三人の平常運転
城塞都市「エンヴィー」の周りには樹海が広がっている。新緑の季節。樹海の緑がいつも以上に濃い。
「エンヴィー」は、この大陸では中規模の地方都市だ。
しかし、城塞都市とうたわれるだけのことはあり、外壁は小国の首都に相当する程、堅固で大規模な石壁だ。
ようやく樹海の中の薄暗い街道を抜け、私達3人は「エンヴィー」の大門に到着した。あと1時間もすれば太陽が沈むだろう。
大門は非常に大きく、馬車がすれ違うのが容易なほど幅広く、櫓も立派なものが付いている。
で、今日ここに来たのは、「エンヴィー」を囲む樹海の中に廃城があるという情報を私たちは得た。その情報の確認だ。
「エンヴィー」は冒険者の街とも言われるほど、冒険者が集まってくる。
「エンヴィー」は大陸の中央付近に位置しているので、どこからでもアクセスがいい。人が集まるところには情報も集まる。情報屋も精度が高い情報を専門にする者がいるし、困ったら「エンヴィー」で聞けって言われている。
ちなみにここは都市国家だ。各職業の組合連合が仕切っている。
一度、近くの小国が攻めたらしいが、戦闘のプロが集まるこの街に返り討ちにあったそうな。それもたった一晩で。
軍の司令官が暗殺され、王の寝室にその日の晩に首がデリバリーされたそうな。酒組合、盗賊組合、配達組合などが主に動いたのでしょうね。
それ以来、どこも手を出す気配なし。私だって「エンヴィー」には喧嘩を売りたくない。奴隷市場に商品として並ぶことは必至だもの。
櫓からは弓を担いだ衛兵が町への出入りに気をはっていた。
衛兵は私達三人を見下ろす。
多分、ここから見えないところからも監視されていると思う。視線の数が合わない。
厳重な監視の中、何も考えずに一番前を歩くのは、全身をプレートメイルで覆う戦士、ウォン。二十代前半の人間の男だ。ロングソードを腰に差している。左手にはラージシールドを握りしめている。長髪を後ろに束ね、無造作に流し、久しぶりに街に寄るためか鼻歌を歌っている。ご機嫌というやつね。
監視されていることは、十分わかっているのに歯牙にもかけない。
ここの衛兵程度なら一人で朝飯前であしらってしまう。気にしてないのだろう。
外見は、特徴が無いのが特徴。誰が見ても人畜無害にしか見えない。
自分が衛兵に詰問されることは無いと高をくくっている。
平凡な外見は、街に溶け込むのにはうってつけだ。衛兵の視線は、主に私たち女性陣に向けられていることが物語っている、
しかし、凶悪なモンスターを涼しい顔で切り裂いていく恐ろしい男だ。
その外見で敵も油断してしまうようだ。
次に続くのは、もっとも衛兵たちの視線を一番集めている同じく全身をプレートメイルで覆う僧侶。いや司祭だったかな。この前、昇進したとか言っていたか。まあ、どうでもいいや。私達には肩書きなんて関係ない。
腰にはメイスをぶら下げ、背中にミディアムシールドを背負っている。名はカタラ。二十代前半の人間の女だ。
相当な美人だ。知的というか博識というか知性派美人とでも呼べばいいかな。クールビューティーという言葉がよく似合う。
神に操をたてているため男どもを一切近づかせない。触れようものなら、即、戦闘態勢に入り追い散らす。
怪我をさせない様にしているのは、さすがに僧侶らしいかな。
しかし、メイス程恐ろしい武器は無い。聖職者は人を傷つける刃物が持てない戒律があるとかで鈍器を持つのが一般的だそうな。
しかし鈍器で殴られるのは悲惨だ。殴られたところは押し潰され、剣と違い即死することもなかなか無く、死ぬまで殴り続けられる。
