尋問…
怒濤の一夜が明けた朝、王宮は戦後処理で混迷を極めている。
なくなられた王様の国葬と、後継体制の確立、とらえた反乱首謀者たちの措置、課題は山積みだ。
特に今回の反乱では3公爵家のうちの2家が関わっていたので、今後の勢力図が大きく代わる可能性もある。
鎮圧への寄与からいうと、我がヘイゼンベルグ家とカスミちゃんのワットマン家の貢献が最も大きいと言うことになるのだろう。
しかしながら、恩賞の前にやるべきことがある。隣国、ゲルマノイル帝国との戦争をどうするかという問題と、ローミラール星人をどうするかという問題だ。
特に前者は、一方的に侵略を開始しようとしていた状況で、こちらに被害が出る前に敵軍を壊滅できたとは言え、今後どうするかが国として問われる事態となっている。
国境付近の落とし穴に入ってもらった1万人近い敵兵も、このまま飢え死にさせるわけにはいかないだろう。
ローミラールに至っては、私とカスミちゃん以外ほとんど状況把握できていないだろうが、我が国を遙かにしのぐ科学技術を持っている異星文明が、2度に渡って侵略を仕掛けてきた意味合いは大きく、このまま放置することは3度目の侵攻を招くおそれすらある。
まずは、一つ一つ片付けるしかないだろう。
王子たちとともにゲルマノイルのハインリヒ軍団長を尋問することにした。
敗戦の将たるハインリヒ軍団長は正直に答えてくれた。
「今回の敗戦で我々の軍は王都防衛の5000人を除き、ほぼ壊滅した。
ローミラールの飛行船に同乗していた2万人の上陸部隊と、地上に展開していた1万5千の騎馬兵、歩兵は、今そちらにとらえられているおよそ1万人しか生き残ってはいないだろう。
公爵たちに貸し与えていた戦力も全滅したらしい。
もはや我々には、戦争を継続する能力どころか、自国を防衛する能力すら十分には残っていない。
しかしながら、我が帝国のアーノルド皇帝は、それを認めることなく更なる戦を仕掛けようとするだろう。
皇帝の頭の中は、領土の拡大しかないからな…」
「なぜ、周辺国の中から我がアルタリアを真っ先に攻めようとしたのだ」
キャスバル王子が問う。
「過去の小競り合いもあるが、なんと言っても大物の内通者が2名もいたから、攻めるに易しと判断したのだ。
まさかこれほどの魔法使いが存在するとは思ってもみなかった」
「それでもゲルマノイルのアーノルド皇帝は、戦争をやろうとするのか?」
レイモンド王子も質問する。
「そうだ。あのお方はもはや我々の言葉に耳を貸すことはないだろう。
今回の侵攻に関しても、本来我々軍部は慎重な意見が多かったのだ。
しかし、異星人の兵器を手に入れた皇帝は、必勝を確信して戦端を開いたのだ」
どうやらトップが狂っていると末端はとても迷惑するという状況はこの世界でも共通らしい。
私たちは簡単に打ち合わせをすると、帝国領土の割譲を条件にして終戦交渉を行うこととした。
帝国との交渉はお父さまたちや、王子たちに任せようと思う。
続いて、ローミラールのサレグロ副団長を呼び、尋問する。
「サレグロ副団長、ローミラールのこの星系における部隊は他にいないの」
「質問に答えるにあたって、我々の命の保証をしていただきたい。部下の命を含め、保証無くして得ることはできない」
「分かったわ。とりあえず処刑するという方法はとりません。これでいいかしら?」
私が身の保証をすると、サレグロは口を開いた。
「現状で生き残っている同胞は、王都周辺で雷に打たれて尚、命を長らえている者と、ゲルマノイル兵とともに穴に落ちている兵士でほとんどだ。
他には、今後侵攻予定だった周囲の国に、情報収集担当として15名ほど潜入任務を行っている」
「今後の侵攻もあり得るのかしら?」
