外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。その13
暗黒竜に転生した俺――中村修一郎が今いる嘆きの森っつう森ン中は、幽霊旅団を筆頭としたゾンビや幽霊といったモノ共以外の不死者も蠢いているようだ。
まあ、そうだとしても、あの聖霊のようなモノばかりならいいがリッチなんてモノまでいるようだ。
リッチ――不死者について詳しくはないが、確か不老不死を夢見た古代の魔術師の成れの果て存在だったかな? んで、どっちかといえば、属性は混沌、悪――性質の悪さは一級品なモノだろう。
さて、そんなリッチのことをクボタ君って呼んでいたな、キョウは――ひょっとしてっつうか知り合いなんだろう。
ん、キョウはゾンビなどの不死者の親玉的存在である死霊使いの筈だ――故に、〝ああいうモノ〟と面識があっても当然か?
「クボタの奴がこっちに来るぜ。俺はアイツが嫌いなんだよなぁ――ほら、さっさと飛べ! 面倒くさい奴なんだ。見つかる前に大霊樹のもとへ往け!」
「わ、わかったから暴れるな! バカンスが崩れて飛べなくなる!」
アイツが嫌いだ? リッチのクボタとは知り合いじゃないのか? キョウのそんな毛嫌いするような発言を聞くと〝会わない方〟がいいかもね。
うう、どうでもいいがしがみつかれた状態で暴れないでくれ――俺は初めて空を飛ぶんだ! バランスが崩れて上手く飛べなくなるじゃないかーッ!
「こうやって空を飛ぶのですよ☆」
「アルケル、幽霊って空も飛べるんだね……」
「ハハハ、聖霊が空を飛んでいたじゃん。それと同じさ」
「え、そうなの? うわ、何か飛んできた!」
アルケル……幽霊は空を飛べる――詳しい原理はともかく、苦労せずにスイスイと空を飛べそうでいいなぁと思った。
ん、今度はなんだ、何か飛んできたぞ! あっちこっちに穴が開いた襤褸切れのような外套を羽織ったモノだ――ちょ、新手の不死者か!?
「ウォーサーがまた来たのか!?」
「違うね。アイツは禍々しい血に染まったような真紅の鎧騎士だった筈――ん、アレは多分、リッチのクボタ君かな……かな?」
ちょ、リッチのクボタ君、空を飛べるのか、お前ーッ! むう、最凶の不死者って言われる場合もあるしなぁ――ま、まあ、そんなワケだから空を飛べて当然かな……かな?
『グルオオオーッ! 待て待てェェェ!』
「ちょ、来るな!」
『おお、その声は我が親友キョウではないかー☆』
「俺は友達になった気はないぜ!」
『酷い奴だなぁ……だが、それがイイ☆』
キョウとリッチのクボタの関係って一体……。
クボタはキョウを親友だと思っているようだが、その一方でキョウは親友だなんて思っちゃいないようだ。
「う、うお、空飛ぶミイラ!」
『ハハハ、ミイラではないぞ。タダ痩せすぎているだけさ』
「え、そうなの?」
「むう、動く乾燥死体のクセに、何を言う! おっと、それはともかく、大霊樹が見えてきたぞ」
リッチのクボタが羽織るあっちこっちに穴が開いた襤褸切れのような外套のフードの下に見え隠れしている奴の顔だが――ミ、ミイラだ!
例えるなら熱砂によって全身の水分を奪われ全身がカラカラに乾燥した行き倒れた旅人の成れの果てって感じだろうか? むう、中身が見えない全身包帯だらけのミイラの方が、別の意味で愛嬌がある気がするぜ……。
『おお、大霊樹の実が輝いて見えるぞう!』
「ああ、そうようだ。よし、どっちが先にアレを食うか勝負と洒落込もうじゃねぇーか!」
『いいだろう。私もアレを食べたかったんだ。この肉体を維持するためにね』
「そうかぁ……とにかく、俺は先に往くぜ。この辺に来れば、あのクソ暗黒竜が吐き出した暗黒竜吐息も影響が及んでいない筈だしな」
なんだかんだと、仲が良いんじゃないか、キョウとクボタの奴——ん、大霊樹の実って食べられるモノなのか!? 俺も食べてみたいもんだぜ。
だが、ちと不安――大霊樹の実を一口、食べた途端、生きたままゾンビのようなモノになってしまうとか、聖霊のようなモノを除くと、この不死者が彷徨い歩く不浄なる森こと嘆きの森の中に生息しているモノなだけにあり得そうだぞ。
『大霊樹の実を食うことで私は、この不死の肉体を保っているのだ!」
「だけど、そんなミイラみたいな身体じゃ不死っつってもさぁ……」
「おい、どうでもいいが、何か赤い物体が大霊樹のところにいるぞ」
「あれはウォーサー王ッス!」
「ちょ、なんでアイツが大霊樹のもとに!? あの野郎も大霊樹の実を狙っているのかーッ!」
ふう、重い重い……キョウ達にしがみつかれたまま空を飛ぶのって厳しいのなんのって……うう、やっと大霊樹のもとへ……な、なんだ、何かいるぞ! ええ、ウォーサー王だとッ――アイツももしかして大霊樹の実を狙っているのか!?




