現状把握…
先ほど自宅にたどり着きました。
旅行中に書いた文を投稿します。
よろしくお願いします。
「説明してくれないか、アイネリア」
お父さまがまっすぐに私の目を見て聞いてきた。
「状況が切迫していますので、手短にお話しします。
今まで隠してきましたが、わたしは転移魔法と千里眼が使えます」
周りのみんなが絶句した。
「それはカスミも使えるのか?」
ジョーイさんがカスミちゃんに尋ねる。
「私は残念ながら使えません」
「それよりもここはいったいどこなのだ?」
ロバート君が聞いてきた。
ここで本当のことを説明しても信じてもらえるかどうか分からない。
「ここは失われた文明都市です。
私が千里眼の能力でたまたま見つけ、冒険者時代に住みやすく改良しました」
とりあえず月面コロニーについては誤魔化してみることにする。
前半は嘘で後半はホントだ。
「いったいどこにこのような街があったんだ?」
アーサー君が素直な疑問を口にする。
「青い月の裏側です」
ここは正直に伝える。
「それにしてもすさまじい魔力だな。
この人数を月の裏側まで一気に転移させたのか…」
お父さまが半ば呆然としながらつぶやいたが、周りの人はそのつぶやきにみんな無言で頷いている。
私はそんな周囲の反応をよそに、クレヤボヤンスで状況を確認することにした。
学園は完全に占領されている。王宮は今のところ無事だが、周囲に移動する兵団が確認できる。
街の中まで完全に掌握されるのも時間の問題だろう。
私はとりあえず、自分たちの関係者だけでも月面コロニーに避難させることにし、説明なしで私の家族と王宮の王族を連れてきた。
お母様も王妃様も混乱していたが、説明はお父さまにお任せする。
しかし、公爵の手持ちの兵とローミラール星人で王都を占拠したとして、ローミラールにメリットがあるのだろうか。
前回ローミラールは圧倒的な技術力を背景に、服従か死かを惑星中の全人類に突きつけてきた。
そんな彼らが、いくらか慎重になったとは言え、軍事的にはそれほどの力を持っていなかったアルタリアの首都を押さえるだけで満足するのだろうか。
ちなみに、この世界で最も軍事力を持っているのは隣国のゲルマノイル帝国であり、実際に何度かアルタリアに侵略戦争を仕掛けてきた過去がある。
しかし、その都度なんとか撃退に成功し、現在は小康状態を保っているのだが、そういえば世界半周時にゲルマノイルを通ったとき、戦争の兆候があるという話を聞いたような気もする。
私がもしローミラールの立場なら、まず籠絡すべきはゲルマノイル帝国であり、アルタリアはその次だと考えるだろう。
何か猛烈に嫌な予感がする。
私はクレヤボヤンスで国境付近を確認する。
そこには今まさに侵攻しようとするゲルマノイル帝国軍がいた。
さらに兵団の後方には多数のシャトルが駐機している。
ほぼ間違いないだろう。ローミラールはまず帝国を占領して従えるか、懐柔して駒にしている。
ということは母船もどこかにいるはずだ。
あの規模の宇宙船がそのまま惑星に降下できるとは思えないので、宇宙空間を探す。やはり衛星の影あたりが怪しいだろう。
この月の周辺には見当たらない。
赤い月の近くにもいない。
最後に連星となっているもっとも外側の月を確認すると、ちょうど惑星から影になる位置に多数の串団子型宇宙船を確認できた。
その数、およそ50隻。前回進行時の約2倍規模だ。
一刻の猶予もなさそうな状況に、私はすぐカスミちゃんに小声で相談する。
「カスミちゃん。ローミラールが潜入してきているわ」
「やっぱり…。あの銃はそうじゃないかと思っていたのよ…」
「一番外の連星裏におよそ50隻、ゲルマノイル帝国軍が国境付近に展開していて、その近くにローミラールのものと思われるシャトルがおよそ30機ほど駐機中よ。
王都のヨークシャー公爵、ステッドブルグ公爵の軍にもかなりの数の帝国兵とローミラール星人が混ざっているみたいね…」
「まずいわね…。
どうする?」
「とりあえず母船を叩く方がいいと思うのよ。
戦略に詳しい人がいれば相談したいけど、この状況は上手く説明できるか自信が無いわ…」
「戦略に詳しそうなのはアーサー君のお父さんじゃないかな。騎士団長だし…
一般論として聞いてみればアドバイスしてくれると思うの」
「一般論って?」
「ローミラールのことは理解できないと思うから、そこを隠して上手く説明するのよ。
私がやってみるわ」
「わかった。頼んだわよ、カスミちゃん」
私たちはアーサー君にお父さんを紹介してもらうことにした。