外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。その21
「チッ……来やがったか!」
「や、やっぱり!?」
「エ、エビルスタリオンの足音だァァァ~~~ッ!」
う、うおー! 近づいてくる轟く雷鳴の如き足音の正体は、やはりあの神獣エビルスタリオンのモノなのか!? あの野郎、急に動かなくなったと思ったのに!
『ふむ、どうやら私が仕掛けた呪縛結界を自力で解いたようですなぁ。流石は神獣です』
「呪縛結界? 俺には詳しくはわからんけど、アイツが急に動かなくなった要因の裏には、お前が一枚、絡んでいたのか、アルケル』
『あ、はい、見た目は鎧騎士ですが、こう見えても魔術師だったんですよ。生前の私は――というワケで、こっそりと呪縛結界を仕掛けておいたのです☆』
「やるねぇ! だけど、長くは続かなかったようだな」
『そりゃ、そうですよ。アレは神獣――神の化身ですので』
アルケルは漆黒の鎧騎士という外見の亡霊であるが、生前は魔術師だったようだ。
俺はこの世界にやって来て間もないので、なんとも言えんが魔術師という職業には興味があるなぁ。
さて、禍々しい巨大な骸骨馬という外見ながらも、その実は神獣というエビルスタリオンを長時間、縛りつけておくなんて無理なんだろう。
むう、なにはともあれ、迫り来る神獣エビルスタリオンをどうするか考えなくちゃ!
「何か打つ手はあるのか? また呪縛結界で……」
『あ、無理です。アレをもう一度、展開させる魔力が不足しておりまして……」
「うへぇ、どうすれば……」
『あ、しかし、打つ手ならありますぞ! あ、でも……』
「でも?」
『はい、〝アレ〟を使ってしまうと、私は消滅してしまう可能性があるのです! まさに奥の手ですなぁ!』
「消滅する…だと…!?」
お、エビルスタリオンを何とかするコトが出来る手立てがあるって!? しかし、ソレを使ってしまうとアルケルの霊体ボディが消滅してしまう可能性があるようだ。
ちょ、一体、どんな奥の手なんだぁ!
『うーむ、同じ亡霊として訊く。アルケルよ、お前が使おうとしている奥の手とは怨霊化のことだな?』
『ああ、流石はミュール公の亡霊ですね――っと、その通りです。我ら亡霊には能力を向上させる方法がいくつかあるのですが、その中でも特に効果的なのが怨霊化なのです。しかし、怨念の力……邪力を放出し続けなけばいけないのです。とまあ、そんな怨霊化が私の奥の手ですかね』
『だが、結果としてお前は消滅する――この世に恨みを抱いたまま死んでいない真っ当な亡霊であるお前が、邪力を放出し続けるのは危険だ! 実体を持たん気薄な我々には代償が大きいのだ、アレは……怨霊化は!』
怨霊化ねぇ、そんな禍々しい強化方法が奥の手だったのか! 怨霊――想像すると、トンでもなく恐ろしい亡霊なんだろうなぁ……祟り神ってか?
だが、邪力とかいうモノを放出しなければいけないという。
むう、邪力、恐るべしッ……放出し続けると、そんな邪力を放出する対象が幽霊の場合、気薄な霊体ボディが消滅してしまう危険があるようだし。
『さて、何はともあれ、私は今から怨霊化します。ああ、もしも暴走してしまった時の対処をお願いしますね☆』
「ああ、アルケル! ちょっと待て……わ、わああ、なんだ……こ、この近寄りがたい禍々しい光は!」
おいおい、怨霊化した後、暴走してしまった場合の対処を頼むだぁ? ちょ、無責任なッ――う、うお、それはともかく、アルケルの漆黒の鎧騎士という姿が歪み始めると同時に、思わずゾッとするような禍々しい赤い光が放出する。
「ちょ、巨大化しちゃいないかぁ? オ、オマケに如何にも漆黒の鎧も禍々しいモノへと変化していく!」
続けざまにアルケルの身体が巨大化していく――ああ、アイツの真の姿を覆い隠す漆黒の鎧も禍々しいモノに変化していく!
『うーん、もう少し巨大化したいですね……し、しかし、少し足りませんなぁ。よし、周囲にいる亡霊共を吸収しちゃいます?』
「ちょ、まだ巨大化するのかーッ! え、そのためには周囲にいる亡霊共を吸収しなくちゃいけない…だと…!?」
『その通りですよ、では……ヌフゥーッ!』
『『『ギエエエエエーッ! ガギャアアアアッ!』』』
「う、うおーッ! たくさんの人魂が飛んできた……ああ、アルケルの身体に吸収されていくー!」
『ちょ、ちょっと苦しくなってきましたけど、神獣エビルスタリオンと対峙するためには仕方がないことです』
「わ、わあ、そんなエビルスタリオンが来た……ふ、踏み潰されるゥ!」
周囲にいる亡霊――人魂が集まって来る! そしてアルケルの身体に吸い込まれていく……ああ、人魂を吸収する度に巨大化、そしてアルケルのシルエットの禍々しさも増していく!
だが、完全に怨霊化する前にやられてしまうかもしれんッ――エビルスタリオンの巨大骸骨ボディが、俺達を踏み潰そうとするかのように上空から勢いよく落下してくるじゃないかァァァ~~~ッ!