一思いに止めを刺してくれと、敵に懇願されても物理的に出来ない。
さらに刃こぼれや剣が折れるなどとは疎遠。敵を何十人倒して、武器が血や脂に染まっても武器の破壊力は落ちない。
さらに鎧なんかもレーザーアーマーやチェインメイルなどは打撃により変形し、直接肉体に衝撃が加わる。剣の斬撃を弾いてくれるチェインメイルもメイスには形無しだ。
剣よりよっぽど恐ろしい。
だが、一般人はメイスを突き出されても理解できないようだ。
ちょいと聞きたいことがあってもメイスを突き出しても恐怖心を感じないようだ。きょとんとしている。
私なら恐ろしい。苦痛が長時間にわたって与え続けられるなんて体験したくない。
その点、剣は一般人でも分かりやすいようだ。剣を突きつけられると生命に危険をすぐに感じるらしい。
なぜ、カタラが信仰する神様というものは、こんな危険なものを推奨するのだろう。
エルフの私には理解できない。まぁ、理解するつもりもないけど。
で、最後尾についているのが私こと、ミューレ。同じく全身をプレートメイルで覆い背中にバスタードソードを背負っている。
少し変わった剣で片手でも使えるし、両手でも使えるようにと柄がロングソードの倍以上ある。普段は片手剣として使用し、ミディアムシールドと併用している。
ここ一番という時や装甲が貫通しない時に両手剣として力いっぱい切りつけるなどして使い分けている。
だが三人の中で、一番変わっているのは私の外見だろう。
顔の上半分を木製の仮面で隠しているからだ。東方からの舶来品だ。この大陸では簡単に手に入らない。全面がきれいに白塗りされ、ところどころに藍色で模様があしらわれている落ち着いたデザイン。私のお気に入りだ。
戦闘に支障をきたさない様に光が反射しないことは確認済み。
この仮面が何よりも目立つ。異国の仮面を被る見た目は十代後半の少女だ。しかし実は人間ではない。エルフだ。寿命は約八百歳。確か、実年齢は確か二百歳位だったと思う。え、もっと正確な年齢?
もう、細かいことは聞かないで。二百年も生きていると一・二年の誤差は、どうでもよくなるのよ。
エルフというのは外見的・内面的特徴がハッキリしすぎている。尖った耳と整った顔立ち。性格的には人間を見下すというか、エルフ以外の生物は教養や優雅さが足りないなんて思っているのが多数を占めている。
何せエルフの里から外へ出たことが無い者ばかりで、人間を侮りすぎているわ。
私みたいに数十年も世界を旅していると人間が最も世界で繁栄していることをよく知っている。次に数が多いのはゴブリンかな。あいつらも繁栄していると言っていいのかしら。どちらでもいいか。
また、エルフは人間よりも魔法にも精通している。人間と比べれば、時間が余っているのだから自然と魔法の知識量が増えるのは仕方がないわよね。
この世界ではエルフは少数派ということで、見世物扱い。そのエルフの中でもさらに美形の私は、色んな物を寄せ付けてしまう。ナンパから始まり、迫害、奴隷商人、見世物小屋など、ろくなものが来た試しがない。旅に出た頃は、毎回力づくで追い払っていたけれど。
まともなお誘いもあった。いわゆるパーティーへの勧誘というもの。
でも、まじめというか、お堅いというか、名声をあげる!というのが、ほとんどだったからしばらくして脱退したわ。堅苦しいのは苦手だわ。
だから、パーティーを本格的に組むのは、このパーティーが実は初めてだったりする。
何せ、こいつらは何も考えていないし、名声も欲しがってないし、規律もない。楽しかったら最高!冒険を楽しめ!
