外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。その7
後から聞いた話だと、兎天原はトンでもなく広い盆地なんだとか――規模は、俺は本来いるべき世界の北、南アメリカ大陸を一緒くたにしても足りないとか。
ちなみに、東方が一番、広大らしい――が、その六割近くが魔境と呼ばれる場合もある未開の地である。
さて、そんな兎天原東方の残りの四割をヒトが住めるように開拓した開拓使のリーダーの名はウォーサー――後日、兎天原東方全域を支配下に治めるコトとなるマーテル王国の初代の王である。
兎天原の東方及び南方は獣の領域と呼ばれる場合もあるそうだ――故に、人間以外の種族もわんさか住んでいるワケだが、ソイツらにに対しても気前が良いコトで評判だったそうだ。
ヤスの話じゃウォーサー王の人柄を今に伝える歴史書、オマケの絵本も数多存在し、善き王の見本的存在として語り継がれているって話だ。
し、しかし、何故、幽霊旅団なんて物騒なモノ共の頭に悪落ちなんてしたんだ!?
死後、ウォーサー王に何が……。
『出て来いィィ! 我が前に姿を現すのだァァァ~~~ッ!』
「ウヒィ、なんて大声だ! まるで落雷のようだぞ!」
「どうでもいいけど、奴が叫び声をあげる度、周りの背の高い雑草が枯れていくッス!」
「このままだと見つかるのも時間の問題だな、やれやれ……お、妙案が浮かんだぜ!」
「ちょ、なんで俺を見つめているんだよ……ま、まさか!」
幽霊旅団の頭に悪落ちしたウォーサー王――漆黒の巨馬に跨った真紅の鎧騎士が叫び声をあげる度、俺達が身を隠す雑草が枯れ始める。
むう、背の高い雑草なだけに、なんとか見つからずに済んではいるが、このままだと不味いな――ん、キョウが俺の方をジッと見つめている……みょ、妙案を思いついた!? う、俺を利用する気だな……し、しかし、一体、何を!?
「よーし、奴の目の前に飛び出すんだ!」
「え、えええ、何故ーッ!」
「ん、そりゃ簡単な答えさ。幽霊旅団は暗黒竜を――お前さんを嫌っているからさ。弱点として」
「そ、そうのか? 本当にそうなのか?」
「あ、ああ、間違いねぇ!」
本当なのか? 間違いないんだろうな? むう、キョウはそう言うけど、後で後悔しなきゃいいが――ん、そういえば、アルケルもキョウと同じコトを言っていたな。
よ~し、ここは意を決し、ウォーサー王とかいう悪落ち野郎の目の前に飛び出してみるか!
「う、うおりゃー! う、うおお、危ないっ……こ、このクソ馬!」
ちょ、せっかく意を決し、ウォーサー王の眼前に飛び出すのだったが、その刹那、奴が乗る漆黒の巨馬が有無を言わず襲いかかってくる……ふ、ふう、紙一重で躱せたけど、踏み潰されているところだったぜ。
『うぬは……暗黒竜……暗黒竜だな』
「お、おう、その通りだぜ」
『ならば……死ねィ!』
「ちょ、またお馬さんの方が攻撃してきたーッ!」
く、馬の野郎の巨大な右前の足の蹄が、俺を踏み潰そうと襲いかかる――ウォーサー王、死ねと言いながら、自分から攻撃を仕掛けてこないのか……あ、俺が弱点だからか!?
「イタタァ……この重いじゃないか!」
『ほう、我が愛馬ニャルサバトの前足の一撃に耐えるとはな。流石は我、怨敵よ!」
「怨敵だと!?」
お、俺の身体って硬くね? お馬さんことウォーサー王の愛馬ニャルサバトの右の前足は、確実に俺を小さな真っ黒な竜である俺を踏み潰したんだが、その身の受けたダメージはまったくと言っていいほどないワケだし。
ハハハ、暗黒竜だから……なのか?
『我が怨敵……暗黒竜ヴァーゼラ! 我が愛馬ニャルサバトの次なる一撃で滅せィィ!』
「お、おわーっ! 暗黒竜ヴァーゼラってなんだよ……誰かさんと間違っちゃいないかァァァ~~~!」
ちょ、暗黒竜ヴァーゼラって何者ォ!? あ、ああ、所謂、怨敵ってヤツだな? だ、だが、俺はソイツとは別の個体の暗黒竜だ……いや、その筈だ。
そ、その前にウォーサー王の愛馬ニャルサバトが、三度、俺に襲いかかる! な、なんだかんだと、次はヤバいかも――俺を踏み潰そうと襲いかかるニャルサバトの右の前足の蹄が紫色の光を放ち始めたコトだし!
『ぬ、ぬうっ!』
「え、えええ……弾き返した?」
「やるじゃん! 流石は暗黒竜だぜ……よっしゃ、今のうちに逃げるぞ。まともに相手にするにゃちと分が悪いしな」
「お、おお……」
も、もしかして無意識のうちにバリアのようなモノを張ったのか、俺? とまあ、そんな俺が無意識のうちに張り巡らせたバリアによって攻撃を弾かれたニャルサバトは仰向けにひっくり返る――当然、その背に乗るウォーサー王は下敷き状態だ。
ラッキー! なんという自己防衛本能、そして僥倖だ……と、今のうちに逃げておこう。死霊使いでもあるキョウが分が悪いって言ってるしな。




