外伝EP14 兎天原の旧支配者 その19
しかしエヌメネスの蛇野郎、落とし穴なんかいつの間に……。
魔術でつくったんだとは思うが、そんな穴ン中に落っこちたら最後、穴の底が爆発し、落っこちた対象を爆砕するとか――何気にエグい魔術だぜ。
だが、生還したっぽいなぁ、ズェランゾラは――ん、でも、様子が変だな?
エヌメナスがつくった落とし穴の底からモウモウと吹きあがる煙の中から、一向に奴は姿を見せないワケだ。
で、その代わりとばかりに、赤々と輝く禍々しい光が落とし穴の中から立ち込める煙の中に浮かびあがる。
「あちゃ~……これは不味いな」
「ま、不味い!?」
「ズェランゾラが邪神形態になってしまったワケだし……」
「邪神形態!?」
「ああ、ありていに言うと、あの〝煙〟そのものがズェランゾラってワケだ」
「落とし穴から吹き出す煙そのモノがズェランゾラだと!?」
「み、見てください! 落とし穴の中から吹き出している煙が、鎌首をもたげる大蛇のような形状になっていきますよ!」
け、煙の蛇……だと!? 扇状に落とし穴の中から吹きあがる煙が、見る見るうちに鎌首をもたげる蛇の如き形状に収束、変化していく――コレがズェランゾラの邪神形態というモノなのか!?
「やってくれましたェェェ~~~! エヌメナス氏ィィィ~~~~!」
「いえいえ、それほどでもぉ☆」
「グ、グヌヌッ……私を馬鹿にしていますね。さて、不本意ながら邪神形態へ変身させてもらいました。故に逃げられると思わないでくださいね。ついでに夢魔のお嬢さん、アナタ方も連行させてもらいますよ。あの御方のもとへ――」
「ちょ、なんで俺達まで?」
「アナタ方はエヌメネス氏を匿った罪がありますので――」
「ふえええ、匿った覚えはありませんよォ!」
「黙りなさい。今更、弁明したところで遅すぎるのです……では、覚悟しなさい!」
お、おいおい、エヌメネスはともかく、何故、俺達までズェランゾラに連行されなくちゃいけないんだ!?
それに、あの御方って……黒幕キターってヤツか?
「け、煙の大蛇が襲いかかってきた! うぬぅ、攻撃が通じねぇ!」
「兄貴、奴の身体は煙ッスよ。つまり実体がない幽霊と同じようなモノッス!」
小さな兎獣人ながらも格闘技に秀でた存在(?)かもしれないハニエルの回し蹴りが、落とし穴から出現した煙の大蛇こと邪神形態のズェランゾラに直撃するが、今の奴の身体は煙そのモノである。
そんなワケだから実体のない奴に打撃が通じるワケがないのだッ……ちょ、どうする? 実体のない奴に通じる攻撃方法を考えなくちゃいけないぞ。
ん、魔術は通じるだろうか――。
「なあ、デュシス……」
「うむ、お前の言いたいコトはわかる。そうだな、試しに風の魔術で奴を――」
「あ、ああ、奴の身体は煙で構成されていたな。風の魔術で吹っ飛ばせばいいってワケか?」
「うむ、そういうワケだ。ひょっとすると、あの煙の大蛇という姿は、真の姿を隠すための替え玉の可能性があるだろう?」
「よ、よぉ~し! 風よ、吹き荒べッ――お、おお、小さな竜巻が発生したぞ!」
魔族である俺が発する言葉には力がある――故、強烈な風邪を引き起こすなんて朝飯前……って、小規模だけど竜巻が発生したぞ!
さて、そんな小規模ながらも発生した竜巻で、煙の大蛇という実体を持たぬ今のズェランゾラの身体を吹き飛ばしてやるーッ!
「ヌッ……ヌフゥ! 夢魔のお嬢さん、私を風の魔術で吹き飛ばす気ですね? ハハハ、無駄なコトを……私のこの身体はタダの煙ではないというコトを教えてあげましょう!」
「な、何ィ! 俺が発生させた小規模とはいえ竜巻がかき消された!? う、うわっ!」
「ひゃわあッ……ああ、今の一撃で両足が取れちゃいました☆」
「アタタタァ……ゾンビとはいえ、笑い事じゃないだろう、メリッサ……」
「エヘヘヘ、でも、この程度なら、まだ修復できますので、ご安心を☆」
「む、むう……し、しかし、なんだぁ、アイツの身体は煙……実体がない筈なのに、俺は弾き飛ばされてしまったぞ!」
な、なんだとー! 竜巻が煙の大蛇と化したズェランゾラと接触する直前にバッ――と、かき消されてしまう!
その直後、煙の大蛇というコトで実体がない筈のズェランゾラが、空を裂く鞭の如くぶん回す巨大な尻尾の一撃が、俺とメリッサを同時の薙ぎ払うのだった。
「実体化した…だと…!?」
「頑張れー! ズェランゾラはあの状態の方が倒しやすいと思うぞ」
「うう、なら一緒に戦え、馬鹿野郎!」
な、何ィィ! 邪神形態の方が倒しやすいって!?
だが、どうやって倒すかが問題だ……ん、攻撃を仕掛けてくる瞬間だけ実体化するのかも!?
もしかすると、その時なら――。




