プロローグ #1
そこは暗くて暖かな場所だった。
私は何処にいるのか分からない。
でも不思議と居心地がいい場所だ。
出来るならその場所に留まりたい。
ダラダラと一日中なにもせずに過ごすのもいいかもしれない。
遠くからクラシック音楽が優雅に流れてきた。
なんの曲だったか思い出せないが、好きだったのは覚えてる。
すぅぅぅぅうううううううう…
人の気配がした。
「!?」
誰なんだろう?急に私は怖くなった。
真っ暗な場所に居るのは私だけではないようだ。
すると何処からか光がさしてきた。
次第にそこは薄明るくなり色んな物を映しだした。
「眩しい…」
瞼を閉ざしていても光は眼球に入ってきた。
きっと吸血鬼だったら死んでるだろうなと連想して笑った。
私は白い靄が渦巻く場所に寝そべっていた。
どうやらベットで寝ているようだ。
何枚もマットを重ねているのでベッドが、フカフカしてて気持ちがいい。
このベッドは低反発マットより優れていると思う。
ベットが私を離してくれない…いや…私がベットから離れたくない。
低血圧で直ぐに身体を動かせない私はしばらくベットに横になることにした。
「あー、幸せ。このまま夜にならないかな。」
日光にあたるのが好きじゃない私は顔を隠すように掛け布団をかけた。
羽毛布団と毛布がしっかりと日光を遮った。
血が好きだったら本当に吸血鬼だったと思う。
自分の血には関心がないけれど人が血を流してると恐怖で顔を歪めてしまう。
変だろうが自分を大事に思ってないから、自分が血を流しても平気なのだ。
とても疲れていたのか身体が動かせない。
「今日もたくさん練習したからかな?」
ダンスの練習をしていた私の身体は、かなり疲労がたまっていた。
足の爪は剥がれて、足首を捻挫していた。
靄が晴れてきた誰かが私の様子を窺ってるようだ。
掛け布団の中は生温かい空気で二酸化炭素が充満していた。
息苦しくなって掛け布団から顔を出した。
「プハ―!」
冬の空気は冷たくて澄んでいるような気がする。
肺にいっぱい冷たい空気を入れて息を吐いた。
重い瞼を開けるとMが目の前にいた。
腰まである長い髪はMしか居ないので、視界がぼんやりしててもMだと分かった。
赤い物をMは持っていた。
「__ちゃん食べる?」
Mは、私に何か食べさせたいようだ。
「うん?」
私は眼鏡をかけた。
目の悪い私は眼鏡無しでは道すら歩けないだろう。
視力が悪いのは親ゆずりで、仕方なかった。
眼鏡をかけた私は、ゆっくりとMを見た。
Mの片手には真っ赤な血が滴る心臓が握られていた。
全身から汗がブワっとにじんで身体が硬直した。
私の両目から涙が流れた…あまりの恐怖で声が出なかった。