外伝EP14 兎天原の旧支配者 その28
ま、まさか……まさか氷の魔術が効くとはッ!
ま、まあ、今のカミバーヤ王は空飛ぶ燃え盛る火炎の塊――人魂だ。
氷の魔術で冷却する? 或いは風の魔術で吹っ飛ばすとか――。
とにかく、野球ボールほどの大きさの氷の塊で叩きつけ、なんだかんだと、カミバーヤ王に対し、効果があったワケだ。
『ウガアアッ……まさか氷の魔術が使えるとは……油断した!』
「つーか、自分から弱点を言ったワケだし、そこを狙うっきゃないでしょう?」
『グ、グヌヌーッ――無念、無念だ……』
「あ、カミバーヤ王が消えたッ……人魂がスーッと消えた!」
お、おお、カミバーヤ王の姿が――人魂がスーッと消え失せたぞ!?
だが、本当に消えたのか!?
姿を消し、突然、現れるってコトもありえそうだ……油断は禁物だ!
「どこからともなく現れそうね。まだまだ油断はできないわ!」
「あ、ああ、わかっている」
『あー……負けちゃいましたか、我が王よ』
「う、この声は!?」
や、やややッ……聞いたコトがある声が、今いる天空廃墟内に反響し、響きわたる。
むう、アイツ……アイツもここにやって来た……吹っ飛ばされてきたっぽい!
「お、お前はズェランゾラ!」
「ごきげんよう……ああ、それと感謝します。貴女のおかげで正気を取り戻すコトができました。それにこの通り擬態煙も、私の意のままに――正常に働くようになりましたしね」
「それはどうでもいいけど、お前……真の姿が丸見えだぜ? 気づいていないだろう?」
「な、なんですとーッ! グ、グヌヌーッ……捕まってしまいましたか……無念!」
むう、ズェランゾラ! だ、だが、モウモウと立ち込める真の姿を別の姿に見せる擬態煙の隙間から〝小さな蛇〟という姿が丸見えなんだよなぁ……。
そんなワケで捕まえるなら今だッ――とばかりに、俺右手で奴の首根っこを掴みあげる……う、ヌルヌルしている! だ、だが、今は我慢だ……我慢しろ、俺!
「さてと、捕まえたぜ!」
「うう、私をどうする気ですかーッ!」
「そんなモノ決まっているじゃないか? クククク……」
「ム、ムムッ……エヌメネス、アンタもここに来たのか」
「まあ、なんだかんだと、あの竜巻に巻き込まれるカタチでね」
『エヌメネス…だと…!?』
「ふ、ふええ、今の声は……カ、カミバーヤ王!」
ズェランゾラの同胞であるエヌメネスも現れる――むう、まさか、コイツも天空廃墟にまで吹っ飛ばされてきたようだ――と、そんなエヌメネスが現れて数秒後、消滅したかと思っていたカミバーヤ王の声が響きわたる。
ちょ、まだ消滅していなかったのか、コイツッ!
「し、しぶとい奴めぇーッ!」
『余は……余は戻らればならんのだ、地上へ――ッ! が、がああ、その身体を寄越せェェェ~~~!』
「う、うお、まだ襲いかかる余力があるのか!」
ドンッ――と、忽然と俺の背後に消えかかった炎の玉のようなモノが――いや、消滅しかけている人魂ことカミバーヤ王が出現する!
コイツ、まだ襲いかかる余力を――俺の身体を奪い取ろうと目論んでいるのか!
「はい、そこまで!」
『ガ、ガアッ……ナ、ナニをするのだ、ズェランゾラァァァ~~~!』
な、何ィ、ズェランゾラがカミバーヤ王に対し、攻撃を仕掛けたぞ!?
ア、アレェ……コイツらって仲間じゃなかったのかーッ!
