悪即斬です… プラス 初めてのお友達です…
今回は前半に残酷な表現があります。ご注意ください。
もともと、2話に分ける予定の話でしたが、短くなりすぎないように一気に投稿しました。
残酷描写が苦手な方は本文中【ここから残酷描写あり】の表記から読み飛ばして、
【ここから後半】の表記後を読んでいただいても、物語に違和感がないように書いています。
よろしくお願いします。
冒険者生活2日目、今日の午前中はおとなしく薬草探しだ。
常時依頼の採集は一度申請しておけば特に更新の手続きなど入らないので、今朝はギルドによる必要が無い。
昨日のビッグラビットの肉をサンドイッチにしたお弁当を2人分つくって、城門で分かれたときにヘンリー隊長のへ1つ渡す。
「アリアちゃん、悪いね。ありがとう。」
「いえ、お肉まだたくさんありますから、明日くらいまではウサギずくしです。昨日はステーキ風にしたので、今晩は野菜と炒めますね。」
夕食の相談を済ませると、隊長と別れ、城門を出た。
今日は西の草原を目指す。
【ここから残酷描写あり】
城門を出て街道からそれると草原に入る。
2、3分も歩けば人気はなくなるはずだが、今朝は何故か後ろから草を踏む音や藪をかき分ける音がまだ聞こえる。
もしかして、誰かついてきているのだろうか?
私は立ち止まると後ろを確認する。
まもなく、3人の目つきが悪い男がこちらに近寄ってきた。
背が高いひょろっとしたのと、筋肉だるまと、ちびデブの3人組だ。
3人は私に追いつくと私を囲むように立つ。
もしかして、お約束の新人いじめ?!
私が戸惑っているとリーダーらしい筋肉だるまが一歩前に出る。
「お嬢ちゃん、昨日はずいぶん稼いでいたみたいだな。」
「ちょっとお兄ちゃんたちに貸してくれないか?」
「なあに、金さえ出せば痛い目には遭わせない。さっさと昨日稼いだ金、全部出せ!」
左後ろからちびのおっさんが、右後ろからのっぽが威圧しようとしてくる。
さて、どうしたものか。
選択は、『逃げる』、『撃退する』、『始末する』の三択だろう。
逃げる、を選択した場合、私のステータスはばれないが、今後もつきまとわれる可能性が高い。
撃退するを選択した場合、間違いなく私が7歳児にしては以上に強いことがバレル。
始末した場合、私は犯罪者になるのだろうか?罪悪感もあるし…。無益な殺生はしたくない。
とりあえず、情報収集だ。私は話しかけることにする。
「おじさんたち、いつもこんな恐喝まがいの犯罪をしているんですか?」
全然慌てた様子がない私の返答に3人組の方がちょっと慌てる。
「うるせえぇ。さっさと金を出しやがれ!」小さいおじさんが怒鳴る。
「ご家族は泣いていますよ。それに、このことを私が衛兵さんやギルドに申し出たらどうするんですか?」
「ちぃっ、頭の回るガキだ。」リーダーが吐き捨てるように言う。
「ヒッヒッヒ、生かして帰すわけねえだろ。金が血で濡れると面倒だから殺す前にだせやぁ!」のっぽが剣を抜いた。
どうやら、冒険者と言うより強盗殺人犯のようだ。これは3番目の選択もあり得る。
私は素早くちびのおじさんの横をすり抜けると逃げ出したように見せかける。
10メートルほど移動したところでクレヤボヤンスを使い、あるものを確認する。
居た。
そこで、男たちが追いついてくる。
「ヒッヒッヒ、観念したか。」「死ね!」
どうやら殺してから奪うことに計画を変更したようだ。
こんな連中がいると言うことは、この世界は命が軽いのだろうか。
そんなことを考えながら私はエリアテレポートを発動する。
あたりは突然真っ暗な森となり、周囲には蘭々を光る獣の目がいくつも光る。
巻きこまれた男たちは事態の変化について行けず硬直した。
周囲はマッドウルフの集団に囲まれている。
私は、一昨日誘拐団を始末したオオカミの群れの中心に男たちをテレポートさせたのだ。
オオカミたちは、一昨日の事を覚えているのか、私を少し警戒しているようだ。