「貴君らの戦力、技術力が明らかになれば、本星の判断も変わるだろうが、基本的に植民地に適した星があれば侵略するのが我がローミラールの方針だ。
そして今回、完膚なきまでに母船もシャトルも失っている現状では、報告すらできない。
遠距離観測データしか用いなければ、貴君らの脅威は本星に伝わることはないだろう。
もしかして以前この星系付近で消息を絶った第47師団も貴君らに破れたのか?」
「そうよ。人型の機動兵器も含めて全て破壊させてもらったわ」
「もし許してもらえるなら、母星へ通信を送りたい。この星の文明が我が方より優れていることが分かれば、本星も侵攻してくることは当面ないだろう。
通信施設を使わせてもらえないか」
どうやら、シャトルも宇宙船も失った状況では通信手段がないらしく、私たちに通信機を借りたいという申し出だが、残念ながら私たちには通信技術そのものがない。
しかし、こちらの不利になる情報を与える必要も無いので適当に誤魔化すことにする。
「検討はしますが、わざわざ敵を招き入れるかも知れない通信が許可できる可能性は低いと思ってください。
ところであなたたちの母星はどこにあるの?」
「我がローミラール星はここより1066光年の彼方、この銀河系の中心方向にある。
ワープナインでおよそ2年の距離だ」
「ワープナインというのはどういうスピードなのか説明しなさい」
「ワープワンが光速の2倍、ワープツーが光速の4倍、ワープスリーが光速の8倍で、二倍ずつ増えていく。ワープナインは光速の512倍だ」
やはり、ローミラールはワープ技術を持っているようだ。しかし、1000光年以上離れているとは、とんでもない距離のようである。
「アイネちゃん。往復4年もかかる距離で、移動手段の宇宙船もないんじゃ停戦交渉のしようもないんじゃないかしら」
カスミちゃんが心配してくれている。
しかし、私には試してみたいことがあった。
私は静かに集中して、サレグロ副団長が言っていた銀河の中心方向をクレヤボヤンスで確認する。
この星系は、本銀河の末端付近に有り、銀河中心までの距離がおよそ5万光年とすると、1000光年ほどの距離にある恒星系で惑星を有しているものはおよその見当がつく。
生物の住環境が整っていると思われる星を透視すると、ビンゴだった。
耳の長い人々が近代都市に住んでいる惑星を見つけたのだ。
わたしは一旦尋問を中断することを告げると、カスミちゃんとともに尋問室を退室する。
王子たちには休憩だと告げておく。
「カスミちゃん、敵の母星と思わしき惑星をクレヤボヤンスで確認したわ。
今からテレポートで到達できないか試してみる」
「えっ、1000光年以上向こうにテレポートして大丈夫なの?」
「分からないけど、少なくとも月までのテレポートでは、全魔力のうちいくらも使ってないように感じたから、本気でやればいけるんじゃないかしら。
ダメならテレポーテーションが発動しないだけだと思うの」
「希望的観測だけどそれなら、私も連れて行ってみて。
どうせ本番ではサレグロ副団長を連れて行って敵と交渉するつもりなんでしょ」
「よく分かったわね」
「もう、長いつきあいだもの」
私はクレヤボヤンスで人気の少ない場所を選んで、カスミちゃんとともにテレポートしてみる。
結果は、問題なく到達できた。この程度の魔力消費なら、かなりの人数をつれてテレポートすることも可能だろう。
ローミラール星はかつての地球を少し発展させたような文明段階で、高層ビルもあれば穀倉地帯もある豊かな星だ。
ローミラール星人が私たちの星で普通に呼吸できていたので予想はしていたが、ローミラールの大気で私たちも普通に呼吸できる。
私は一旦王宮に戻ると、王子たちに相談し、サレグロ副団長を通訳にローミラール本星と交渉することにした。