外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。その17
嘆きの森ってところは、元は墓場だったらしい――が、王侯貴族といった身分の高い連中のね。
ウワサじゃ、あのウォーサー王の墓もあるようだ――とはいえ、見たモノは誰もいないって話。
キョウ曰く、秘密保持のため墓をつくった職人達が皆殺しにされたって話だしね。
墓泥棒防止の計画だろうけど、惨い話だぜ……。
さて、それはともかく、俺達は手入れが一切、行われていない草木が茫々と生い茂る古い墓地の入口へとやって来る――あ、ああ、ここがミュール公一族の墓ってワケね。
「ふええ、背の高い雑草が生い茂ってやがる。墓石が見えないぞ」
「酷い有様でしょう? こんなんじゃ怒って化けて出るのもわかる気がします」
「ちょ、メリッサ……今の話はマジ?」
「はい、マジですよ、マジです。ここは出るんですよ、ミュール公一族の亡霊が……あ、ウワサをすれば!」
「な、なんだってー! うわあ、不気味な声が聞こえてくるー!」
おいおい、子孫はいないのか、子孫は!
ちったぁ、茫々と生い茂った草木を伐採しろっての! そんなこんなでメリッサの言う通りかもしれないなぁ――って、本当にミュール公一族の亡霊が現れたっぽいぞ! 何やら恨み言のような言葉が聞こえてくるし……。
『オオオオッ……許さんッ……許さんぞ、ウォーサァァァ~~~ッ! 我ら一族は無実だ、無実だァァァ~~~ッ!』
「うえええ、聞いているだけで正気を失いそうな禍々しい声ッスゥゥゥ~~~!」
「あ、ああ、だが、ウォーサー王に対する恨み言みたいなことを言っているぞ」
「そうみたいですなぁ……ああ、思い出しましたよ。ミュール公一族は罪状は忘れましたが、あの幽霊旅団のリーダーことウォーサー王に一族郎党、断罪された筈です」
「うーむ、なんだかんだと、あの亡霊は無実だって叫んでいるぞ」
ミュール公一族のモノと思われる墓石のひとつ――他の墓石の二倍ほどの大きい故、茫々と生い茂った草木の中から唯一、顔を出す墓石が、まるで夜空で輝く満月の如き煌々と怪しい光を放っている。
で、そんな大きな墓石の上に、赤い目玉が爛々と輝く半透明の物体が、まるで陽炎の如くユラユラと蠢いている。
ああ、なるほど、あの光の正体は、半透明の物体――ミュール公一族の一族の中でも特に地位などが高いモノであることが一目でわかる亡霊が放つ憎悪の怪光のようだ。
ひょっとしてミュール公ご本人の亡霊か!?
『グオオオ、そこにいるのは誰だァァァ~~~ッ!』
「う、うわ、見つかった!」
『ん、お前は……シグルドか?」
「シグルド? ひょっとして俺の事?」
『うぬぬ、亡霊ではあるが、私は貴様の主であるぞ。まさか忘れたのか、なんという恩知らずッ!」
ちょ、何を言っているんだ、この亡霊――ミュール公の亡霊は!? 俺はシグルドなんて名前じゃないし、お前なんて知らないっつうの……どこかの誰かさんと勘違いをしているんじゃないかぁ?
「もしかすると、そのシグルドっていうのは、あの暗黒竜のことでは……」
「ああ、そうか! だから同じ暗黒竜である俺をアイツと勘違いして……」
『ん、お前らからウォーサーの匂いがするッ……そうか奴も私と同じ天に召されることのない邪な亡霊と化したのか! フフフ、復讐する機会がやって来たのかもしれん』
「復讐だと!?」
『そうだ、復讐だ! 我が名はミュール……アムネジア・ミュール――ウォーサーを恨みながら死んだ憎悪の塊よ! さあ、復讐につき合ってもらうぞ、シグルド!』
「ちょ、勝手に決めんなッ……う、腹が痛ぇ……!」
「多分、呪いだ……ったく、面倒な輩に遭遇しちまったもんだぜ」
復讐につき合えって!? 今はそんなことをしている場合じゃない――この先にある木霊のもとへ往かなくちゃいけないんだ! だ、だが、身体が急に動かなくなる……う、オマケの痛い……腹が急に痛くなってきたぞ……ナ、ナニィ、俺以外も腹痛で苦しんでいる! もしかしてミュール公の亡霊は、俺達に腹痛を起こす呪いをかけてきたのかーッ!
「わ、わかったーッ! わかったから腹痛の呪いを解けェ!」
『ほう、お前は死霊使いのようだな。ふ、素直でよろしい』
「お、おお、腹痛が治った……だ、だが、いいのか、キョウ?」
「いいんだよっつうか、了解しておかないと胃袋が破けて死んでいたかもしれないしな……」
「ちょ、それは大袈裟では? ウウ、でも、あり得るなァ……」
『さあ、わかったのなら、早速、手伝ってもらうぞ――ついて来い』
「ちょ、移動速度が速いッ……さ、流石は幽霊、瞬間移動が可能のようだな」
ぐ、ぐぬぬぬ……こ、この耐え難い痛みから解放されるなら、ミュール公の亡霊の物言いの従った方がいいかもしれん。
ふう、遠回りになっちまうなぁ、大霊樹の実を手に入れるまでに――だが、考えようによっちゃ、あのウォーサー王率いる幽霊旅団を撃退できる可能性もあるんじゃないかな……かな?