ゆるゆるパーティーだったのが決め手かな。
あれ、カタラがこっちを見つめるというか、睨んでいる。声には出していないはず。多分。
カタラは勘がいいからなぁ。神様とやらがカタラに囁いているのかも。
私にちょっかいをかけてくる連中の内、しつこい奴は丁重に可愛がってあげた。幾人かは違う自分に目覚めたというか発見した奴がいたなぁ。
女王様とか言って付け回されちゃった。でも、あいつらももう墓の下か…。人間って何でこんなに寿命が短いのかしら。少し寂しさを感じるわ。
せっかく、鞭を買ってあげたのに。ここ数年出番がないわね。お陰で鞭使いなんてスキルを習得しちゃったけど。
しばらくして、追い払うのも面倒になり、人間の振りをすることにした。
髪を伸ばして耳を隠し、特徴のある仮面をかぶり、エルフの顔立ちを目立たさない。
何だかんだで、見た目が怪しい人間が出来上がった訳ですが、このご時世、怪我の跡を仮面で隠しているとか思われているようだ。
実際に冒険者の何割かは顔に傷が入っているのは事実だし。
おかげで、変なものが来なくてなって清々しているが、怪しい視線を浴びるのは気にしないでおくことにしましょう。何でも前向きに考えます。
今は、基本的にこの3人でパーティーを組んでいるが、他にもなじみが数人いる。
三人で手におえない冒険の時は集合をかけたりする。
あまり大所帯になると意見の統一に時間がかかって面倒なの。特にあのドワーホ。いや、ドワーフ。あいつは何で理論立てて行動できない。
ああ、思い出したら腹が立つ。忘れよう。
私たちの実力は世界ランカーだと思うのだが、知名度がまったく無い。世界最強の生物と呼ばれるドラゴンの成龍も何匹か退治してきたけど、目撃者がいないから噂になることもない。
かと言って、自分たちで「ドラゴン退治したよ」って言っても説得力もないから言わない。証拠出せって言われてもドラゴンの鱗くらいじゃ信じてもらえないし、ドラゴンの首を持ち歩くのも気持ち悪い。町に着くまでに腐っちゃう。普通はしないよね。それに気持ち悪いし。
で、知名度が無いから王様とかに呼ばれて冒険の依頼をされたりとか、人気パーティーの様に似顔絵を描いてもらったりとかはない。
いやぁ、気楽だわ。町を自由に歩けるって。
人気パーティーの奴ら、安い値段で難しいクエストばかり依頼され、断ったら陰口を叩かれ、根も葉もない噂を立てられる。街ではニコニコしているけど、外へ出たらどんよりしているものねぇ、あいつら。ありゃ精神を病む一歩手前ね。勇者さまは大変だ。
知名度がないのは、本当に気楽だ。
今回の城の情報は、かなり信頼性の低い情報で他の冒険者たちは信じていなかった。
しかし、私達三人もあまり信じていない。逆に情報の信頼性の低さが冒険する気になった。
というのも何年も冒険を続けているとどうしても装備品や宝物などが手元に集まってくる。基本的に貴重品以外は換金してしまうのだが、二度と手に入らぬようなお宝に出会うことがある。
世界のあちらこちらのアジトに隠しているが、場所が狭かったり、交通の便が悪かったりして、使い勝手が悪かった。
廃城なら、そこそこの規模があるだろうし、隠し部屋の一つや二つあるだろう。
もし、本当に廃城があるなら儲け物だ。
交通量が多いここなら今まで廃城が見つからないのはおかしい。
たくさんの人間が樹海を通ってきているのに、廃城を見たという噂が全くない。
ここまで見つからないアジトなんて素敵だし、これこそ冒険だわ。
噂が出ないため、この情報は信頼性が無いと判断され、誰も捜索をしようとしていなかった。
だって、見つかる確率のない仕事なんて普通のパーティーはしないわよね。
