない。
大損するのはあいつらの方だ!」
「まさかお父さま、大金賭けて博打などしていませんよね…」
「失礼な。博打などするわけがない。
ちょっとあの性根の腐った石頭どもを懲らしめてやろうと思って賭をしただけだ。
だいたいあいつら、王家主催の第二王子誕生パーティーでお前のことを馬鹿にしたのだぞ。
3年以上も探して行方不明なのだから死んで獣の餌になっているに違いない等といいおって!
それだけでも許せんのに、世界の情勢が見えていない奴らは、これだけ道や馬車が整備された現在、世界を一周するのに半年もかかるといいおって!
私は、思わず100日もあれば十分だと言ってやったら、喧嘩になって、私が実際100日以内でこの国の主な国20カ国を西から東に一周できるかどうかが賭になったのだ!」
どうやら私の話題で頭に血が上ったお父さまは、その後、話題が切り替わっても怒りが収まらず喧嘩を売ったらしい。
娘バカのお父さまらしいと言えばお父さまらしいのだが、広大な領地を預かる侯爵様としてはいかがなものか。
私は聞きたくない気持ちと聞かなければならない使命感の板挟み状態になっったが、今後のためにも情報は正確に把握するべきだろう。
覚悟を決めて聞いてみる。
「それでお父さま、いくら賭けたのですか?」
「ほんの10兆マールだ」
「それって侯爵家の全財産と比べてどうなんです」
「家財一切合切売り払って領地を譲れば払えん額ではない」
「それは即ち、我が侯爵家の終焉を意味するのでは?」
「まあ、負けなければどうと言うこともない。
なあに、100日もあれば十分おつりが来る。
10兆支払うのはあいつらの方だ!
わっはっはっは」
お父さまは、どこぞの国の某国民的アニメで赤い人が言っていた台詞とよく似た言葉をほざきながら高笑いしている。
確かに弾に当たらなければどうと言うことはなくても、当たったらどうするのだ。
私は再会したばかりでお父さまをしばき倒したくなった。
お父さまはここまで来るのに71日を消費している。
地球のあの有名な小説ですら、蒸気機関車や気球、蒸気船、列車などの交通手段を駆使ししてぎりぎりだったのに、この星は地球の2倍ほど大きい。
この星には蒸気機関も気球もなく、世間一般で利用されている最速の移動手段は馬車だ。
海上では帆船が最速だが、風任せな部分は否めず、ほかは人力で進むカヌーやボートがいいところだ。
正直、半年、つまり180日でもぎりぎりだろう。
今後のためにも前世の知識を総動員して計算してみることにした。
この世界では赤道のジャングル地帯から南は未踏の大地となっており、北半球のみが世界の全てと思われている。
人類が繁栄しているのはその内の北緯30度付近を中心として、北緯20度から北緯50度の範囲である。
仮に北緯30度の線で星を一周するとすると、どれくらいの距離があるのか考えてみる。 星の大きさは地球の2倍程度として、赤道一周が8万キロメートルとなる。
北緯30度の地点を考えるには、30°、60°、90°の直角三角形の比から計算できる。
三角比が1:2:ルート3だから、赤道半径に比べて2分のルート3倍した値となる。
8万キロメートルに2分のルート3を賭ける。
ルート3は“ヒトナミニオゴレヤ”なので、
80000×1.7320508÷2=69282キロメートル
それでも、地球の一周よりずいぶんと長いことになる。
お父さまはここまで星を半周、即ち34641キロメートルほどを71日で踏破しているので、一日あたり実に488キロメートルを進んだことになる。
時速40キロで走る馬車に一日12時間以上乗ってぎりぎりである。
さて、残りもおよそ35000キロメートルだ。
お父さまはあと29日と思っているが、西回りに周回しているお父さまは、前世の小説とは逆向きに日付変更線を超えているので、あと28日しかないことになる。
つまり、一日1250キロ以上走破しないと期限に間に合わない。
ダメだ。詰んでいる。
この世界の馬車は最高でも時速50キロほどだ。
一日は地球と同じ24時間。
休まず乗っても一日1200キロが限界だ。
更に、道はまっすぐとは限らない。
カーブもあれば坂もある。
増して、国境通過や証拠の品とスタンプ集めを考えると、不眠不休でも間に合わない。
お父さま!何してくれているんですか!!
私が家出してまで没落を回避しようとしたのに、このままではゲーム開始前に我が侯爵家は消滅してしまう。
私は叫びたいのを我慢して、善後策を考える。
いずれも、私の魔法なしには成り立たない方法だが、いくつか思いついた。
一つ目。
テレポーテーションを解禁して距離を稼ぐ。
欠点は、私がテレポーテーションを遠距離で使えることを白日の下にさらしてしまうことだ。
やはり、このことは隠しておきたい。
二つ目。
レビテーションで飛ぶ。
この方法も、私の能力を白日の下にさらしてしまう。
できれば却下したい。
三つ目。
ハクウンとセキホウに乗って移動する。
この方法は、既にこの近所では認知されている猟犬であるハクウンたちを使うので、新たな悪目立ちは避けられるかも知れない。
トリケラトプスに乗っているだけで十分目立ってはいるのだが、新たな火種は生じない。
問題点は、いくらハクウンたちが速くても、さすがに間に合わない可能性が高いことだろう。
さんざん悩んだ結果採用することにしたのは、見た目は三つ目、ホントは1つ目と2つ目も使うというどこぞの名探偵も真っ青な荒技でごまかすことであった。
ハクウンたちに人が眠れるほどの輿をくくりつけ、お父さまには夜も輿の中で眠ってもらい、その間にレビテーションやテレポーテーションで一気に距離を稼ぐ。
眠っている間にハクウンたちが頑張ったことにするのだ。
私は、覚悟を決めてお父さまに説明した。
「分かりました。
冒険者アリア・ベルとしてこの護送を引き受けます。」
「おお、そうか!
アイネリア、一緒に国に帰れるのだな!!
それで、どうやって移動するのだ?」
どこまでものんきなお父さまにあきれつつ、説明した。
「私はお友達から預かっている分も含めて2頭の地竜を所有しています。
私の地竜は大きく、移動も速い上に、夜もかなり移動できます。
彼らに頑張ってもらえば何とか間に合うかも知れません。
それでもぎりぎりでしょうから、出発は明日の朝にしたいと思います。」
「そうか…
アイネリアはすっかりたくましくなったんだな…
地竜を飼っているとは…
では、当てにするぞ、アイネリア!」
「お任せください。
お父さま!
明日の朝、南門を出たところで合流しましょう」
私はお父さまと別れるとギルドマスターに依頼を受けた旨を伝え、出発準備をすることにした。




