外伝EP16 暗黒竜に転生しましたよ。
真っ暗だ。何もかもが真っ暗で何も見えない――う、オマケに狭いぞ。
照明を点灯させ場所を確認したいが――ん、おかしいな? 俺は昼間の繁華街にいた筈だ。
んで、突然、左の脇腹が熱くなって、そして激痛が全身を駆け巡って……あ、あああ、俺が通り魔に刺されたんだ!
そして意識が遠退き涅槃へと――ん、じゃあ、ここは?
『ワハハハ、コイツは高く売れるぞォ! 多額の賞金をGETし酒を飲みまくるぜェェェ~~~!』
『そうッスね、兄貴! 明日は美味い酒を飲みまくれるッスね☆』
ん、汚らしい笑い声が聞こえてくる。
むう、近くに金に意地汚くて、オマケに酒癖の悪そうな輩がいるっぽいなぁ。
『ん、コイツ、今、動いたッスよ、兄貴』
『そんなワケがないだろう。コイツは竜の墓場で手に入れた化石なんだぜ』
『あ、ああ、そうでしたね、兄貴』
「ったく、ビビらせやがってェ!』
竜の墓場? それに化石? 何を言っているのか、さっぱりだ。
ん~……とりあえず、俺が置かれた状況がわからんし、しばらく静観しておくか……。
『おい、ヤス! コイツのことを誰にも言うんじゃねぇぞ!』
『もちろんッスよ。コイツを持って行きゃ多額の賞金を得られるッスね。んで、兄貴と俺で山分けッス。それを忘れないでほしいッス』
『おい、山分けじゃねぇ! 俺が七割、お前が三割だ!』
『う、うええ、そりゃないッス! 考古学者である俺がいたからこそ発見できたんじゃないッスかぁ、竜の墓場を!』
多額の賞金だと!? 一体、何を? なんだかんだと興味が湧いてきたぜ。
「気になる、気になるなァ……」
『うお、今の声は!』
『ゲ、ゲェーッ! キョウとかが近くにいるのかも!』
「…………」
危ない危ない、俺のつぶやきが聞こえてしまったようだ。
ん~……下手に喋らん方がイイな。身の危険を感じてしまったし。
『しかし、俺達は運がいいなぁ、ヤス』
『うんうん、最高の運勢ッスわ。まさか伝説の暗黒竜の卵の化石をGETできたワケだし』
『ああ、マジだ! 最高に運がイイな、俺達!」
『最高ッスね。アレを欲しがっている好事家に売れば何年も遊んで暮らせる金をいただけるッスからねッ――一攫千金は確実ッス☆」
伝説の暗黒竜の卵の化石? またまた妙な会話が聞こえてきたぞ。
うう、気になる――気になる、気になるなァァァ~~~!
俺も一攫千金を得たいなァ……。
「お金が欲しい……う、しまった!」
『お、おわーッ! また声が!』
『あ、兄貴、今、そこから聞こえたッス!』
「む、むう!」
『そ、そんな馬鹿な! そこから声が聞こえたっつうこたぁ――〝中身〟が生きているコトになるぅ!」
く、また思わず声を出してしまったぜ——そんなワケで見つかってしまったぞ、俺!
むう、こうなったら潔く姿を見せるしかないか――このままだと、俺が身を隠す場所に銃弾を撃ち込まれるなんてコトもあり得るしな!
いや、姿を見せた途端に銃弾を撃ち込まれる可能性だってある――ど、どうする、俺!
『お、なんだ、それは?』
『ゲ、ゲェーッ! 見つかってしまったッス!』
『うわ、キョウ! お前、コイツを奪いに来たんだな!』
『はぁ? 何、言ってんだ、お前ら?』
『あ、キョウ様、ソレは暗黒竜の卵ですよ。化石化してますが』
『ほう、興味深いねぇ☆ 詳しく教えてくれよ、兄貴ィ、それにヤス!』
む、また誰かやって来たぞ。
俺が身を潜める場所のすぐ側にふたり、そしてまたふたり増えたっぽい――ん、声色から若い女のようだ。
ふ、ふう、とりあえず、姿を見せずに済んだぜ――し、しかし、しかしっ……ここから移動するのは無理っぽいぞ。
前述した通り、ここは真っ暗で何も見えず、オマケに狭い場所だ――故に。移動するのが至難の業かもしれん。
『好事家に売れば高く売れますね、これ』
『マジか? で、どれくらいの金が得られるんだ、メリッサ?』
『ん~……多分、百万OGは確実かと思います』
『お、イイね☆ よし、早速……な、何をする!』
『ゴルァァァ~~~! それは俺達のモノだァ!』
『そうッス! 兄貴と俺が先に見つけたモノッス!』
『お前のモノは俺のモノってワケだ。そういうワケだ、離せよ!』
『だが断る!』
『い、痛ぇ! 齧ったな、兄貴! わ、落としちまった……テヘ☆』
『ウ、ウワアアアアーッ! なんてコトをしてくれたんだァァァ~~~!』
なんだぁ、暗黒竜の卵の化石とやらを巡って口論が始まったぞ――ぐ、ぐわ、今度はなんだ……全身の骨が軋むような衝撃が電流の如く俺の身体に襲いかかる!
う、その刹那、バキッ――という亀裂音とともに目の前の空間が砕け散り、俺が今いる場所に光が射し込んでくる! まぶしいっ!
「ん、ここはまさか!?」
さて、長いコト真っ暗闇の中にいたせいでぼやけていた俺の双眸が正常に戻りつつある――ん、二羽の兎、それに髪の長い若い女と瓶底のような分厚い眼鏡をかけた若い女の姿が、そんな俺の双眸に映り込んでくる。
むう、ようやくわかったぜ。俺が今までいた場所は暗黒竜の卵の化石の中だったようだ。
んで、さっきの全身の骨が軋むのような衝撃は、アイツらが暗黒竜の卵の化石を落っことしたコトによって生じたモノのようだ。
「「「「ウ、ウワアアアアーッ! 暗黒竜が生きていた……孵化したァァァ~~~!」」」」
「な、なんだってー!」
し、失敬なッ! 俺の姿を見るなら悲鳴をあげやがって――え、俺が暗黒竜だと!?
ハハハ、妙なコトを言う……あ、でも、身体に妙な違和感があるぞ! 身体が小さくなったような……うう、やっぱり俺は――。




