外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。その18
『嘆きの森の中を彷徨う亡霊共がウワサをしていたぞ。幽霊旅団のボス的存在であるウォーサー王だが、生前は領民を苦しめる悪徳地方領主や豪商を成敗し、オマケに現在も語り継がれる伝説的政治手腕と領民思いの善政が王の鏡と称される立派な人物だったとな――だが、実際は違うのだ! 奴は恐れていたのだ!』
「な、なんの話だ、突然」
『奴が前王――つまり先代の王であった父親から王位を受け継ぐに当たって起きた裏事情を知るモノである私のような存在を!』
「へ、へえ、そうなんだ……」
『奴には八人の兄がいた。しかし、奴はそんな兄達を毒殺――或いは戦場に送り込み戦死させて王位が自分のもとに回って来るように仕組んだのだ! 故に、そのことを知る協力者であった私のようなモノの無実の罪を着せて黒き企みを知るモノを闇に葬ったのだ!』
「は、はあ、それじゃ死後、幽霊旅団のボスに悪落ちしたのは、所謂、因果応報ってヤツなんだろうか?」
ウォーサー王にまつわる英雄譚は、どれもこれもでっちあげってヤツなんだろうか?
そこら辺はよくわからんけど、幽霊旅団なんて物騒な悪霊集団のボスに成り下がったのは、ウォーサー王の生前の罪が原因なのかもしれないなぁ。
さて。
「アンタの名前はアムネジア・ミュールだっけ? ウォーサー王に復讐すると言っていたが、一体、何をする気なんだ?」
『黙ってついて来い。もうすぐだ、もうすぐ着く』
「は、はあ……」
「とりあえず、ついて行ってみよう……お、何か見えてきたぞ。石碑っぽいモノかな、かな?」
『アレだ、アレこそ――私と志を同じくするウォーサーを恨みながら死んでいったモノのひとりであるウザー王の墓だ』
『ウーザー王? もしかしてウォーサー王の父親?』
「そこの鎧騎士の亡霊、正解だ。あの方もウォーサーの策略によって亡くなられたのだ!』
「それは本当でッスかーッ! むう、史書には病死としか……」
「都合の悪い歴史はなかったことにすればいいのだー――って、ヤツですねぇ」
ウォーサー王は父親まで謀殺していたのか!? うーむ、歴史書に書かれていない真実ってヤツを知って俺以外は、みんな驚いている。
『私の復讐とは、あの御方の――ウーザー王の墓へと赴きマーテルの星をいただくことだ。アレがあれば、憎きウォーサーに生前は叶わなかった復讐を……一矢を報いることが出来る筈だ! しかし、しかし、しかしィィ、何度も邪魔されてきた……そして今度もォ!』
「ちょ、それって……」
「何か来たぞ、気をつけろー!」
マーテルの星? どんなモノかは知らないけど、ウーザー王の墓へ赴けば、それを手に入れることが出来るのか!? で、それがあれば幽霊旅団のボスとして零落した史書の於いては賢王だが、実は権力を手中に治めるためなら実の父親すら陥れる悪人かもしれないウォーサー王の亡霊を滅ぼすことが出来るのかも――が、毎回、邪魔者の妨害に遭っている、とミュール公の亡霊が語り出す。
「う、馬!?」
「あ、ああ、馬だけど……デカい! オマケに青白い妖光をまとった骸骨馬だ!」
『むう、現れたな……ウォーサーの愛馬であり、主人であるウォーサーの秘密を守る守護獣エビルスタリオン!』
あ、足音だ――し、しかし、鳴り響き雷鳴の如き轟音だ! そして現れたのは一頭の馬だ――が、その身体巨大だ! 巨象の如き巨大な馬だ……青白い妖光をまとった骸骨馬だ! つまり幽霊ってわけ!
え、コイツはウォーサー王の秘密を守る守護者――いや、守護獣だと!? ああ、どうやらミュール公の亡霊はコイツに毎度、毎度、邪魔をされウーザー王の墓へ往くことが出来なかったようだ。
『我は守護者なり! 我が主の秘密を――我が主ウォーサーを滅しようと目論むモノ共よ。罰を……罰を受けよッ!』
『コノ骨馬! 同ジ動ク骸骨ノクセニ生意気ダゾゥ!』
「アシュトン君、侮ってはいけない。アレは君と同じ種類の不死者だけど、幻獣に類が不死者化した存在だ。人間の骨格標本である君とはレベルが違う!」
『チョ、骨格標本ジャナイゾ! ムウ、オマケにニレベルガ違ウッテ言葉ハ何気ニショックナ一言ダゾ、メリッサ!』
おいおい、幻獣と人間じゃ生物学的にも霊的にはレベルが違うと思うんだが……。
それに同じ動く骸骨――スケルトンといってもアシュトンとエビルスタリオンを同じレベルと考えちゃいけない気がする。
さらに言うと、身体の大きさが違う――素手で巨象に……ドラゴンにでも立ち向かうようなモノだ。
『ムムム、同ジレベル……イヤ、ソレ以上ノ存在ダッテコトヲ教エテヤル! ウオリャーッ!』
『ほう、我と同じ種類の不死者のようだな。だが……フンッ!』
『モ、モギャーッ! 身体ガバラバラニナッテシマッタァ! アア、バラバラニナッタ身体ノ部品ヲ拾ッテオイテクレ☆』
自分の方が格上の存在だって知らしめたいのがわかるが、武器も持たずに素手でエビルスタリオンのようなデカブツに真っ向から挑むなんて無謀である――とばかりにアシュトンは、呆気なく返り討ちに遭い全身がバラバラに砕け散るのだった――が、しかし、奴はスケルトンだ。バラバラになった骨を集めて元通りに組み立てりゃ復活しそうである……便利な身体だが、ああはなりたくないね。




