外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。その14
幽霊旅団などという禍々しいモノ共のリーダーとして悪落ちしたマーテル王国の名君ウォーサーが、血塗られた真紅の鎧をまとった姿で、嘆きの森の多分、中核にある筈である特別な大木こと大霊樹のもとへと到着した俺の――俺達の前に立ちはだかる。
むう、キョウは何に使うのかは知らんけど、大霊樹の実は後一歩ってところで手に入るところなのになぁ……。
『ガ、ガアアアアーッ! 大霊樹の実は我のモノよ! 誰にも渡さんッ!』
「ちょ、独り占め発言? ふざけんな、このすっとこどっこいがァ!」
『ガアアア、ウガアアアーッ! 黙れ、黙れェェェ~~~! ウガガガガアーッ!』
「ちょ、様子がおかしくないか、コイツ?」
『ああ、暴走しちゃってますね。ヤバい雰囲気、爆発ですなぁ。ほら、紫色の光が全身を覆い始めましたし……』
「アルケル、あれって瘴気ってヤツ?」
「……でしょうなぁ」
ん、ウォーサー王の野郎、確かに暴走しているな――冷静さを欠いているっつうか……とにかく、ヤバい雰囲気が漂っているぞ。
「あの野郎の仲間を呼びやがったぞ」
『あの野郎の身体から吹き出している紫色の光――瘴気に惹かれて集合ってところでしょうなぁ……おお、怖い怖い!』
いつ暴れ出すかわからんって感じだな、うん――ああ、言わんこっちゃない! ウォーサー王の周囲に無数の鎧騎士の亡霊が出現する。
ウォーサー王が率いる幽霊旅団の仲間達ってところか?
「ウォーサーの奴、大霊樹の実を食ったな」
「大霊樹の実を食った? アイツ、幽霊なんだろう……い、飲食できたりするのかぁ?」
『ハハハ、私は幽霊ですので食べるコトも飲むコトもできませんなぁ。仮に何かを生前のように飲み食い出来るとすれば、どんな生物でもいいから、その身に憑依すれば……」
「あ、ああ、だから、仰向けにぶっ倒れている髭面のオッサンがいるわけね……ん、あのオッサン、両手で頭を抱えながらもがき苦しんでいるっぽいぞ」
ウォーサーは大霊樹の実を食べた? むう、奴は幽霊だ、すでに死んでいるのに、どうやって飲食なんて——ああ、なるほど、アルケルの言う通りだな。誰でもいいから憑依し、憑依した状態なら幽霊とはいえ飲食も可能だな。
で、それとウォーサーが大霊樹を食したことと何か関係があったりするのか!? ん、わからん……アルケルに訊いてみるかな。
「ウォーサー王はアレを食って暴走したんだろうよ」
「暴走…だと…!?」
『大霊樹の実を食べたモノは、様々なBADな状態に襲われるのです。あ、でも、食中毒にはならないですよー』
「むう、だから、ウォーサーに憑依されたオッサンは――頭痛で苦しんでいるのかな、かな?」
「その一方で、あのオッサンに憑依していたウォーサー王も影響を受けて頭がおかしく……狂ってしまったのか?」
「むしろ、悪落ちした時点で頭がおかしくなったような……」
「そんなことより、ウォーサーの子分共――幽霊旅団の亡霊共が襲いかかってきたッス!」
幽霊は幽霊でも、悪霊の類は禍々しさが半端ないね! 憎悪のオーラ――或いは憤怒のオーラというべきモノか? 燃え盛る炎のように揺らめくドス黒いモノをまとった空飛ぶ何体もの頭蓋骨――幽霊旅団を率いるウォーサー王の部下共が、精神的にあまりよろしくない音程が歪みに歪みまくった不気味な咆哮を張りあげながら迫りくる!
ん、そういや、幽霊旅団のお仲間とはいえ、鎧騎士の姿をしたモノ共とは、別のような……あ、ああ、空飛ぶ頭蓋骨は下っ端の兵士ってところかな?
「シュバリエは動かずってか?」
「シュバリエ? 騎士……ウォーサーの周りにいる鎧騎士の亡霊のことか?」
『ですなぁ。アイツらは幹部的な存在です。下っ端の兵士共が倒されない限り動かないと思います――ってか、その前にウォーサー王が行動に移りそうですけど』
「とと、とにかく、応戦だ――下っ端の亡霊なら、俺の暗黒竜吐息でもなんとかなるかもしれん! いや、なんとかしなくちゃ、この状況を切り抜けないぜ!」
下っ端とはいえ、面倒くさい存在だ――同じ不死者でもゾンビ共とは違って実体がないのが幽霊だ。
だけど、ゾンビ共と同様、俺の暗黒竜吐息が利く筈……うん、間違いねぇ! ガーッと大量に吐き出したいが、とりあえず吐き出せる分だけ吐いておけ……搾り出せ、俺!




