外伝EP15 兎天原にやって来た修学旅行生 その15
頭が蛇で身体が獅子という異形の怪物――ムシュフシュの胃袋内は広大だ。
人間である僕が狭さを感じないくらい。
そんなムシュフシュの胃袋内に巣食う寄生虫――いや、鼠達の支配された空間と化している。
で、ムシュフシュの胃袋内に巣食う鼠の一匹が、住めば都と言っているけど、ここは胃液の酸っぱい臭いが充満している。
あの臭いに耐えるだけでも厳しい状態が続く……僕には無理だな……一刻も早く外へ……脱出したいよ、まったく!
「あ、胃液からつくったジュースがあるんだけど飲む?」
「全力で断る!」
「私もだニャ!」
「さて、自己紹介と洒落込もう。わしは鼠王国の最高国家元首であるマウスロス三世だ。ああ、別に敬語等で話しかけなくてもいいぞ。ここじゃ、み~んな平等だ。わしはまとめ役ってコトで王を名乗っているだけだしな」
「そ、そうなんだ……あ、ああ、僕は池口翔太です」
フーン、まとめ役というワケで王様と名乗っているだけなのかぁ。
鼠王国は皆が平等ってワケで身分に関係なく共同生活を送っているみたいだ。
さて、後日、知ったコトだけど、ムシュフシュは鉄の塊だろうが巨木だろうが、なんだってかまわず食べてしまうらしい。
故に、奴の腹の中に家をつくるなんて造作もないらしい――確かになぁ、材料に困らなそうだ!
「そういえば、ここから今すぐにでも出たいんだろう? とっておきの場所があるんだがどうする?」
「とっておきの場所だって!?」
「うむ、とりあえず、アレを見給え!」
「お、穴が見受けれるニャ!」
「あ、穴? そういや、ここはムシュフシュの胃袋の中だったな……じゃあ、あの穴は胃壁の穴……ムシュフシュは胃潰瘍を患っているっぽいな!」
ムシュフシュの巨大な胃袋の外に出る方法って意外かも――。
何せ、胃袋の中に見受けられる穴――胃潰瘍を患っている故にできてしまった胃壁の穴を潜れってコトだしねぇ……。
し、しかし、意外だ――まさか胃潰瘍を患っているだなんて……。
なんだかんだと、怪物ながらもムシュフシュもストレスを抱えて生きているんだなぁ。
「胃潰瘍かぁ、ウチの親父みたいだニャ☆」
「清水の父さんは胃潰瘍なのかァ……」
「ウニャ、親父はストレスを抱え込む性分だからニャ」
「どうでもいいが、あの胃壁の穴の大きさ的に人間の池口でも潜れそうだぞ」
「うん、けっこう大きな穴だしね」
ムシュフシュの胃袋内に見受けられる穴――胃潰瘍のよって生じた胃壁の中の大きさは、けっこうな広さだ。
なんだかんだと、人間である僕でも容易に潜れそうな大きさだ。
「よ、よし、あの穴を潜ろう。外の様子が気になるところだしね」
「おい、外へ出られる――とはいえ、あくまで胃袋の外だ。それを忘れちゃいけないぜ」
「あ、ああ、わかっているさ……」
おっと、忘れちゃいけない。
僕は魔女モルガン・ルフィエル――かもしれない存在に会わなくちゃいけないんだ。
猫と化した清水を筆頭とした幻想世界である兎天原へと転移してしまった光桜学園の仲間を人間に戻すらめにも――。
だから、さっさとムシュフシュの身体の外へと出なくちゃいけない……よぉし、意を決し、あの胃壁の穴を潜ってみよう。
だが、出たところでどうやって体外へ出るかを考えなくちゃなぁ……。
「よ、よし、胃袋の外へ出たぞ。むう、外はやっぱり真っ暗闇だ……」
「そりゃそうだ。俺達は外にまで灯りを設置しちゃいないしな」
「さて、どうするんだニャ?」
「うーむ……」
なんとか胃袋の外へ出るコトはできたが、ここからが本当に問題だ……さて、どうする!
「胃袋の外に無事に出られたようだな。んじゃ、今度はコイツを使って〝穴〟を開けるんだ」
「お、おお……って、真っ暗で何も見えないけど、球体なのはわかる……ん、紐のようなモノが、そんな」球体に……なんだ、これは?」
僕や清水と一緒にムシュフシュの胃袋の外へと出てきた鼠達が、暗くて何も見えないけど、僕の足許に何かを置いたぞ。
触ってみたところそれは硬くて……ん、紐のようなモノがついているな……なんだ、コレは!?
「わ、わお、それは……ぶ、物騒なモノを持っているニャァ……」
「物騒なモノ?」
「池口、散々、触っておいて気づかないのかニャ! お前の足許には僕弾が置いてあるんだニャ!」
「ば、爆弾だって!?」
「的中!」
「もしかして爆弾を使ってムシュフシュの身体に穴を開けろ……てか?」
「ああ、その通りだ。外に出るなられ手っ取り早いと思うぞ」
「う、うーむ……まあ、確かに、そうかも……」
「それにだ。ムシュフシュの身体は、内側の方が脆いから、その爆弾ひとつで事足りる筈だ」
なんと、僕の足許には爆弾が……ね、鼠達、そんな物騒なモノをどこで……と、とにかく、ムシュフシュの身体は内側の方が脆いらしいので、上手くいけば、鼠達の言う通り足許にある爆弾ひとつで事足りるかもしれない。
「ん、んんんーッ! 誰だよ、導火線に火をつけたのは!」
「あ、スマン……ついつい……やっちまった……」
「兄貴ィィ!」
さてと、爆弾をどこに仕掛けるか――とまあ、設置場所を考えようとした僕は気づいたワケだ。
真っ暗闇でバチバチと音を立てる小さな火が、爆弾についている紐――導火線についているコトに……ちょ、兄貴、何をやっているんだ、アンタはーッ!




