外伝EP14 兎天原の旧支配者 その25
「寒ッ……は、はう、ここはどこだ!?」
この寒さは、まるで吹き荒ぶ吹雪の中にいるみたいだ。
寒くて凍えてしまいそうな雪山にでもいるのか!?
そんなワケがない……そんな筈がッ!
とまあ、雪山にでもいるかの如く凍てつく錯覚のおかげで、俺は目を覚ますのだった。
「寒いなぁ……周りは雪だし、オマケに廃墟しかない……どこなんだ、一体……」
「ここは寒くても仕方がない。何せ、ここは雲の上だからな」
「く、雲の上……そ、それなのに落っこちないのは一体!? どういうコトだ、デュシス!」
「ん~……天空廃墟ね。うん、間違いない……」
「アフロディーテさん、天空廃墟って一体……」
ん、俺の目線の先にアイロディーテの姿も見受けられる――ん、だが、その刹那、軽い爆発音とともに合体が解除されて冴えない眼鏡の女のコという姿の愛梨、それにアヒルのアフロディーテの姿に分離するののだった。
それはともかく、俺は雲の上にいる!? 雲の上なのに、何故か建物が見受けられるという矛盾な光景が目の前に広がっているんですけど!
さて、デュシス曰く、ここは天空廃墟という場所らしい。
「足許のコレは雪じゃなくて雲なのか!?」
「うむ、多分な」
「た、多分ってどういうコトだよ」
「要するに、我々はあの台風と化した竜巻に巻き込まれ大空を漂う〝ここ〟までふっ飛ばされた――というワケだ」
「しかし、あの伝説が本当だったとはね。意外だわ!」
「あの伝説?」
「兎天原には天空を漂う廃墟の伝説があるのよ」
「それじゃ、ここが……」
天空を漂う廃墟の伝説がある……だと!?
煙の大巨人という姿に変化し、ズェランゾラの真の姿を覆うあの煙を吹っ飛ばすために発生された竜巻――台風の奔流に飲み込まれた俺とデュシス、愛梨とアフロディーテは、偶然にも天空廃墟という場所へと吹っ飛ばされるカタチでやって来てしまったようだ。
「さてと、天空廃墟について私が知る限りの話をしよう」
「お、おお……」
むう、早いとこ地上へ……エフェポスの村へと戻りたいところだが焦りは禁物だな。
何せ、ここはデュシスやアフロディーテの話では、遥かなる天空にある廃墟なワケだし――。
まあいい聞いておくか、天空廃墟の詳細を――。
「ありていに説明すると、ここは地上ではなく天上世界――即ち、天空から兎天原を支配しようと目論んだ〝とある王〟の夢の跡なのだ」
「空の上から地上を支配ねぇ……」
「だが、ソイツはアホだった……」
「え、アホだった!?」
「そう……アホだったらしいわ。大空を漂う雲を魔術で固め城を築きあげたまでは良かったんだけど、食料、そして地上へと降りる術を用意しなかった――と、そんな間抜けな伝説が伝わっているワケ」
「ア、アハハ、それは確かに……」
魔術で雲を固めた? あ、ああ、そうか雲は空を固まって浮かぶ氷の粒だったな。
ソイツを魔術で超硬質化し、地上から持ち込んだ材料によって建物を築きあげたってワケだな。
だが、アホだなぁ、食料と地上へと降りる術を忘れるとか……。
「ねえ、とりあえず、あの廃墟へと行ってみましょう」
「ああ、行ってみよう」
「おっと、足許には注意するだな、サキュラ。ここは魔術で足許の雲を超硬質化しているとはいえ、そんな魔術がかけられたのは、ざっと数百年前だ……ここまで言えばわかるだろう?」
「む、むう、雲の超硬質化という魔術の効果切れの個所があるかもって言いたいんだろう?」
「その通りだ。では、あの廃墟に――」
『う、うわーッ!』
「今の声は愛梨? まさか超硬質化の効果が切れた個所があって、そこから落っこちたとか?」
『ミミミ、ミイラです! ミイラーッ!』
「ミイラ……もしかして!?」
魔術は万能だなァ――そう思う一報で永久持続ってコトはないのね、なんだかんだと――。
そんなワケだから、今いる超硬質化した雲の上を歩く場合、慎重に進むべきだな。
さて、先に今いる空から兎天原を支配しようと目論んだ輩の成れの果てとばかりに空中を漂う超硬質化した雲の上に建てられた廃墟こと天空廃墟の中に、一足先に向かった愛梨の悲鳴が響きわたる――ミイラヲ発見!?
うーむ、そのミイラが何者の成れの果てなのか? なんとなくわかった気がするぞ。
「豪華絢爛な格好だねぇ。ん~……このミイラが空から兎天原を支配しようと目論んだ輩なんだろう?」
「うむ、間違いはないだろう。このミイラこそ伝説の王カミバーヤだ」
天空廃墟――あちらこちらが崩れ落ちて本来の姿は完全に失われてはいるが、それでもなお威厳に満ちた空間をつくり出している気がするんだよなぁ。
さて、そんな天空廃墟の深奥には、豪奢な玉座があり、そこに如何にも王侯貴族って感じの衣装を身に纏う干からびた人間の遺体――即ち、ミイラの姿が見受けられる。
この天空廃墟の主――雲を超硬質化し、城を築きあげたのはいいが、食料、そして地上へと降りる術をド忘れてしてしまったモノことカミバーヤという名の王である。