『ガ、ガアアッ……力が抜ける……夢魔の娘が仕掛けてきた氷の魔術は、なんとか耐えるコトができたが、これは……ズ、ズェランゾラッ……ききき、貴様、何を……何をしたのだァァァ~~~!」
「ああ、その仕組みですか? ドゥフフフ~……この鏡を媒介とした魔術を使ったのですよ、我が王」
『う、うう、その鏡は、まさか……まさかッ!』
「そのまさかですよ、我が王……冥界の鏡です」
「冥府の鏡!? ナ、ナニ……それ?」
「うむ、死後の世界――即ち冥界を映し出す鏡のコトだ。なるほど、死の世界の力をこの世界に呼び込んだのか!」
「ほう、よくわかりましたね。うーん、アナタはタダの栗鼠ではありませんね。ま、イイでしょう――教えてあげます。冥界は死後の世界です。故に、我が王カミバーヤのようなモノを弱らせる効果があるようです」
「そ、そうなのか……知らなかった、そんなコト……」
むう、死後の世界を映す――冥界の鏡かァ……うへぇ、ズェランゾラが持っているあの鏡の鏡面を覗き込むと、トンでもないモノが見られそうな予感がするぜ。
で、そんな冥界の鏡を媒介として使った魔術は、カミバーヤ王のような不死者を弱らせるコトできるようだ。
それじゃ仮にゾンビやマミーといった死体が何かしらの要因で動き出した魔物を相手に使えば、対象のタダのモノを言わぬ死体に戻すコトができるかも――。
「さてさて、我が王よ。〝逝く準備〟はできていますか?」
『逝く準備…だと…!? ど、どこへ……?』
「わかりませんか? 冥界ですよ、冥界――ああ、ちなみにですが、私がアナタに接触したのは、冥府の女王のご命令でして……」
『なんだと!? それじゃお前は、アイツの差し金なのかーッ……ウ、ウギャアアアアッ!』
「そうです。今まで気づきませんでしたか? さ、参りましょう……あの御方がお待ちですよ」
「人魂が……カミバーヤ王がズェランゾラが持っている鏡に吸い込まれている!」
もしかして、あの冥界の鏡とやらは、カミバーヤ王のようなモノ――不死者を死後の世界こと冥界へと送り込むコトができる一緒の通り道になっているようだ。
「我が王よ。短い間でしたが楽しい日々を過ごさせてもらいました。では……」
「わ、お前ッ……ソ、ソレをこっちに向けんな!」
ちょ、おまッ……冥界の鏡を俺の方に向けるな!
ズェランゾラの奴、カミバーヤ王と同じく俺やデュシスも冥界へと送り込む気なのか!?
と、とにかく、絶対に絶命だぞ、俺――ッ!
「クククク……我が王カミバーヤを始末するついでに、エヌメネス……アナタも始末させてもらいますよ」
「な、何ィィーッ……って、そうなると思っていたから驚かないぞ。それにズェランゾラ――お前はすでに敗北している!」
「な、なん…だと…!? グ、グワーッ……冥界の鏡がッ……冥界の鏡から無数の腕がッ……や、やめろ、亡者共! 私を誰だと……ゴ、ゴアアアーッ!」
え、自爆!?
冥界の鏡から半透明の複数の腕が――亡者共の腕が飛び出す!
それがズェランゾラを鏡を介し、冥界へと引きずり込む――あ、ああ、その際、ズェランゾラの身体が小さな蛇と化す。
多分、アレがズェランゾラの真の姿なのかも――。
「よし、これは……こうするべきだな」
「あ、ああ、壊すのかよ! もったいないなぁ……」
む、むう、エヌメネスが冥界を映す鏡を叩き割るのだった……も、もしかしてズェランゾラが戻って来れないようにしたのか!?
「これでよし! それじゃ地上へ戻るぞ……っと、そんな地上に戻ったら、ち~と頼みたいコトがあるんだ」
「え、頼みたいコト……ちょ、考えさせてくれ!」
む、むう、なんだかんだと、地上へ戻ろう。
カミバーヤ王もズェランゾラもいないし、いつまでも天空廃墟にいるワケにもいかないしね。
その前にエヌメネスからトンでもないコトを頼まれそうだ……こ、ここは逃げるように立ち去るべきだな!




