冒険者ギルドに向かいます…
星の裏側にあるサラス人民共和国はちょうど夕方であった。
首都サラセリアの城壁がかすかに見える草原へとテレポートした私は、一旦城壁と平行に移動し街道に出てから城門を目指す。
街の入り口では衛兵が不審者のチェックしており、首都に入る人々が順番を待って並んでいた。
検問所にはいくつもチェックゲートがあるため、さして待つことなく順番が来た。
私が呼ばれたチェックゲートには40代とおぼしきベテランの厳つい衛兵が手配書の人相書きを片手に検査をしている。
「お嬢ちゃん、1人かい?」
「はい、南のルフルの森で祖父と狩りをして2人暮らしをしていました。両親は私が幼い頃に他界したそうです。先日祖父も両親の元へ旅立ちましたので、生活のため冒険者になろうと思いやってきました。」
「そうかそうか。大変だったね。おじさんそんな話に弱いんだ。おじさんで力になれることがあったら手伝うから、遠慮無く言ってくれ。とりあえず必要事項を記入してくれ。」
衛兵のおじさんから入国管理用の白い木板を渡され、必要事項を書いていく。
ちなみに、この星はなぜか単一言語単一文字で、国ごとに言葉や文字が変わる前世から考えると便利だ。
白い木板には、さすがに本名を書くわけにも行かず、アイネリア・フォン・ヘイゼンベルグから縮めて偽名を記入した。
名前 アリア・ベル
年齢 7歳
出身地 ルフルの森
犯罪歴 なし
ここまで書いたとき衛兵のおじさんがはっとして尋ねてきた。
「お嬢ちゃん、まだ小さいけど字は書けるのかい?」
言いながら私の木板をのぞき込んだおじさんは感心したようにつぶやいた。
「いや、書けるみたいだね。アリアちゃんか…。小さいのにしっかりした字だ。」
「祖父に習いました。祖父は物知りで、いろいろなことを教えてくれたんです。私これから冒険者ギルドに行って見習い冒険者の登録をしようと思うんですけど、ギルドの場所を教えていただけませんか?」
「そうか、それならこれから案内してあげよう。ちょうど交代の時間でこれから帰るところだったんだ。」
衛兵のおじさんはそう言うと若い衛兵に声をかけた。
「おーい、ジョン、交代してくれ。俺は、帰るついでにこの子をギルドまで案内することにするから。」
「分かりました、ヘンリー隊長。お疲れ様でした。」
「衛兵のおじさんは隊長さんなの?」
若い衛兵の言葉で今まで対応してくれていた中年の衛兵さんの名前と役職が分かってちょっとびっくりした。
「はっはっは。隊長と行ってもこの南門の検問所のだから、部下は30人ほどだがな。それよりちょっとそこで待っていてくれ。荷物をとってきたらすぐにギルドに連れて行くからな。」
ヘンリー隊長は明るく笑うと衛兵詰め所から空の弁当箱らしき包みをとってきた。
これからこの街を中心に見習い冒険者をすることになると言うことで、ギルドに向かいながら、ヘンリー隊長が通りや商店などの街で生活する上で便利なところを案内してくれる。
「この通りがメインストリートだ。この通りの店は品物は確かな店が多いが高級店も多い。」
「私、あんまりお金がないんですが…。当面は祖父が残したこの石を売って生活が安定するまでしのごうと思っています。」
私は腰に下げた小さな道具袋をヘンリー隊長に渡した。
この袋にはあらかじめ成分抽出と化学結合操作で暇なときに作ってみた二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭素の結晶が入っている。
純粋なものは全部無色透明な結晶だが、鉄やクロムなどの酸化物を少量混ぜると赤や青や紫の色が付いてとってもきれいなのだ。
上手に大きくできたものは持ってきていないが、1~2cm程度の小さい結晶を30個ほど袋に入れておいた。
ヘンリー隊長は袋を受け取ると、中に入っているものを確認して驚いたように小声で言った。
「これは…、俺はあまり詳しくないが宝石の原石じゃないか?アリアちゃん。もしかしたらかなりの金になるかも知れないぞ。」
