居候することになりました…
「宿のことなんだが、7歳の子供が大金を持っていると知れればよからぬことを考える輩がでるかも知れない。もし、アリアちゃんが良ければ、これも何かの縁だ。俺のうちに居候しないか。」
これは願ってもないお話である。後ろだてにヘンリー隊長の肩書きがあれば、変な人たちが私に近寄らなくなる可能性は高い。
「それは願ってもないお話ですが、お邪魔ではありませんか。」
「いや、全く問題ない。妻に先立たれて一人暮らしだから部屋はたくさん余っている。炊事洗濯は自分でしてもらうがな。アリアちゃんが来てくれれば、俺も家が明るくなって助かるよ。」
ヘンリ-隊長はさらりと重い話を交えながらいう。
「分かりました。お金はたくさんありますから下宿代はしっかり払いますね。」
私が答えるとヘンリー隊長はちょっと困った顔をした。
「本当にしっかりした子だね、アリアちゃんは。今日の宝石代はおじいさんの形見の対価だから本当に必要なときまでとっておきなさい。下宿代はアリアちゃんが見習い冒険者としてしっかり稼げるようになってから考えよう。」
本当に優しい人だ。
本当は祖父の形見でなく超能力で土や岩などから取り出した自作の宝石であることに負い目を感じる。
『騙してごめんなさい…』
心の中で謝っておいた。
このとき私は親切心だけでヘンリー隊長がこの提案をしてくれたのだと思ったが、そこにもう一つの理由があったことは、隊長の家についてすぐに判明した。
ヘンリー隊長の自宅は前世風に言うなら木造平屋3LDKのこぢんまりしたものだった。隊長職の給料からするともっと大きな家も建てられるのだろうが、質実剛健な性格のヘンリー隊長はあまり贅沢をこのまないらしい。
戸口はすぐにリビングに続いており、壁に1枚の肖像画が掛けられていた。
3人の人物が描かれている。
1人は隊長本人だとすぐに分かった。
隊長と向かい合うようにきれいな女性が描かれており、二人の間には隊長に抱かれた女の子がいる。
「あの、この子は?」
私が尋ねると隊長は少し寂しそうに言った。
「俺の娘のヘレンだ。3年前に妻と一緒に逝ってしまった。」
「すいません。悲しいことを思い出させてしまいました。」
「なに、もう3年も前のことだ。それなりに切り替えはできているよ。」
少しの沈黙の後、努めて明るい声でヘンリー隊長が言葉を続ける。
「それより飯にしよう。たいしたものはないが買い物に行かなくても大丈夫なくらいの食材はある。少し待っていてくれ。」
隊長はキッチンへ行こうとソファーから立ち上がる。
「あっ私も何か手伝います。」私はあわてて言う。
「ありがとう、けど今日はいろいろあって疲れているだろうから気を遣わなくていいよ。そこで待っていなさい。」
ヘンリー隊長はそう言うと私にソファーを勧めキッチンへと向かった。
「すいません。ありがとうございます。」
私はあげかけた腰を再びソファーへ沈める。
私の正面には肖像画がある。
本当によく描けている肖像画で、ヘンリー隊長は写真のようにそっくりだ。
最もこの世界には写真はないが…。
この絵が写真にそっくりだとすると、亡くなったヘレンちゃんはどことなく私に似ている。
髪は母似なのか私より少し濃い青色で瞳もダークブルー。
面長でちょっと吊り目がちなところなどそっくりだ。
「そうか、だからヘンリー隊長は私をほっておけなかったんだ。」
肖像画の前で小さくつぶやくとキッチンからヘンリー隊長の声がした。
「できたぞ!」
この日の夕食は腐りにくい堅パンと干し肉、卵とタマネギのスープだった。
ヘンリー隊長と世間話をしながら私はスープにパンを浸していただく。
食事の後は客間のベットで眠った。
今日は仮眠こそ取ったが、元いた場所の時間では明け方まで徹夜した後こちらにテレポートして活動していた関係で36時間ほど眠っていない。
ベットに潜り込むとほぼ同時に、私は意識を手放した。