でも、私たちは別にお金に困っている訳でもなく、売名行為をする必要もない。ただ、冒険がしたいの。それもできるだけ、他のパーティーが関わってこない様なクエストがいい。
ダンジョンの中で他のパーティーと鉢合わせなんて興が覚める。だって、その先は、他のパーティーが探索済みで楽しみがない。
冒険はスリルとワクワクがあった方がいい。
何もなければガッカリくるけど、それもまた何も無かったという結果がはっきりするし。
世界の特別な謎やお宝は、そんなクエストに埋まっていると信じたい。
私たちは、なじみの酒場兼宿屋に到着し、扉をくぐる。
「お、お三方いらっしゃい。久しぶりだね。」
五十歳位の人間の男のマスターが迎えてくれる。『エンヴィー』に来た時は、ここ酒場兼宿屋の『四季物語』を定宿にしている。
一般的な造りで一階が酒場で二階が宿屋になっている。
「さて、どの部屋にするかい?」
マスターが手際よく、鍵を三本並べていく。部屋の造りは全て同じで違いなんてない。違いは窓の外の風景。私は素早く203って書いてある鍵を取る。ウォンとカタラは自分に近い鍵を取る。
「203ゲット!」
「ミューレ、慌てなくても取らんぞ。お前の行動は分かっている」
「ミューレ、はしたないですよ。あなたのお好きな部屋は取りませんよ」
二人に嗜められる。でも203号室を選ぶ理由がある。
この宿の203号室だけは、窓からの景色が別格だ。
ちょうど正面に大通りがあって、大門まで見通せる。夜になると店先に吊るした街灯が星明りの様に大通りに沿って綺麗に灯る。
そんな光景を眺めながらのワインを嗜むのがこの宿屋での最高の贅沢だと私は思っている。
え、外から狙撃されやすい部屋じゃないかですって。
ええ、その通りよ。でも、私たちは知名度が無い。つまり、恨みや妬みを買うことがないってこと。だから、街中でも自由にできる。私にとって知名度何て足枷にしかならない。
ウォンは目をつぶって寝たらどこでも一緒だ。
カタラは神への感謝を静かに捧げる場所があれば十分ですと言ってたなぁ。人間は人生短いのだから、もっと色々楽しめばいいのに。
ちなみにマスターは私が203号室がお気に入りなのを覚えていてくれて、混雑していない時は出来るだけ部屋を空けておいてくれる。
まぁ、その分チップをいつも渡しているのだけど。
「じゃあ、荷物を置いて三十分後に食堂に集合でいいか?」
ウォンが提案してくるが、
『二時間後!』
私とカタラの声がハモる。
「何で、そんなに時間がかかるんだ?」
「ウォン、いつになったら覚えるのですか。女性は入浴など身支度に時間がかかるのです。冒険中は時間をかけませんが、街中にいる時くらいはしっかり時間を頂きます」
「そうそう、髪や身体をしっかり洗いたいじゃない。こういう時じゃないとできないし。何なら手伝う?」
「手伝う事なんかあったか?別に俺は興味ないぞ」
「ミューレ!女性としてはしたない。その様なことは私が許しません」
「冗談、冗談。だったら、カタラと洗いっこする?」
「しません!例え同性であろうとも、むやみに素肌を人様に見せるなど不謹慎です」
「ぼちぼち終わったか~、いつものやつ」
ウォンがのんびり声をかけてくる。勇敢な戦士の欠片も感じない。
「終わったよ。じゃあ、後でね~」
二人を置いて、とっと二階に上がる。勝手知ったる宿。どこに何があるが熟知している。もちろん酒蔵の中もだ。あとで、ワインを取りに行こう。
そしてお気に入りの203号室に入る。背負っていたバックパックを隅に降ろし、プレートメイルを分解していく。
毎日、脱いで着ての繰り返しをしている為、手慣れたものだ。ほんの5分ですべて外し終える。魔法のプレートメイルで軽量化されているというのも早く脱着できる秘訣というのは秘密。あれ、だれに秘密にする必要があるのかな?
