EP9 俺、巨人族の少女と出逢う。その16
「髑髏茸、死臭茸、毒蛾草、魔界樹の葉……と、それを水に溶かした飲み薬は、現在では失われてしまった秘薬のようだなぁ。」
「しかし、キョウ様の物好きですね。こんな奴を甦らせてやるだなんて……。」
「うん、コイツは俺を殺害しにやって来たとか、そんな物騒な輩じゃないしなぁ……そうだろう、ワンちゃん?」
「ワンちゃんではない! 私はアレスだ! まあ、図星だがな。マルスちゃんはアンタの大ファンなんだ……リリス姫。」
「リリス姫ぇ? ハハハ、そういや、俺の容姿は彼女とそっくりだったな。まあ、それはともかく、即席ゾンビ薬を飲ませてみるか……。」
俺は確かに物好きかもしれないなぁ……。
ま、それはイイや、即席ゾンビ薬を地面に埋まったかたちで死んでいるっぽいマルスの口の中に流し込んでみるとしよう。
「この人物、何故、仮面なんかで素顔を……。」
「きっと対人恐怖症とか赤面症なんでしょうね。」
「さて、どんな素顔をしているんでしょうなぁ!」
「よし、わらわがコイツの仮面を……おお、怖っ! 両目を見開いた状態で絶命しておる!」
「わあ、大量の血を吐いていますね。ヒイイ、事故によって死んだ人間の死に顔は怖すぎだ!」
「ふむふむ、なんだかんだと、マルスの輩は……十八、九歳くらいの女のコのようね。」
ピルケがマルスの素顔を多い隠している不気味な仮面をひっぺ返す……。
むう、両目がカッと見開き、オマケにポカンと開いた口には、大量の血を吐いた痕跡が見受けられるそんなマルスの素顔が露わとなる……え、女のコ!?
「むう、確かに男ではないな。この容貌を見る限りでは……。」
「ですなぁ、しかし自分の身に何が起きたのかわからずに死んでしまった感じの死に顔に見えるのは、俺だけだろうか?」
アシュトンの言う通り、マルスの死に顔を見ると、自身に身に何が起きたのかわからないまま逝った――という感じだな……。
「お、ホントに女のコのようだ!」
「デュオニス君! 死んでいるからって胸を揉んで確かめるのはどうかと思う!」
「さて、どうでもいいが、ソイツを口の中に注ぎ込めばいいんじゃな? どれどれ、わらわにやらせてくれ!」
「あ、ああ……。」
俺が手渡した飲み薬こと即席ゾンビ薬をピルケは、ポカンと開いたまま二度と閉じることがない死体と化したマルスの血まみれの口の中の流し込む。
「うううう、苦いィ!」
お、薬効ありィィィ~~~!
と、ばかりにマルスが大声を張りあげて起きあがる。
「よし、ゾンビ化に成功だ。」
「ゾンビ化に成功!?」
「ああ、アイツはゾンビとなって甦ったんだのさ、ワンちゃん。」
死んで間もない人間には効果が絶大だなぁ、この薬は……。
さてと、マルスは気づくだろか、自分がゾンビとして蘇ったことを――。
「あ、あれ、私は使い魔の集合体の下敷きになって……う、ううう、この奇妙な感じは、ま、ま、ま……まさか!?」
マルスは右手の血まみれの口を拭いながら、全身を震わせて狼狽する。
お、予想通り、自分が不死者の一種であるゾンビと化したことに即、気づいたようだ。
伊達に死者を使い魔として行使する死霊使いをやっちゃいないって感じだろうか?
「ひゃ、ひゃはあああ……最高! 超ォォ最高だ!」
「えっ……!?」
「そりゃもう最高だ! 私はゾンビになってしまうだなんて……うりゃー! アハハ、痛くなぁ~い☆」
「…………。」
へ、変態だァァァ~~~!
マルスは隠し持っていた短剣の柄を右手で握ると、そんな短剣を笑いながら、左手の手の平に突き刺す……ヒ、ヒイ、ゾンビになったことで痛覚が麻痺しているとはいえ、無茶しやがる!
「マルスちゃん、色々と壊れちゃったね。ああ、元からか……。」
「お前は何を言っているんだ? 私は正常だぞぉ!」
せ、正常だったら、短剣を左手の手の平に突き刺したりなんかしないぞ、おい!
「うわああああ、マルス様が蘇ったァァァ~~~!」
「こ、こんな嬉しいことはない!」
むう、マルスの使い魔の動く骸骨達が、ワンワン泣き始める。
ハ、ハハハ……なんだかんだと、主であるマルスのことが心配だったのね。
今は分離した状態だが、使い魔の動く骸骨達は主のマルスを転倒した際、下敷きにしてしまったワケだし――。
「ふへへへ、とにかく、ゾンビになったということは、お姉様と永遠に一緒にいられるってことだよね?」
「う、うお、何を言うんだァァァ~~~!」
い、いきなり、お姉様とか……ヒイ、右腕にしがみついてきたぞ、コイツ!
「ま、まあいいや、アジトへ戻ろう……。」
と、とりあえず、コイツらをアジトへ連れて行こう……。
意外と無害な連中かもしれないしなぁ……。




