外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。その6
流石に幻想世界だぜ、兎天原は!
何せ、俺が往くところ往くところで現実世界では体験できないコトと遭遇できるのだもの。
例えば、今いる嘆きの森だ。
まだ遭遇しちゃいないが、ホラー映画でお馴染みのゾンビが彷徨っているようだし――あ、ああ、同じ不死者である幽霊には、すでに遭遇していたりするんだよなぁ。
ソイツが目の前にいる鎧騎士の姿をした幽鬼アルケルだ――が、亡者にも関わらず陽気な輩なんだよな。
むう、陰気なイメージがあるから意外だ~~~。
ああ、他にも今いる嘆きの森のようにゾンビや幽霊が彷徨っている場所が、エフェポスって村の周りにはいくつかあるそうだ。
ふええ、末恐ろしいぜ、異世界ってヤツだな!
さて。
「大霊樹の実を求めるモノは多いみたいですねぇ」
「そ、そうなのか?」
「おう、その話なら聞いたコトがあるぜ。確か、死霊使い共には垂涎のモノらしいからな」
「死霊使い? ゾンビや幽霊を束ねている親玉的存在?」
「そうッスよ。ああ、キョウさんは、その死霊使いなんスよ」
「ああ、ちなみに、私とアシュトン君はキョウ様に復活させてもらったんですよー☆」
「は、はあ……」
え、キョウって死霊使いなの? ああ、だからゾンビのメリッサとスケルトンのアシュトンを連れてるのね……な、納得!
んで、そんなキョウを筆頭とした死霊使い垂涎のモノなのね、大霊樹の実とやらは――な、何かしらの怪しい薬をつくるための素材だったりするのか?
例えば、戦場に横たわる兵士の死体を一斉にゾンビ化させるモノとか?
「おーい、魔王キノコを見つけたぞ。コレ、高く売れるんだよなぁ☆」
「キョウ、戻って来たのか! おお、本当に魔王キノコだぜ!」
「やったッスね。コイツを売って宴会と洒落込むのもいいと思うッス」
キョウが引き返してきたぞ――真っ黒い二本の突起物と白い水玉模様が見受けられる真っ赤なキノコを持っている。
魔王キノコねぇ――フーン、高く売れる代物なのかぁ。
「それはともかく、この先にゾンビ共がうろついている。だから一旦、引き返してきた」
「ゾンビがいるのか!」
「チビ竜君、アレなんて幽霊旅団に比べりゃマシな方さ」
「なん…だと…!?」
「お、ウワサをすれば影……皆さん、隠れましょう!」
むう、今、俺がいるのは嘆きの森の入り口付近である――ゾンビが、この先で蠢いている!?
そういえば、どことなく嫌なニオイが漂っている――ゾンビ共も腐敗した禍々しい身体から放たれる腐敗臭だろうか?
ん、それはともかく、隠れろってアルケルが言い出す――な、何かヤバいモノが近づいてきているのか!?
「ん、真っ赤な鎧騎士?」
「シッ! 声が聞こえるっての」
「ム、ムググッ……」
な、なんだ、真っ黒な馬に跨った純白のマントを羽織る一方、鮮血に染まったかのような真紅の鎧を身に纏う騎士が現れたぞ――姿から想像してアルケルのお仲間?
アイツは真っ黒な鎧を身に纏った騎士の亡霊だし。
し、しかし、何者なんだァ?
「アイツは幽霊旅団を率いているリーダーだ。多分……」
「うへぇ、ヤベェ輩がやって来たな、おい!」
「兄貴、声はデカいッス!」
何ィ幽霊旅団のリーダーだと!? わ、そりゃ兄貴の言う通りヤバい奴が現れたもんだ!
「ア、アイツはウォーサーです。何故、幽霊旅団を率いて彷徨い歩いているかはわからないんですけど、生前はマーテル王国の王様だったそうです」
「マーテル王国?」
「ん、兎天原の東方全域を支配している王政国家さ。しかし、あの名君ウォーサーが亡霊旅団のリーダーとはねぇ……わからないもんだ」
あの真紅の鎧騎士――亡霊旅団という禍々しいモノ共を率いている存在ウォーサーは、生前はマーテル王国とやらの王だった? んで、名君だった……むう、死後、悪落ちしたって感じか?
「幽霊を引き連れている禍々しい存在……怖いッスねぇ。アイツがいなくなるまで身を潜めているのが無難ッスね……ぶ、ぶわ……ぶびゃあ!」
「ヤ、ヤス、くしゃみなんかすんな! 見つかっちま……うわ、こっちに来たァァァ~~~!」
幽霊旅団――その言葉自体が禍々しいぜ。ソレはともかく、ヤスが連発でくしゃみを――ちょ、見つかっちまったぞ!
幽霊旅団の頭に悪落ちしたかつての名君ウォーサーが、俺達が身を潜めている草むらに近づいてきたーッ!
『そこに隠れているモノは誰か! 姿を見せよ――我が前に姿を見せよ!』
雷鳴のような大声が響きわたる――う、うお、気のせいかな? 俺の周囲に密生している雑草が一瞬で枯れたぞ! ゲ、ゲエェー……見つかったかも……。