群れのリーダーのキングマッドウルフがのそりと私の前に現れる。
どうやら、前回の件で私の強さがある程度分かっているのだろうか。私に対しては、うなったり威嚇したりはしていない。
そのとき突然、キングマッドウルフは伏せの姿勢を取り、視線の高さを私に合わせてきた。何か言いたげなまなざしだ。
私はオオカミのボスに話しかける。
「どうやらあれから人は襲っていないようね。」
「くぅうん」
巨大オオカミらしからぬ可愛い声を出すキングマッドウルフ。
「よしよし、えらいよ。ご褒美にこいつらはお前に任せるわ。」
「ウワォン」
なにか、伝わったような気がする。
私は、3人の剣をたたき落とすと後はオオカミたちに任る。
正当防衛とは言え後味は決してよくない。
これからはこんな事がないように祈りながら、元の草原にテレポートした。
【ここから後半】
草原に帰ると薬草の採集を再開する。
人気がないことを確認し、クレヤボヤンスで薬草の群生地を探すと、草原にぽつんと大きな木が生えているところにかなりの量の薬草が生えていた。
しかし、そこには人が1人いる。
視点を近づけて確認するとどうやら男性が絵を描いているらしい。
この世界では紙が羊皮紙しかないので、絵画は布に描いているものが多い。
絵の具は鉱物を砕いて粉にし、油で練ったものが主流である。
男の人は畳一畳ほどもある大きな布を木枠に貼り付けて、風景を描いているようだ。
どうやら画家のようだ。
興味を持った私はクレヤボヤンスの発動をやめ、男性がいる西の草原へとてくてく歩いて行く。
テレポートや全力疾走は人前で厳禁なので、普通の7歳児並みにゆっくりと歩く。
15分も歩くと大木の近くで絵を描いている男性のところにたどり着いた。
「こんにちは、見習い冒険者のアリア・ベルっていいます。薬草の採集に来たんですが、この辺の薬草を採ってもお邪魔になりませんか?」
私は、描いている絵の邪魔にならないか聞いてみた。
「ああ、大丈夫だよ。俺は画家をしているジョーイ・ワットマンだ。娘が近くで遊んでいると思うから、時間があったら相手をしてくれると助かる。」
男性が答えると、木の上から声が聞こえた。
「こんにちは~。カスミっていいま~す。」
どうやら娘さんは木登りが得意なようだ。
私は、木の上に向かってもう一度挨拶した。
「こんにちは、見習い冒険者のアリア・ベルです。」
カスミちゃんはするすると木から下りてきて、2階の窓くらいの高さの枝まで来るとふわりと飛び降りた。
運動能力の高い子のようだ。
私も木の方へ歩いて行く。
何?この可愛い子!黒髪黒眼で二重まぶたの少したれ目。
お持ち帰りしたいかわいさだ。
母性本能を刺激される潤んだ瞳。
前世の日本人を彷彿させる髪と瞳の色。
私は決してロリコンでも百合でもないが、4頭身のカスミちゃんのかわいさに参ってしまった。
といっても肉体年齢は同じくらいなのだが。
「よろしくお願いしますカスミちゃん。凄く可愛いね!」
私が言うとカスミちゃんは褒められたことがうれしいのか笑顔で返事をする。
「よろしくね、アリアちゃん。ところでアリアちゃんは何歳なの?わたしは先月7歳になったのよ。」
「私も7歳だよ。同い年だね!」
精神年齢は29歳だけど、ここは話を合わせることにした。
「わたし、お父さんについて色々な国の絵を描いてるんだけど、この国に来たばかりでまだ友達がいないの。良かったらお友達になって!」
「こちらこそ、仲良くしてください。私も一昨日森から出てきたばかりで、まだ友達がいないの。」
私は兄弟を除くと、厳密には、転生後に同年代の友達がいないことに気がついた。
まあ、貴族の子どもは基本的に外で遊ぶことが少ないのだから当然と言えば当然だが…。
私はしょっちゅうトレーニングのために屋敷の周囲を走り回っていたが、屋敷の周辺には子供はおろか人影さえあまり見かけなかった。
