EP9 俺、巨人族の少女と出逢う。その6
「姐さん、変な奴の目をつけられたな。」
「まったく迷惑な話ですね、お姉様!」
「あ、ああ、まったくだ……。」
やれやれだぜ、どこの馬鹿野郎だよ。
俺みたいな未熟者の魔女に決闘を申し込む物好きな輩は――。
「しかし汚い文字ですね。カタコタ文字は人間、獣人に問わずケモニア大陸では常用文字として使われている文字ですが、ここまで汚らしい文章の羅列を初めて見ました。」
「まったくです。この手紙を読んでいると、こっちまで恥ずかしくなります。」
「私でももっと上手く書けるガウー!」
ケモニア大陸ではカタコタ文字という人間、獣人などの問わず常用するポピュラーな文字が存在する。
俺はこの世界にやって来てから、それほど経ってはいないが、一応、カタコタ文字をすべて覚えたつもりだけど、ここまで酷い文字をこの世界へ来て初めて見たかもしれない。
試しにカタコタ文字を北極熊の子熊であるサキに書かせてみたけど、そんなサキの方が上手く書けていたしね。
「あ、ここに手紙の送り主の名前は書いてあります。」
「ええと、マルス&アレスか……ひょっとして双子の死霊使いさんですかね?」
お、エイラを介し、俺に決闘を挑んできた輩の名前が手紙に見受けられるぞ。
「まったく、どんな奴らなんだ。ま、こんな小汚い字を書くんだ。きっと、文字の小汚さが反映した出で立ちだろうなぁ……。」
ハハ、きっとそうだ、そうに違いない。
眼力のない虚ろな目つきで、オマケの涎を垂らしているヘンテコリンな顔つきの輩を想像してしまったよ。
「字が小汚いですって!?」
「ひ、酷いっ……あんまりだァァァ~~~!」
ん、そんな声が聞こえてくる……ひょ、ひょっとして!?
「あ、ワンちゃんを連れた怪人が、いつの間にか!」
「あ、この人ですね。キョウさんの手紙を渡すように依頼してきたのは――。」
「にゃおお、ワン公がいるですとー!」
フレイヤの使い魔である猫獣人達が全身の毛を逆立てながら、シャアアアッ――と、警戒心剥き出しの唸り声を張りあげる。
つーか、いたのかよ、お前ら――と、それはともかく、死神を連想させる黒ずくめに身を包む不気味な仮面をかぶった人物と、その愛犬かもしれないシベリアンハスキーの姿が、いつの間にかプールがあるアジトの庭に見受けられる。
で、エイラを介して俺に対し、決闘を申し込もうとしたのも、どうやらコイツらっぽいぞ。
「なんだ、アンタ達は?」
「お姉様、きっとお面の怪人さんですわよ。あの手紙の送り主は――。」
「そう、その通りだ! その手紙の送り主だ!」
「え、ビンゴだったワケ!?」
ビ、ビンゴ! グラーニアの言う通りの展開になったな、おい。
「つーかさぁ、お前らって暇人だろう? 俺は未熟者だぜ。媒介はないと魔術を自力で使えないしなぁ……。」
「姐さん、きっとソイツらは姐さんとお友達になりたいんじゃね? ほら、同じ穴のムジナとして決闘を申し込みたいとか手紙に書いてあったろう?」
「あ、ああ、なるほど、決闘を申し込むっていうのは、そんな意味合いがあったのか?」
「ちちち、違う! 私は同じ死霊使いとして、どっちが優秀なのか勝負はしたくて、ここへ来たんだ!」
「マルスちゃん、嘘を吐くなよ。あのお姉さんと友達になりたいって言ってただろう? 同じ穴のムジナがやっと見つかったって喜んでたじゃん。」
「ううううっ……。」
アハハ、一緒にいる喋るシベリアンハスキーに本音を暴露されたな、お面の怪人は――ったく、素直じゃない奴だなぁ。
「ととと、とにかく、三日後、ディアナスの樹海にある月の宮殿遺跡で勝負だァァァ~~~!」




