怪しげな二人…
ウサギ運搬用に南門で荷車を借りる。
ちょうど受付に出てきていたヘンリー隊長に、夕食はステーキハウスで予約し、そのためのお肉を捕りに行くと伝える。
もはや日常の1コマとも言える私たちのビッグラビット狩りなので、ヘンリー隊長も最近はあまり心配していないようだ。
「アリアちゃん、カスミちゃん、油断しないようにな。
行っておいで」
ヘンリー隊長に見送られて門を出る。
人気が少なくなったところで荷車ごとルフルの森の中ほどにテレポートする。
周囲を確認していくとウサギより先にダークグリズリーという大型の魔獣が見つかった。
行きがけの駄賃にこれも狩っておこう。
私とカスミちゃんは抜剣すると素早くダークグリズリーを仕留めにかかる。
ダークグリズリーは熊の魔獣で、ウサギより硬くて美味しくないが、希少価値からなかなかの高値でお肉は売れる。
それに上手く仕留めれば毛皮もいい値段となるのでなかなか美味しい魔獣だ。
攻撃手段は爪と、爪の斬撃に伴って繰り出される風魔法だ。
二人で攻撃をかいくぐり、カスミちゃんが注意を引きつけている間に私がとどめを刺した。
毛皮の背中部分に傷がつかないようにお腹の部分を真っ二つだ。
そのまま血抜きもして、解体後に熊を荷車に乗せる。
そのあと無事にビッグラビットも1匹仕留め、血抜き後に解体して熊肉と分けて荷車に積み込んだ。
南門に帰ってくると、ヘンリー隊長にあきれられた。
「全く、君たちには驚かされる。
ビッグラビットを捕りに行ってダークグリズリーまで狩ってくるとは…
いったいどれくらい強くなっているんだ?」
「「それは乙女の秘密です」」
最近よく繰り返されるやりとりに、二人で声を揃えて答えた。
ステーキハウスにウサギを持ち込むと、珍しい熊肉もあると聞いたダンカンさんが大喜びした。
「是非、ダークグリズリーもうちに引き取らせてくれ。
金持ちの中に食べてみたいという人がかなりいるんだ」
「いいですけど、ウサギの方が美味しいと思いますよ」
私が言うとダンカンさんはニコニコしながら答える。
「ああ、知っている。
それでも、珍しいと言うだけで大枚をはたいてくれる得意先もあるんだ」
「分かりました。それでは買取お願いします。」
結局ウサギの肉が約200kgで34万マール、熊の肉が100kgで25万マールになった。
その上、今日のステーキ代はダンカンさんのおごりが確定している。
かなり儲かった。
夕方お店を訪れると、カウンター席やテーブル席は既に満席に近かった。
入り口には『ビッグラビット、ダークグリズリー入荷!ステーキできます』と書いた張り紙がでかでかと張っている。
私たち4人は混み合う店内を個室へと向かう。
そのとき、何か他のお客さんたちと雰囲気の違う、毛糸のニット帽を深めに被った2人組の冒険者らしき人と目が合った。
ただ、それだけなのに、妙に気になった。
二人組の目つきが異常に怖いのだ。
更に手元には二人とも小さな装置を持っている。
新しい魔道装置だろうか?
そのようなものがこの世界にあるとは聞いたことがないが?
よく見ると、二人が持っている装置には明らかにレンズと思われる丸い透明な何かがついており、その装置を店内のあちこちに向けている。
まるで、前世の旅行者が旅先でビデオカメラを回しているときのような動きである。
もちろん、今世にはビデオカメラなどの科学的装置は存在していない。
いや、存在していないはずである。
私は、二人のテーブルの横を通過するときにわざとらしく挨拶してみた。
「こんにちは!」
「「…………………」」
二人とも挨拶は返ってこなかった。
そのときちょうど注文を取りに来た店員にも、言葉はしゃべらず、身振り手振りで隣の席と同じものを出せと言っているようだ。
なんだかとても気になったが、この後ハクウンたちのことを説明するという一大イベントが控えていたので、その場を通り過ぎ個室に向かう。
個室は、サラセリアステークハウスで一番豪華な部屋だった。
たまたま空いていただけとダンカンさんは言っていたが、お肉のお礼が含まれているようだ。
私とカスミちゃんはあらかたステーキを食べ終わったタイミングで説明をはじめる。
「ヘンリー隊長、ジョーイさん、聞いてください」
「何だ、改まって…
まさか、アリアちゃん、もう嫁に行くとか言う相談か!
いかん、いかんぞ!
君はまだ10歳になったばかりじゃないか!!」
「盛大に違います。
色恋沙汰ではありません」
「じゃあ、いったい何だい?
こんな席まで準備して…」
隊長もジョーイさんも訝しげだ。
「実は、私たち、お二人に黙ってある動物を飼っているんです。」
二人とも、何だという顔つきになって少しほっとしている。
「そんなことかい。
動物くらいいいよ。今度うちに連れてきて家で飼いなさい。
犬かい?猫かい?」
ヘンリー隊長が気軽に言う。
「いえ、もっと大きい動物です。」
カスミちゃんの答えに二人の眉が少し曇る。
「というと、羊や牛?まさかビッグラビット?
カスミ、うちは借家だから厳しいぞ!」
ジョーイさんが危ぶみ出す。
「いえ、そもそも家に入りません。
飼う場所はいままで隠してきたルフルの森に引き続き住まわせるつもりです。」
ここまで私が言ったとき、二人はフォークとナイフを取り落とした。
「「いったい何を飼っているんだ……………」」
「「地竜です」」
二人の声を揃えた質問に私たちも声を揃えて答えた。
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