外伝EP14 兎天原の旧支配者 その20
煙の大蛇――邪神形態と化したズェランゾラは、〝今の状態〟の方が倒しやすい……だと!?
本当か、本当に本当なのかぁ!?
魔族である俺の力ある言葉に風の精霊が呼応し、発生した小規模とはいえ竜巻をかき消してしまったワケだし……。
身体を構成しているモノが煙である故に吹っ飛ばせるかと思ったのになぁ……な、中々、上手くいけないモンだ。
さて。
「よ~し、もう一丁! あ、ああ、ダメか……だが、ちょっとだけ奴の煙の身体を吹っ飛ばせたしね!」
「フン、無駄よ! 私のこの煙の身体を散らすなど無意味ッ! この通り、即、吹っ飛ばされた部分の修復が出来るのですから!」
「だが、それはどうかな? ズェランゾラよ、真の姿が見え隠れしているぞぅ!」
「ん、もしかして、あの煙の中に見え隠れしている小さな蛇のようなシルエットのコト?」
「その通りだ。さあさあ、ガンガン奴の煙の身体を風の魔術を吹っ飛ばすんだ!」
「おい、お前も手伝え! 魔術くらい使えるだろう!」
「さて、どうしようかな、クククク……」
俺は再び風の魔術を行使し、小規模の竜巻を発生させズェランゾラを攻撃してみたワケだが、またしてもバーンッ――と、奴の煙の大蛇という異形の身体の前に呆気なくかき消されてしまう。
ん、今回はちょっとだけ効果があったかも!?
ほんの少しだけ煙の身体が吹っ飛んだせいか、煙の中に潜む小さな蛇のシルエット――ズェランゾラの真の姿が、ちょっとだけ見えたワケだしね。
「よし、私の大好物のカップラーメンで手を打とうじゃないか!」
「え、えええ、カップラーメンが兎天原にも存在しているのか!?」
「カップラーメンなんて普通に売ってるッスよ。聖地アンザスからやって来た人間達がもたらしたって言われる新しい食べ物ッスよね、兄貴?」
「んん、そうだっけ? まあ、ヤスがそう言うのなら間違いないな、うんうん」
「そ、そうなのか、ヤス……」
え、兎天原は剣と魔術が支配する幻想世界じゃないのかよ……。
それなのにカップラーメンが存在しているって聞くと、俺は現実世界に戻って来たんじゃね? と、そんな錯覚すら覚えるぜ。
「お、おお、わかった。カップラーメンで後で買ってやる。それでいいんだろう?」
「フ、話が早いな。では、共に戦おうじゃないかッ!」
ちょ、エヌメネスが突然、やる気を出したっぽいぞ。
兎天原に出回るカップラーメンって、そんなに美味いのか!?
俺も一度、食してみたいもんだ。
「さてさて、奴をぶっ潰してカップラーメンを食べるとしようか――と、約束を忘れるなよ?」
「あ、ああ、わかってるさ!」
さて、なんだかんだと、やる気になったエヌメネスと共闘し、砂の大蛇ことズェランゾラを打倒できるか試してみるか――ん、そういえば、ズェランゾラとも共闘したんだったな。
俺って古蛇族と何かしらの縁があるのかな……かな?
「ふむ、では、奴の砂で構成された仮初の身体にダメージを与えられる方法を教えてやろう。ま、上手くいくかはわからんが――」
「ちょ、そんなモノを持っているなら、すぐに教えてくれよ!」
「ハハハ、すぐに教えてしまっては愉悦とは言わないだろう?」
「何が愉悦だよ。ふう、言い返すにが面倒くさくなった……もういい、早く教えくれ!」
「では、コレを使いたまえ」
「ん、導火線についた丸い玉……ば、爆弾か!?」
「左様。だが、煙しか出ないモノだ」
「け、煙玉かよ。だが、それが一体……」
「ありていに言おう。奴は〝煙の大蛇〟というモノでありながら、実は煙が嫌いという変わりモノなのだッ!」
「う、それじゃ、今のアイツは……」
「そう……耐えているんだ。悲鳴をあげ、もがき苦しみたいところを必死に耐えまくっているんだ!」
え、えええーッ……煙の大蛇というクセに煙が大嫌いだって!?
意外だァァァ~~~……いや、予想外だ。
さてさて、そんな大嫌いな煙でつくった邪神形態――大蛇という擬態の中に身を潜めるズェランゾラの奴は、いつまで耐えていられるのやら――。
「よし、導火線に火をつけたぞ……って、うわ……す、凄い煙だ!」
なんだかんだと、試してみるかな。
煙の大蛇ながらも煙が本当に煙が苦手なのかどうか――って、煙玉の本体から物凄い量の煙が吹き出す……け、煙いッ!




