外伝EP15 兎天原にやって来た修学旅行生 その13
広大な盆地である兎天原のどこかに、不死者を解放――あの世へと導く聖者様と呼ばれるモノがいるらしい。
とまあ、そんな聖者様とやらだって巨大荒魂の奴に勘違いされたワケだ、この僕が――。
なんだかんだと、発動できたバリアで奴をぶっ飛ばしたからなんだろうけど、勘違いもいいところだ。
僕はタダの……幻想世界にたまたま来てしまった男子高生のつもりなんだけどなぁ……。
でも、光属性、聖属性といった不死者が嫌う属性持ちではあるようだけど。
さて。
「な、何故、お前までついて来る!」
『それは決まっている。聖者様とご一緒するのが、我々の定めなのだから――』
「むう、気に食わねぇ……気に食わねぇぞ!」
「…………」
頭に角が生えた大蛇ことバシュム、それに炎に包まれた浮遊する頭骸骨こと巨大荒魂が一緒にいる光景って異常だ。
コイツらと一緒にいるだけで、僕のSAN値が危ないんだよなぁ……。
でも、正気を失わないでいる僕も異常なのかも――。
『そ、そんなコトよりもムシュフシュが食べ残し……私の遺体は、もしかしてアレかもしれません』
「あ、ああ、頭蓋骨っぽいモノが、あそこに……」
「待て不用意に近寄ってはいけないぞ!」
おっと、なんだかんだと、忘れちゃいけない。
もう一体いる異常な……いや、異様な同伴者である生前はラーティアナ教団とかいう宗教団体の聖職者だったと名乗る荒魂のアズヴァーがいたコトを。
で、アイツが探し求めている自身の遺体かもしれない頭蓋骨を発見するのだったが、不用意に近づくな――と、ウサエルが僕達を制止するのだった。
「はぁ、近くにはナニもないじゃん」
「兄貴、長老の言うコトに従うッス!」
「いんだよ、細けぇコトは……ん、んんん、ウワーッ!」
「あ、兄貴ィィ!」
うう、だから言わんこっちゃない!
アズヴァーの遺体の一部かもしれない頭蓋骨のもとに、ウサエルの制止を無視するカタチで近寄った兄貴が、地面から飛び出してきたナニかに食べられた……丸呑みにされたぞ!?
「そうか、あの頭蓋骨は獲物を呼び寄せる罠だったな……あの野郎ッ! ムシュフシュの野郎だ。地面に潜んでいたようだ!」
『ム、ムシュフシュですとーッ! ヒエエエーッ……私はアレに食べられてしまい人生にピリオドを打ってしまったのです!』
なんと、あの頭蓋骨は獲物を呼び寄せる罠だったのか!?
で、地面から飛び出し、兄貴を丸呑みにしたモノの正体はムシュフシュなのか!?
「気をつけろ。ムシュフシュの野郎は地面に潜るコトができる。オマケに水中でも活動ができる万能の奴だ。故に、不用意に嘆きの沼の水面にも近づかない方がいい!」
「ふええ、空を飛べないだけで、その他は……厄介な奴めーッ!」
「池口、妙な気配を感じるニャッ!」
「えええ、妙な気配…だと…!? う、うおーッ!」
「ウウウニャアアアアーッ!」
ムシュフシュ、恐るべし!
空は飛べないが、地面に潜れる上、水中でも活動ができる――ちょ、僕の背後には嘆きの沼……即ち水面だ……う、うわあ、そんな水面から何かが飛び出してきた……ううう、清水が、そして僕が丸呑みされてしまったァ!
『ギギギギィ……獲物一杯……俺、嬉しい……』
「その声はムシュフシュか!?」
『ギ、ギギッ! バシュム……アノ御方ニ仕エル仲間ダ。オ前モ食ベテヤロウト思ッタガ食ベナイデヤル。アリガタク思エッ!』
「な、何ィィ! 俺も食べる気だったのかーッ!」
「おい、それはともかく、池口と清水って猫ちゃんが食べられちまったぞ、おいィィ!」
俺と清水を丸呑みしたモノの正体はムシュフシュ…だと…!?
えーッ……バシュムも食べる気だったようだゾ!
アイツの巨体も丸呑みする気だったのか……って、どんだけ巨大なんだよ、ムシュフシュは!?
「うわ、酸っぱい臭いが充満している!」
さて、なんだかんだと、僕はまだ生きているようだ。
だけど、今いる場所は真っ暗闇だ……ちょ、ここってムシュフシュの胃袋の中なのでは?