とりあえず、森から出てきたばかりというプロフィールでここは押し切る。
「よかった。それじゃあ早速何して遊ぶ?」
明るく話しかけてくるカスミちゃんには悪いが、私は仕事中である。
「ごめんなさい、今薬草を集める依頼をやってるところだから、すぐに遊ぶのはちょと無理かな…。私、見習い冒険者だから…。」
私が申し訳なさそうに言うと、カスミちゃんは屈託のない笑顔でお手伝いを申し出る。
「それなら、薬草集めを私も手伝うわ。2人でやれば早く終わるでしょ。こう見えてもお父さんと旅の途中で覚えたから、結構薬草には詳しいの!」
役に立つよとアピールをしてくるカスミちゃんを断ることはできそうにない。
本当は1人で集めて森に探検に行こうと思っていたのだが、お友達を大切にすることにした。
といっても精神年齢は22歳ほど年上なので、子守感覚ではある。
事前にクレヤボヤンスで確認しておいた薬草群生地は、大きな木の向こう側だ。
私はカスミちゃんと一緒にきょろきょろしながら薬草を探すふりをして、群生地へとカスミちゃんを誘導した。
5分も歩くと数百本はありそうな薬草の群生地が見えてきた。
私たちは身長がまだ低いので獣道を外れると胸まである草丈が邪魔でとても歩きにくい。
薬草群生地は獣道から10メートルほど入り込んでいるが、独特の薄紫色の小花が咲いているのでこの距離でも確認できるのだ。
「あっあったよアリアちゃん!あそこに薬草の花がたくさん見える!」
どうやって誘導しようか考えていると先にカスミちゃんが薬草を見つけて知らせてくれた。
どうやら本当に薬草には詳しいようだ。
「ホントだ。カスミちゃん目がいいね!行ってみよう!足下気をつけてね。」
私たちは雑草をかき分けながら薬草群生地へと進んだ。
「これだけあれば、すぐに依頼分は集まるよね?早く集めて遊ぼう!」カスミちゃんは私を誘導するようにどんどん先へ行く。あと1メートルで薬草群生地というところで、突然、前を歩いていたカスミちゃんの頭が見えなくなった。ザザザッという何かがこすれる音。「ファッ」
カスミちゃんのびっくりしたような声が一瞬聞こえたがすぐに音がしなくなる。
「カスミちゃん!」
私は急いでカスミちゃんの頭が見えなくなったところへ行く。
そこは天然の落とし穴だった。
深さ5メートル、幅1メートルはある天然の溝に枯れ草が被り全く見えなくなっている。
カスミちゃんが落ちたであろうところの地面だけ、枯れ草に穴が空いて薄暗い溝の底が確認できる。
溝の底には人が倒れている。
間違いない。カスミちゃんだ。
「カスミちゃん、大丈夫!」
私が上から声をかけたが反応がない。
まずい。
気を失っているだけならいいが、怪我をしていたら状況によっては命に関わる。
この溝のほぼ垂直な壁面を5メートル以上も落下したのだ。
普通の7歳児なら、むしろ無事であることの方が稀だろう。
私は迷わずカスミちゃんの後を追って溝に飛び込んだ。
無事溝の底に着地するとカスミちゃんに駆け寄る。
見た感じでは大量の出血はない。
変な方向に手足が曲がっていることもなく、擦り傷は少しあるが眠っているようにも見える。
しかし、ショック状態で心停止する場合もあるので、すぐに駆け寄ると呼吸を確認し、頸動脈で脈を取った。
良かった。
どうやら大きな怪我もなく、心臓も無事に動いている。
私はカスミちゃんの肩を揺すって声をかけた。
「カスミちゃん、しっかりしてカスミちゃん。大丈夫?」
「うう~ん」
カスミちゃんが寝起きのような声を漏らすと目を開けた。
きょろきょろしている。
状況が飲み込めないようだ。カスミちゃんが私の存在に気づく。
『あったま痛~~。ここどこ?』
『えっ日本語?』
突然日本語でしゃべったカスミちゃんに、私も日本語で返してしまった。
たくさんのアクセスやブックマーク、感想や評価、ありがとうございます。
いろいろ気がついていない主人公のアイネリアを暖かく見守ってあげてください。