身軽になった私は窓に近づき、窓を開く。心地よい春の風が部屋に流れ込んでくる。
外は夕暮れ時になり、街灯が点き始めている。まだ、お気に入りの景色にはなっていないが、今晩のお楽しみにとっておこう。
分厚い遮光カーテンだけを閉め、お風呂の準備をする。
宿の地下に大浴場がある。バックパックからお風呂セットと着替えを取り出し、大浴場に向かう。
久しぶりのお風呂、じっくり楽しませてもらおう。
はぁ~、すっきりした。体も芯まで蕩けた。
部屋に戻り、ベッドに寝転び呆けている。
え、サービスシーンはどうしたって。何か頭に響いたような…。
ただの入浴に事件は発生しなかったし、カタラは隅でコソコソしていたくらいだし、特筆することは無かったわね。
何が知りたかったのかしら?というか、この声は何だったのかしら。
疲れていたのね。幻聴を聞くなんて。
さて、そろそろ食堂に行きますか。
ウォンが待ちくたびれているわね。
階段を下りていくとウォンがこちらに手を振っている。あえて、無視をしようかしら。でも、利点というか面白さがないわね。やめておこう。
カタラも先にテーブルについている。
こういうところで性格が出るわね。ウォンはやることが無いから早く来ただけで、カタラは決められた時間の十分前に集合している。
で、私は時間ピッタリ。遅れもせず、早くも行かない。
多分、今回もそんな感じで集合したと思う。
「ミューレ、相変わらず時間通りだな。たまには早くきてくれ。腹が減って死にそうだ」
「十分前行動は、団体行動の基本ですよ。まぁ、遅刻ではないのでこれ以上は言いませんが」
「はいはい。で、注文は済んだの?」
「この時間に適当に四人分持ってくる様に頼んだぞ。そろそろ来るんじゃないか。飲み物だけ各自で注文してくれ」
「そうですか、ありがとう。私はいつも通りハーブティーにしましょう」
「相変わらず、カタラは酒を飲まないんだな。ミューレ、どうする?」
このどうするは、同じ酒を飲むならピッチャーで頼むが、違うものならグラスで注文するぞ。ミューレ、お前は何を頼むんだ?早く決めろ。俺は酒を今すぐ飲みたいぞ、という意味を含んでいる。長年の付き合いでないと分からないだろうな。
「とりあえず、エールにしましょうか。風呂上りだしゴクゴクいきたいわ」
「よし、ならピッチャーだな。マスター、エールをピッチャーで一つ。グラスは二個。あとハーブティー一つ注文よろしく」
「あいよ、すぐ持ってくよ」
ウォンの大きい声が食堂の喧騒に負けずに少し離れたカウンターのマスターにまで届く。マスターも同じく喧騒に負けず返事をしてくる。
「へい、エールお待ち。ハーブティーは今、蒸らしているからしばしお待ちを」
マスターは空のグラスを私とウォンの前に置く。さすがマスター、常連のことはよくご存じで。
ウォンが何も言わず、私のグラスにエールを注ぎ、すぐに自分のグラスに注ぐ。
「どうぞ、お先に進めて下さい」
カタラが機先を制する。
「じゃ、お言葉に甘えて。今後の楽しい冒険に乾杯!」
ウォンが叫ぶと一気にグラスを空ける。そしてすぐに注ぐ。
「いや~。美味い。喉に染み渡る」
そこへマスターすかさず前菜を持ってくる。ハムとベーコンの薄切りと生野菜。そしてハーブティー。
カタラがハーブティーに口をつける。
「本当に不思議。このような酒場で繊細なお茶を頂けるとは。おいしい」
どうやら、いつも通りご満足のようだ。
さて、私も食べる飲むを繰り返す。
マスターは頃合いを見計らって料理を追加してくれる。
「さて、今後の方針を決めよっか」
「そうですね。まずは情報屋と冒険者ギルドに寄るのはいかがですか」
「あと、鍛冶屋も寄ってくれ。剣を手入れしておきたい」
「そうね、私も自分での手入れも限界があるし、職人に一度預けるわ」
