EP10 俺、吸血鬼と遭遇する。その2
広大なケモニア大陸のど真ん中にある区域――兎天原には、五つの恐怖スポットが存在している。
理由はわからないけど、大昔から女人禁制とされており、仮に女性が足を踏み入れると神罰が下るとされる天空姫と呼ばれる女神が住まうオリン山。
逆に男性が足を踏み入れると神罰が下るとされる女帝と呼ばれる前述した天空姫の母親だとか姉に当たる女神が住まうポース山。
神々の敵と言われる怪物聖母の子孫が潜んでいるというウワサがある天狼の幽谷と邪龍の洞穴。
そして最後のひとつが吸血鬼が住まうとされるハイドラベルデ城だ。
さて、恐怖スポットとはいえ、一攫千金を狙う冒険者と呼ばれる連中にとっては魅力的な場所だったりするワケだ。
五大恐怖スポットには、どこも例外なく上手く入手できれば、数年は遊んで暮らせるような破格の値段で売れるような代物が見つかる場合があるとかないとか……。
それ故に、五大恐怖スポットに臨む無謀な冒険者が後を絶たないって聞く。
と、そんな無謀な連中のおかげで兎天原の各地には、なんだかんだと野戦病院が多いのは皮肉な話だ。
それはともかく、吸血鬼が住まうとされるハイドラベルデ城からやって来た吸血鬼にエフェポスの村が襲撃されたという。
で、俺達一行は村長である見た目は十四、五歳だが実年齢はトンでもないというウワサがあるロリババア……いやいや、フレイに誘われるかたちでアジトからエフェポスの村の長老こと老師ウサエルの屋敷へと移動するのだった。
「悲劇的伝説が残っている!?」
「ハイドラベルデ城にかガウ?」
と、俺とサキは煎餅を口にくわえながら、老師ウサエルの話を耳を傾ける。
「その話なら私も知っていますわ、お姉様。何せ、マーテル王国絡みの伝説ですしね。」
「ふーん、マーテル王国絡みの悲劇的伝説ねぇ……。」
グラーニアの真名はリリス――マーテル王国の家出姫というアダ名を持つそんなマーテル王国の第一王女でもあるワケだ。
故に知っていて当然だろう。
マーテル王国絡みの悲劇的伝説ってヤツを――。
「リリス様……いえいえ、グラーニア様、もしかしてランシュロとグリーネの物語ですか?」
「その通りですわ、ミネル。」
「やはり、あの伝説でしたか、私の家系はマーテル王家に連なる一族です。あの伝説については無論、聞いたことがあります。」
確かミネルは、マーテル王国の現国王のアルゴニウス七世の従弟のアテルス侯爵の奥方の妹の娘で……とにかく、マーテル王国にまつわる悲劇的伝説を知っていて当然の人物だな。
「で、そのランシュロとグリーネの物語とは、一体全体どんな話なんだ?」
「うーん、そうですわね。不倫から始まった悲劇ですわね、あの話は……。」
「不倫だって!? うへぇ、昼ドラのような生々しい物語なのかな?」
「昼ドラ? 時々、お姉様は聞き慣れない妙なことを言いますわね。」
「ああ、まったくだ!」
「むう……そ、そんなツッコミはいいからさ。件のランシュロとグリーネの物語の詳細を語ってくれよ!」
やれやれ、俺は時々、本来いるべき世界の用語を口にしているようだ。
ふう、妙なことを言っているように聞こえて当然だよなぁ……と、それはさておき、ランシュロとグリーネの物語についての詳細をグラーニアに俺は訊いてみるのだった。




