外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。その9
あああ、おぞましいッ……こんなモノが本当にいるのか……。
ゲームやアニメならともかく、それが現実に……う、臭ェ! ゾワゾワと集まってくるモノ共が放つトンでもない悪臭に、俺はむせ返る!
「ちょ、ゾンビがいるってマジな話だったのか!」
「な、嘘じゃなかっただろう?」
「嘘じゃないのはわかったけど、どうするんだ、コイツら!」
「決まってるだろう。ぶっ殺すんだよ!」
「兄貴、ゾンビ共はすでに死んでいるッス」
「む、むう……」
「ハハハ、とにかく、コイツらを追い払うぞ。大霊樹へもとへ往くためには邪魔でしかないからな」
ふえええ、やっぱりゾンビ共をなんとかしないといけないのね――し、しかし、しかし、あの禍々しい生ける屍をどうやって避けるんだァ? すでに生命活動が停止したモノ共なんだぜ……。
「よし、お前が先に攻撃をするんだ」
「え、俺?」
「ああ、お前だよ、暗黒竜クン☆」
え、えええ、人面樹の周りに集まってくるゾンビ共に対し、俺から攻撃を仕掛けろ…だと…!? キョウはそう言うけど、どうやって——オマケに奴らは十体以上いるだぜ。
『ん~……幼生とはいえ君は暗黒竜なんだろう? それじゃアレを吐けるんじゃないか?』
「じ、人面樹くぅぅん、それは一体!?」
『わからないのかね? 竜吐息だよ。オマケに、君の吐き出す竜吐息は特別でね。ゾンビ共には効果が絶大だ』
「なん…だと…!?」
『ああ、でも、不死者共が嫌う聖竜や光竜が吐き出す聖属性、光属性の竜吐息とは異なるモノだけどね」
「ちょ、それじゃ……」
『まあ、とにかく、吐き出すんだ……暗黒竜くん!」
竜吐息でゾンビ共を斃せって!? だが、仮にも俺が吐くことができる竜吐息は、不死者であるゾンビの弱点である聖属性や光属性ではないようだ。
ちょ、それなら〝ナニ属性〟で斃せって言うんだァ!?
「ガ、ガアアアアッ!」
「ヒイッ! 近寄るな、気持ち悪いィ!」
うええ、ゾンビって最悪だ。
鼻が曲がるような腐敗臭を四方八方に撒き散らせながら迫るくるのだから―オ、オマケに攻撃を仕掛けてくる度、腐った肉汁が飛び散るモノだから散々もいいところだ!
「ワハハハ、私のような腐敗しないゾンビなんて稀な存在ですよ☆」
「そ、そうだなぁ、うんうん……」
「いっそのこと肉なんて捨ててしまえばいいと思わない?」
「どうでもいいけどさ。肉が一切、存在しない身体をどうやって動かしているのか、そのメカニズムを知りたいのだが……」
「それはともかく、さっさと吐けよ。闇や魔の力で動く死体共には、目の目を歯には歯をとばかりに暗黒竜吐息を――上手くいけばゾンビ共を一掃できるんだからよぉ」
「ちょ、ホントに効くのかぁ? だが、竜吐息に吐き方を知らん……」
「んなこたぁ簡単じゃん。息を吸って吐き出す――それだけでいい筈だ」
不死者は魔属性、闇属性である――多分そうだと思う。
そんなモノに目には目を歯には歯を――って感じの攻撃を仕掛けてもいいのか?
俺は幼体とはいえ、暗黒竜だ――どっちかっつうと邪悪な存在かもしれん故に吐き出すことができる竜吐息は魔属性、闇属性だろうだなぁ。
だ、だが、肝心の竜吐息の吐き方がわからん! 息を吸って吐く――それだけでいいのか、ホントに?
「ウガアアアーッ!」
「う、うお、危ない! この野郎、今、齧ろうとしたな!」
「さっさと暗黒竜吐息を吐き出すんだ。そうじゃないと齧られちまうぜ」
『ああ、ひとつ言っておきます。嘆きの森の中を彷徨うゾンビ共に齧られたモノは、生きたまま奴らの仲間入りをしてしまうらしい』
「ちょ、人面樹くん、それはマジか!」
某ホラー映画と同じような設定じゃん! く、嘆きの森のゾンビ共はヤバいぞ……齧られてたまるか!
「むう、とにかく、やってみる! 息を吸って……そして吐いて……う、うおー! 今、黒い炎のようなモノが俺の口から噴出したぞ!」
「よしよし、それでいいぞ。んで、見ろよ。ゾンビ共の一体がボロボロに崩れ落ちたぜ」
「わ、わお、俺の口から噴出した黒い炎に触れたから?」
「おい、また吐けよ。連続で」
「うー……それは無理だな」
むう、なんだかんだと、ゾンビ共の一体を退治できたぞ! だ、だが、連続で暗黒竜吐息を吐けって言われても無理だなぁ……。
「お前の竜吐息に触れたモノは、焼け焦げると同時に対象の腐敗させるんだ――そして対象は地に還るってところかな?」
「身体が腐るのは嫌ですね。周りにいるゾンビと違って生前の姿を留めている私には忌むべきモノです!」
「そ、そうなの? と、とりあえず、もう一度……ガ、アアアアーッ! ゲホゲホ、ダメだ。やっぱり連続で吐くなんて無理だぜ」
うーん、やっぱり駄目だ。連続で暗黒竜吐息を吐くなんて幼生体である俺には無理だな。
く、なんだかんだと、成竜の状態で転生できてば良かったかも。




