外伝EP15 兎天原にやって来た修学旅行生 その7
異世界って嫌だねぇ……。
僕――池口翔太が本来いるべき世界の場合、霊能者等の一部の人間以外、姿を見るコト、声を聞くコト、そして話しかけるコトが出来ないモノが普通にいたりするワケで……。
その前に戦うコトが可能なんだろうか?
ソイツは実体を持っていないモノ――幽霊だ。
オマケに強い恨みや未練から、凶悪な悪鬼羅刹が如きモノへと変化したモノ――荒御霊なんだぜ。
そんな厄介の極みのようなモノと戦えるのか、僕は――タダの人間である、この僕が!
とはいえ、僕が今いる兎天原東方とやらに蔓延する獣化の呪いには抗うコトは出来たけど、難しいかな……無理に近いかも!
「仕方がねぇ! やるぞ、池口ィ!」
「あ、兄貴、マジかァ!」
「ここから逃げるためッスよ! 諦めて戦うッス!」
「ちょ、ヤスまで……」
む、むう、小さな兎の獣人であるが、そこら辺の勇気は称賛したくなるなぁ――とばかりに、ファイティングポーズを決める兄貴とヤスは、あの空飛ぶ頭蓋骨……荒魂と戦う気のようだ。
「池口! 早くアイツを倒すニャー!」
「し、清水、お前も一緒に戦え!」
「だが断るッッ‼」
「お、おィィ!」
「うむ、お主ならアレを祓うコトができるかもしれないのう」
「ちょ、アンタまで……」
「わしは嘘なんか言わんぞ。試しに、足許に落っこちている小石をアレに向かって投げつけてみるのじゃ!」
「え、えええ……と、とりあえず、やってみるかぁ……デ、デヤーッ!」
清水の奴、一緒に戦えよ……兄貴やヤスと一緒に戦えば、なんとか目の前に出現した荒魂を倒せるかもしれないじゃないか!
そ、それはともかく、僕なら奴を祓うコトが出来る…だと…!?
そうウサエルが言うけど、正直なところ無理なんじゃないかと……。
小石を荒魂に対して投げつけてみろ――と、ウサエルは言うけど、アレは幽霊の類だ。
当然、実体がないワケのだから、例え足許にある小石を拾って投げつける等の物理的な攻撃を仕掛けても多分、無傷――つまり無意味な行為でしかないと思う……いや、その筈だ。
だが、とりあえず、ウサエルの言う通りコトに従うとしよう――と、そんなこんなで僕は意を決し、荒魂を目掛けて足許にある小石を右手で拾って投げつけてみるのだった。
『ガ、ガアアアッ! お前、お前……タダの人間ではないな……その身体を余に寄越すのだァァァ~~~!』
「う、うお、効果ありィィ……ってヤツ!? むう、その前にまるで王様とか皇帝とか、お偉い人間様の一人呼称だな、おい!」
「そ、そんなコトはともかく逃げるんだニャーッ!」
お、おお、小石が荒魂に命中したぞ……む、むう、だけど、あまり効果はないなぁ。
と、そんなこんなで荒魂の奴が、僕の身体を奪おうと、こっちに向かってきたぞ……ど、どうする、僕!
「に、逃げるが勝ちってね! うわ、無理だァァァ~~~!」
うん、ここは逃げるが勝ちってね☆
そう思った矢先である――しゅ、瞬間移動かよ!
思わず口にしてしまうほどのトンでもない速度で荒魂が、俺の背後に回り込むのだった。
「ヤヤヤ、ヤバいッ! 憑依されてしまう……あ、あるぇ~?」
うっ……一体、何が!?
荒魂の奴、僕の間近まで迫ったのに引いたぞ……避けたぞ……どういうワケェ!?
「うむ、恐らくは属性的に合わなかったのじゃろう」
「ぞ、属性?」
「火、水、風、土という基本属性があるだろう? 他に闇とか光、聖と魔とか――」
「池口だっけ、お前? 恐らく闇堕ちした亡霊である荒魂に奴が大嫌いな聖、或いは光の属性持ちなんだろう」
「へ、へえ……」
火、水、風、土、それに闇、光、聖、魔……ちょ、どこのゲームですかぁ!
ま、まあ、ここは異世界だし、別段、不思議じゃないかも――って、僕の属性が光とか聖だって!?
うーむ、僕的には無属性なんじゃないかと思ったんだけどなァ……。
「ケ、ケキョッ……光……嫌いッ! 余は光が大嫌いだァァァ~~~!」
「荒魂が逃げ出したニャー!」
「追いかけましょう! やっつけるなら今かも!」
「いや、やめておくのじゃ。逃げたフリをしたのかもしれないしのう」
「そ、それもそうね!」
むう、荒魂の奴、悲鳴をあげて逃げ出したぞ!
だけど、ウサエルの言う通り、ここは深追いはやめておくべきだろう。
今いるシャムシェラの森は無論のコト未知の場所なワケで――。




