飛竜?を探そう…
翌朝、カスミちゃんも見習い冒険者登録をしてから、二人で草原へと移動する。
南門を出て、依頼の薬草をとりあえず3000マール分集めることにする。
100グラムで50マールの買取価格だから、一人あたり約6キログラムが目標だ。
1人あたり50本ずつ薬草を集めて束にしたところで、私は南の方向をクレヤボヤンスで探してみた。
残念ながら首都の近辺に飛竜らしき姿は確認できない。飛んでいるとは限らないので、地表も探す。
物陰に隠れているのだろうか?なかなか見つからない。
「ねえ、アリアちゃん。アリアちゃんばかりに探してもらうのは何か悪いわ。」
カスミちゃんがクレヤボヤンスに集中している私に、遠慮がちに尋ねる。
「気にしなくていいわよ。クレヤボヤンスに集中していると近の状況が分かりにくくなるから、カスミちゃんが見張っていてくれるのはとても助かるの。」
「でも、私が手伝えたら、交代で調べたりできるのに…。」
本当に気の利くいい子だ。
カスミちゃんと友達になれてよかったと思いながら言葉を返す。
「それじゃあ、ちょっと練習してみる?」
「うん、アリアちゃん教えて!」
カスミちゃんは新しい能力の獲得に興味があるのだろうか。とても嬉しそうだ。
「いいけど…、私の場合は必要に迫られて身についた力だから……。参考になるかしら?」
「とりあえず聞きたいわ!アリアちゃんはどうやってクレヤボヤンスを覚えたの?」
私は、7年少し前のクレヤボヤンスを獲得したときの記憶を思い出そうと考える。
「たしか、一番最初に覚えた能力がクレヤボヤンスだったの。話したかも知れないけど私は生まれる少し前に前世の意識が目覚めて、母のお腹の中にいるときに覚えたのよ。」
「そのとき、何かあって覚えたの?」
「うーーーん。たしか、目も見えなくて真っ暗で…。強烈に周りの状況を確認したいと思ったような気がする…。」
「それで?」
「そしたら、部屋の中がボーッと見えたのよ。」
「それから?」
「残念ながら、最初はすぐに意識を失ったわ。たぶん魔力切れね。」
「私のサイコキネシスの練習の時みたいに?」
「たぶんそうよ。意識が回復してから視点を動かしたり遠くに視点を移したりする練習をしたの。何度も魔力切れを起こしたわ。」
「そうやってアリアちゃんぶっ壊れた魔力数値が形造られたのね…。」
「ははは…。確かに振り切れた数値にまで育っちゃってるわね……。参考になった?」
「うーーん…。わかんないけど、とりあえず近くから始めて、だんだん遠くを見るようにする感じかな?」
「そうだね。やってみよ!」
「うん。」
カスミちゃんは目をつぶると静かに集中する。
「どう、カスミちゃん?」
「だめみたい。目を開ければ見えるのが分かっているから、目をつぶって景色を見ようとしても何か上手く行かない…。」
「向き、不向きもあるから、あきらめないで練習すればできるようになるかも知れないよ。」
「そうだね。じゃあ、アリアちゃんが飛竜を探している間に練習してみる。」
そう言うとカスミちゃんは再び目を閉じ集中する。
私も再びクレヤボヤンスを発動して、空や草原はもちろん、飛竜が隠れることのできそうな大木や岩陰を丹念に視点を切り替えながら探していく。
気配察知とかあれば楽なんだが、残念ながらそんな便利な魔法は持ち合わせていない。
いつか習得したいものだ。
小一時間ほど頑張ったが、飛竜は発見できなかったし、カスミちゃんのクレヤボヤンス練習も未だに不発だ。
「カスミちゃん。ちょっと休憩しない?」
「そうだね、ちょっと休もう。」
二人で草の上に座ると、ちょっと早めのお弁当にしようか相談する。
「まだ、早いかな。今食べたら夕方お腹が減りすぎるよ、きっと。」
「そうだね…。こんな事なら2食分くらい用意してくればよかったね。月面コロニーにいって何か食べるというのもありだけど、どうするカスミちゃん?」
「うーーん、疲れたけどそれほどお腹がすいているわけでもないんだよね…。」
「それじゃあとりあえずお茶にしましょう。」
私もカスミちゃんもクレヤボヤンスに集中して精神的に疲れただけで、あまり動いてはいないので、とりあえず持ってきた水筒の水を加熱して、最近見つけたハーブのような野草でハーブティーを造ることにした。
ちなみに、サイコキネシスで水分子の熱運動を加速して温度を調整するという技術は、カスミちゃんにはまだできない。
どうも水分子のイメージや熱運動のイメージが苦手なようだ。
けど、いつまでもできないのもよくないので、私はカスミちゃんに振ってみることにした。
「カスミちゃん、この水筒の水を80℃くらいまでサイコキネシスで加熱してみて。」
「練習ね!やってみるわ」
私は倒れないように気をつけながら金属製の水筒を地面におく。
「いい、水筒の中の水の分子をイメージして、その分子が早く動くようにサイコキネシスを発動するのよ。」
「分かった。」
「頑張って、カスミちゃん。」
カスミちゃんは額に汗を浮かばせて水筒に集中する。
しばらくは何も起きる気配がなかったが、1分ほどすると水の表面から湯気が上がり始める。
「あと少しよ!頑張って。」
私が声をかけるとカスミちゃんは水筒を見つめたまま頷く。
「えいっ」
ボワーーーーン
「……………………」
「……………………」
カスミちゃんのかけ声とともに水筒の中の水は全て気体となり、水筒の上には白い湯気が立ちこめた。
水筒は気体膨張の圧力に何とか耐えたが、一気に気体となった水が噴き出す圧力で、変な共鳴音がした。
私たちはしばし呆然としてしまった。
「惜しかったわね。カスミちゃん。」
「うん、最後に一気に力を込めすぎたみたい。」
「何度か練習すればできるようになると思うけど、丈夫な容器が必要ね。」
「えっ丈夫な容器?」
「そう。今カスミちゃんがやったことは結構危なかったの。水蒸気爆発という現象を引き起こしたのよ。」
「水蒸気爆発?」
「そうよ。水は気体になると体積が一気に1000倍になるの。その圧力で吹き飛ぶのよ。」
「そんなに危ないの?」
「水筒の蓋をしていなかったから、全部上に力が逃げたの。もし蓋をしていたら、水筒が破裂して飛び散ってもおかしくないなかったと思うわ…。」
「…………………。次はもっと気をつけるね…。」
「是非そうして、私たちの安全のために。」
ちなみにこの日の就寝時に、カスミちゃんは『フュレアティックイクスプロージョン』と『ミストジェネレーション』という魔法の習得が告げられたという。
こんど私もやってみよう…………………。
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