「そうですか。ヘンリー隊長、どこか高く買ってくれるところ知りませんか?」
「ギルドで買い取ってもらうのもいいが、もし本当の宝石なら貴族のアクセサリーも手がけている宝石店の買取コーナーがいいかもしれないな。買いたたかれないように一緒に行ってやろう。どうせギルドに行く途中だからな。」
「ありがとうございます。高く買い取ってもらえると、とてもうれしいです!」
実は二酸化ケイ素は水晶やアメジスト、ローズクウォーツ、酸化アルミニウムはサファイア、ルビー、炭素の結晶はダイヤモンドとして知られている宝石である。
この世界でも価値がある宝石かどうかは分からないが、お母様が身につけていたネックレスや指輪にも使われていたことから、ある程度値段が付くと踏んでいる。
お店に着く間に、横町の格安商店街やお得な食堂などを教えてもらいながら道を進んだ。10分ほど歩くと落ち着いた店構えの石づくりの店が見えてきた。
どうやら目的の宝石店のようだ。
ガラス窓がないこの世界では窓に木の格子をはめ殺しにして格子の隙間から店内の商品が見えるようにしている。
ガラスを作る技術自体はあるようだが、半透明のガラスしかなく、グラスや食器などに使われる高級品である。
見事な彫刻が施された光沢のあるチーク材に似た木製のドアに見とれていると、ヘンリー隊長は私の手を取りドアをくぐる。
「ゴメン、店主はいるか。南門衛兵隊長のヘンリー・ギモスだ。」
「いらっしゃいませ。これはギモス様お久しぶりです。今日は何かお探しですか?」
年の頃は50代半ばのに見えるすらりとした紳士が慇懃に出迎えた。左目のモノクルがいかにも宝石の鑑定士っぽく見える。
「いや、今日は原石の鑑定と買取をたのみたい。」
そう言うとヘンリー隊長は私から袋を受け取り、店長に渡した。
「かしこまりました。」
丁寧に小袋を受け取った店長は鑑定台に一つずつ原石を乗せていく。
水晶、アメジストまではそれほど興味を示していなかった店長だが2cmのルビーとダイヤモンドを見つけると顔つきが変わった。
「ほう、これは…。どうやら本物のルビーとダイヤモンドのようですね…。しかも大きさ透明度ともに申し分ない。上手くカッティングすれば1センチを超える大きさにできそうだ。お嬢さん、どこでこれを?」
「祖父の形見です。」
「そうですか…。大切な品のようですが、本当に売却してもよろしいのですか?」
「はい、祖父もこれを万一の時の生活費にするようにいっていましたから。」
「分かりました。ではできるだけご満足がいけるように頑張ってみましょう。鑑定には30個ほどありますので一時間ほどかかります。店内で待ちますか?」
「1時間ですか…。それでしたら先に見習い冒険者登録してきます。ヘンリー隊長。ギルドはここから遠いのですか?」
「いや、100メートルほどしか離れていない。十分行ってこられるよ。」
「分かりました。では鑑定お願いしますね。後でまた来ます。」
一時のいとまを告げると私はヘンリー隊長と宝石店を出た。
「ヘンリー隊長、宝石店の店長さんが久しぶりっていってたけど、以前はよく利用してたんですか?」私は何となく気になって聞いてみた。
「ああ、そんなにしょっちゅうって訳じゃあないけど、妻が生きていた頃はプレゼントを買いに何度か利用した。」
ヘンリー隊長は寂しそうに言ってすっかり夜のとばりがおりた空を見上げる。生きていたと言うことは今はなくなっていると言うことだ。
「すいません、立ち入ったことを聞いてしまい…。」
「何子供が気を遣っているんだ。謝ることはない。それにしてもアリアちゃんは本当にしっかりしているなあ。本当に7歳かい?」
ヘンリー隊長は笑顔を浮かべて聞いてきたがそのまなじりには涙が溜まっているように見えた。
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