今回は、樹海に入れば中々街に戻れそうにない。長丁場になるだろう。何せ情報がないのだから、あてどもなく樹海を彷徨うことになるのだから、準備は万端にしておきたい。
「では、その間に私は教会に顔を出しておきましょう。もしかすると何か聞けるかもしれません」
「じゃ、頼んだ。盗賊ギルドにも聞きに行くか?」
「それは、止めといたら。もし、城を見つけた場合に泥棒にくるわよ」
「あぁ、奴らならやりそうだな。止めとくか」
「それですと冒険者ギルドも同じですわ。あそこにも盗賊がいるんですから」
「じゃあ、この街ですることは下準備くらいか…。だが、情報屋はあまりあてに出来んぞ」
三人が黙り込む。皆それぞれ二の手を考えているようだ。
しばらく、食器が立てる音だけが響く。
「ゴブリン狩りはどうかな」
『は?』
ウォンとカタラが私の提案に固まる。
「情報屋ではゴブリンのコロニー情報を仕入れて、順繰りにコロニーで情報を集めていくの。もちろん戦闘の連続になるのは理解している。でも、ゴブリンは日頃から樹海を生活の場にしているのよ。人間より樹海のことは詳しいはず」
「確かにミューレの言葉に一理はあります。しかし、連続戦闘になるのが問題です」
「休養日をきっちりとれば、いけるだろう」
「樹海で休養日をとるのは現実的ではありませんわ」
「限界になる前に街に帰ればいいさ。そんなに遠くないだろ」
「わかりました。疲労がたまる前に街に必ず戻りますよ」
「了解」
「でね、コロニーで上級種のコロニーを聞いて樹海の奥に進んでいくの。上級種なら何か知っていそうな気がしない?で、さらに上級種のコロニーへ行って情報を聞く。これの繰り返し、どう?」
「ミューレは面白いことを考えるな。俺はその話に乗る」
「念のため確認ですが、皆は何語が話せるのですか?」
「俺は人間語」
「えぇ、そうでしょうね。ちなみに私はゴブリン語、ホブゴブリン語ですが」
何かカタラの肩が震えているような気がする。カタラは真面目だな~。ウォンの発言はいつもの事なのに。ならば。
「えぇと、ゴブリン語、ホブゴブリン語、オーク語、トロール語、ジャイアント語、ドラゴン語かな。あっ!あとエルフ語!」
「えぇ、えぇエルフ語は話せそうですね。ミューレはどこの生まれですか!」
カタラの肩がさらに震えている。面白い。
「あ、人間語も追加~」
「えぇ、えぇ、よく存じていますわ。たった今、目の前で私に話してくださってますもの。私が勘違いしていないかぎりわ」
カタラが机の上でこぶしを固く握りしめている。ここは追い打ちをかけよう。
「にゃははは、カタラ君。酔っ払いには論理的思考はないのだよ」
「そうそう、酔っ払いに対しては心を広く持つのが大事だぞ」
テーブルの上には空のピッチャーが十個ほど転がっていた。途中でマスターが料理と入れ替えで下げているので本当はもっと飲んでいる。
「そうだ、カタラ。酔っ払いに勝つ方法が一つあるぞ」
「お、それは私も初耳だぞ」
カタラは、一つため息をつく。
「一応、お聞きしましょう」
「お主も飲め~!」
「正論にゃ~!飲め~!」
「いや~、止めて~!私は戒律で飲めません!」
「よしよし、はいカタラのグラス。どうぞ」
「ふははは、酔っ払いには理性はない!飲め~」
こうして、要塞都市「エンヴィー」での一日目は終わった。
前作にてレビューやブックマークまた評価まだしていただき誠にありがとうございます。
システムが良く分かっていないため、この場をお借りして御礼申し上げます。
予想より多くの方に読んでいただき感謝しております。
本当にありがとうございます。
さて、今回は作風を変えてみました。
勉強中のため、次の作品でも作風が変わるかもしれません。
これが私の書き方ですと固まるのは何時になるのでしょうか。
少しでも皆様にお楽しみいただけるようがんばってまいります。