外伝EP15 兎天原にやって来た修学旅行生 その20
今、僕が迷い込んだ異世界――兎天原は獣人の世界なのかもしれないなぁ。
まあ、人間もそこそこいるようだけど、その七割が獣人のような気がする――と、なんだかんだと、主に兎天原の東方で蔓延する獣化の呪いが影響だったりするようだけどね。
と、そんな僕こと池口翔太の目の前には、何匹もの二足歩行の大鼠――鼠獣人の姿が見受けられる。
コイツらは聖者モルニスを筆頭としたシャムシェラの森の中に引きこもる聖人達(?)なのかもしれない。
ああ、どうでもいいけど、白ショゴス君とかいうモノだけど、ショゴスとかいう怪物の亜種らしい。
で、正確もショゴスよりも大人しく従順――らしいけど、化け物に変わりはないと思う。
さて。
「よ、モルニス! 相変わらずの小汚いナリだねぇ~☆」
「小汚いは余計だ。あの呪いで鼠になる前は、超絶イケメンだったんだぜ!」
「嘘つけ! それはともかく、この男はお前達と同じ〝聖者〟の仲間かもしれない」
「な、なんだとッ! 鼠の姿じゃない聖者…だと…!?」
「その物言いからだと、鼠の獣人じゃないと聖者になれないみたいな……」
「あ、はい、多分……」
「うへぇ……」
むう、何が鼠獣人になる前は超絶イケメンだよ……絶対、嘘だと思う。
それはともかく、聖者と呼ばれるための条件が鼠獣人になるコト――うへぇ、信じられないっての!
「ん、アンタはホントに聖者なんだろうな? 聖者なら俺みたいに獣化の呪いを跳ね除けるコトができる筈だよね?」
「ああ、それかぁ、君の場合は――稀ってヤツだな。あの呪いに抗えるモノは多分、稀だ……トンでもなくね」
「う、それって俺は超ラッキーなのか!?」
「ああ、あの呪いは聖者と呼ばれるモノ――つまり、私のようなモノでも抗うコトができない代物だ。ノダート王のかけた呪いは、それだけ強力無比なんだ」
俺は超ラッキーなのかーッ!
聖者モルニスでさえ抗えなかった獣化の呪いを弾いたのだから――。
「さて、お前がここに来た理由ならわかったぞ……ズバリ仲間を人間に戻すためだろう?」
「あ、ああ、そうだ! でも、何故、それを……」
「所謂、未来予知ってヤツさ。私がほんの少し先の未来を視るコトができるんだ。しかし残念ながら、それは無理だ。自分の姿すら元に戻せぬ私にはね」
「む、むう……」
「だが、君なら可能なんじゃないのか? そこの猫耳のコを姿こそ完全ではないけど、元に戻せただろう?」
「は、それもわかっているのかぁ……」
「無論だ。ちなみに、千里眼という能力だ。私が住まうこの聖人達の洞窟の周辺で起きるコトなら手に取るようにわかるのさ」
未来予知に千里眼――そんな能力を持ちながら、獣化の呪いの抗えなかったとか言っているモルニスっていい加減な奴なのかもしれない。
「よし、お仲間の獣化の呪いは君が解くんだ! なんだかんだと、やり方を教えてやろうじゃないか」
「あ、ああ、だけど、ここに僕の仲間は……」
「大丈夫、そこの兎で実験をしてからやってみるといい」
「そこの兎……って、兄貴とヤスのコト?」
「「なんだってー!」」
ぼ、僕が獣化の呪いを解く!?
ま、まあ、清水を完全ではないけど、人間の姿に戻せたし、やろうと思えば――え、兄貴とヤスを対象に実験だって!?
そういえば、人化の法——つまり人間に変化できる術があるようだけど、その術を応用した術を教えてくれるのかな、モルニスは?
「ではでは、この粉を使うんだ。こうやってね☆」
「グ、グワーッ! 何をする……ブ、ブエ、ブエックシャアアアッ!」
「モルニスが兄貴に青い粉をかけた……な、なんスか、アレは!?」
「ん、カルネザル草の液を乾燥させたモノさ」
「ちょ、毒じゃん! 猛毒じゃん!」
「ド、ドヒャーッ! なんてモノを……ウ、ウウウ、ウグーッ!」
「兄貴が苦しみ始めたッス!」
「よし、池口翔太クン! 呪文を唱えるんだ――トヒトヒルナルナってね。早く唱えないと、あの兎ちゃんが死んでしまうぞー☆」
「ちょ、俺に名前を何故!? それもアンタの能力なワケェ? む、むう、とにかく、その変な呪文を唱えなくちゃ駄目っぽいな。兄貴を助けるため……トヒトヒルナルナーッ!」
「ウギャアアアッ! 身体が熱い……焼き兎になっちまうぜェェェ~~~ッ!」
「兄貴に身体が萌え始めたッスゥゥゥ~~~! あ、でも、なんかヘン……身体が大きくなってないッスか?」
「よ、よく見ると人間の姿に見えるんだが……」
も、猛毒があるカネルザル草の液を乾燥させてつくった粉…だと…!?
それを兄貴にぶっかけるモルニスの言う通りのトヒトヒルナルナって呪文を唱えた途端、兄貴の身体が燃えあがる――な、なんだと、燃えあがりながら、兄貴の身体が大きくなっていく……ん、人間の姿に変化しちゃいないか!?




