外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。その20
「なあ、逃げてばっかりじゃないか、俺達……」
「仕方がないぜ。アイツらは面倒くせぇったらありゃしないからな」
「ま、まあ、確かになァ……」
むう、逃げ回ってばっかりだな、まったく……。
ちったぁ、戦おうと思わないのかぁ……あ、俺もだな。
ふう、ゾンビくらいなら幼生とはいえ、不死者に弱点(?)である暗黒竜の俺でもなんとか出来るが、アイツらは数が無駄に多いんだよなぁ……。
「あ、見えて来たッス! アレも木霊ッスかね?」
「ああ。多分な」
さて、突然、身動きの一切を停止させてしまった外見は禍々しい巨大な骸骨馬だが、その実体は神獣であるエビルスタリオンから逃げてきた俺達の目の前には、巨大な枯れた大木がドーンとそびえ立つ。
今いる嘆きの森の中に点在しているらしい枯れた大霊樹――木の精霊こと木霊の一体だろうなぁ、多分。
『おやおや、この気配は暗黒竜……ふむ、まだまだ生息していたのですね』
「う、うお、木が喋った! あ、ああ、木の精霊……木霊だし、喋って当然かな?」
『ハハハ、それはともかく、面倒くさいのも連れて来ちゃったようだね』
「お、おわー! ゾンビが……ゾンビがいつの間にかたくさん湧いて……あ、兄貴の姿もあるッス!」
むう、陽気な感じがする木霊だな――っと、それはともかく、いつの間にかゾンビが俺達の周囲を取り囲んでいる!
ン、その中には幽霊騎士団の一体に憑依された兄貴の姿も混じっている!
「ア、アアアアアアーッ!」
「お、おわぁ、兄貴やめるッスゥ!」
「今の兄貴はゾンビだ。フルボッコにしちまえよ」
「そ、そうかゾンビなら辞典でぶん殴っても平気ッスよね」
「ああ、でも、生きたままゾンビになっちまったみたいな感じだがな」
「う、うお、そうだったッス! 幽霊旅団に憑依されて生きたままゾンビになってしまったことを!」
『おーい、君達ィ! 多分、その兎ゾンビをぶっ潰せば他のゾンビは退散すると思うぜ。僕の予想だと、ソイツに憑いてるモノが他のゾンビを操っている筈だ』
む、兄貴の身体に憑依し、生きたままの状態ながらもゾンビ化させているモノ――幽霊旅団の一体が他のゾンビを操っている!? 木霊の物言いが本当なら兄貴をぶっ飛ばし、中身を追い出せば他のゾンビ共は、俺達の目の前からすべていなくなるかも……やってみる価値がありそうだな!
「兄貴、悪いな……思いっ切りぶん殴らせてもらうぜ! って、おいィ、ヤスゥ!」
「兄貴をぶん殴るのは俺の役目ッス! オラオラオラァァァ! 辞典乱打ッスゥゥゥ~~~!」
とりあえず、ぶん殴って気絶させればいいかな? そんなこんなで俺は兄貴の顔面、目掛けて鉄拳を――暗黒竜拳を叩きつけてやろうと思ったんだが、ヤスが一足先に脇に抱えていた辞典を兄貴の脳天、目掛けて降り下ろす――ちょ、辞典で乱打だと! おいおい、そんなに分厚くて重い辞典で殴ったら兄貴が死んでしまう……本物のゾンビになっちまうんじゃないか!?
「ヤス、そこら辺でやめておけ! それ以上、分厚くて重い辞典で兄貴の頭を殴り続けたら脳みそが損傷しちまうぜ」
「の、脳挫傷だな……」
「ああ、大丈夫ッスよ。兄貴の頭蓋骨の硬さは鋼鉄並みッスから☆」
「そ、そうなのかッ……おお、見ろ! 兄貴の身体から何かが飛び出してきたぞ!」
「アレは幽霊旅団ですよ! 紫色の妖光をまとった空飛ぶ頭蓋骨って感じでしたし」
「よ、よし、アイツの始末は俺に任せてくれ! 暗黒竜吐息だーッ!」
辞典乱打とは分厚く重い辞典で何度もぶん殴るだけのシンプルの技(?)だが、クリーンヒットした場合、威力はデカい――と、そんな辞典乱打は兄貴の身体に憑依している幽霊旅団の一体を追い出す効果もあったようだ。
さあ、なんだかんだと、アレなら俺でも倒せる筈だ――暗黒竜吐息で滅してやる!
「ゴ、ゴハッ……むう、慣れていないと上手く吐けんなぁ……」
「ハハ、だが、兄貴の身体に憑依していた幽霊旅団を滅するコトはできたぜ」
「やったぁー! これで兄貴は救われるッスね!」
「ア、アアアアアーッ!」
「ちょ、まだゾンビ化が解けてないんじゃ……」
「こここ、この野郎ッ! 俺はゾンビじゃねぇ!」
「お、おお、そうなんスか? な、ならイイんすけど………」
「ハハハ、血まみれだからな。ゾンビ化が解けてないって思われても仕方ないさ」
暗黒竜吐息は実体のない幽霊にも効果があるのかぁ! 不死者には効果ばつぐんだね――が、やはり上手く吐くことができないのが、俺的には腑に落ちないかな。
さて、兄貴のゾンビ化は解けたようだが、ヤスの必殺技(?)である辞典乱打のおかげで兄貴の脳天からはダクダクと流血が滴り落ち痛々しいぜ。
ハハハ、今の兄貴は見様によってはゾンビ化が進んでしまったって感じだな!
「く、俺をゾンビ扱いしやがって……」
「いや、マジで兄貴はさっきまでゾンビだったんスよ!」
「フフ、兄貴はとりあえず無事のようだな。さて、木霊そのニと仮称してもいいかな?」
『ああ、それでいいよ。適当に呼んでもかまわないさ」
「お、そうか! お、それより、お前さんは一応、大霊樹だろう? 実を成らすってことは出来たりするのかな……かな?」
『ん、実が欲しいのかな? ああ、なるほどね。君は死霊使いっぽいし、アレをつくる気だな?』
「ま、そんなところだな」
『フフフ、物好きだねぇ。まあいい、実をあげよう――ほら、受け取りな』
「おお、サンキュー!」
「ふう、大霊樹の実をなんだかんだと手に入ったな……ん、それはともかく、不気味なデカい足音が聞こえないか?」
よし、なんだかんだと、大霊樹の実を一個だけ入手! だが、その刹那、雷鳴の如き足音が響きわたる――ま、まさか!?




