外伝EP14 兎天原の旧支配者 その5
「なんだね、君達はッ!」
「ここは関係者以外は立ち入り禁止なんだぜ!」
「お、おう……」
そりゃ言われて当然だ。
何せ、俺達が駆け込んだ場所は、迷宮の名を冠する通り、内部が複雑に入り組んでいる厄介な場所であるが、何故か利用者も多い奇妙な場所――迷宮図書館に勤務する職員達の休憩所なワケだし。
ん、だけど、紺色の制服と制帽という格好の人間や獣人ばかりだ……あ、ああ、職員というよりも警備員かな?
腰に誘導棒のような棒状の物体をぶらさげているしね、間違いないかな、かな?
「スマン、ちょっとした理由から、ここに身を潜めさせてもらうぞ」
「ん、もしかしてアナタはジンフリード教授ですか?」
「左様、私がジンフリードだ」
「ハハハ、やはり! 学生時代にお世話になったモノです」
「ん……というコトはマーテル王国国立魔術学校の生徒だったのかな?」
「あ、はい、成績はまあまあでしたが、今年の春に無事、卒業できまして——」
「うむうむ、卒業できればよし! 去年は留年者が多くてなァ、ちと困っていたのだ」
「おいおい、そんなコトより、ここにいつまでいればいいんだぁ?」
「俺がイイって言うまでだ。わずかながら嫌な気配が残っている。そんなワケだから、まだ脅威は拭い去られてはいないからね」
「そうか、じゃあ、しばらく休憩させてもらうぜ」
お、ジンフリードの教え子っぽい警備員がいるぞ。
まあいいや、しばらく、ここで休憩させてもらうとするかな。
姿のわからん謎の存在の脅威が消え去るまでの間だが――。
「ふう、やっと休めますね。しかし、トンでもなく広いですね、迷宮図書館内は……ガ、ガハッ!」
「メ、メリッサァァァ~~~!」
「あ、ご心配なく! 私はゾンビですので、この程度の損傷ならへっちゃらです☆」
「そ、そうだったな、お前はゾンビだったな……って、おい! 扉の向こう側に何かいるぞ!」
よし、休憩だ――と、やっと骨休めができると思ったのは束の間である。
今いる休憩室の出入り口の扉の前にいたメリッサのドテ腹を背後から——扉の向こう側から扉越しに青白い鉤状の突起物が突き刺さる……串刺しかよ!
だが、メリッサは不死身のゾンビ——即ち不死者、その程度じゃ再起不能にはならず……ふう、そんなワケだから、ちょっとだけホッとしたぜ。
し、しかし、しかしッ――休憩室の出入りの扉の向こう側には、間違いなく得体の知れない〝何かがいる〟コトだけは確かだ!
「う、うわああッ……す、凄い出血量だァ!」
「そりゃ、ドテ腹を貫かれたワケだし……あ、腸が……」
「う、うえええッ!」
「さりげなくグロいモノを見せつけてくれるぜ、メリッサ……」
「あ、大丈夫ですよ。この程度なら治せるレベルですので、後程、お腹の中に戻すのを手伝ってくださいね☆」
「お、おう……」
「そんなコトより、休憩室の外に何がいるんだッ!」
メリッサの奴、不死身のゾンビだからといって普通の人間なら、すでに死んでいるレベルの大量の血を撒き散らし、オマケに腸まで見せつけてくれる……う、流石に吐き気を催してきたぜ。
とまあ、そんな状態に追い込んだモノの正体は一体⁉
気になる一方で休憩室の外に出る勇気がないんだよなぁ……。
「青白い角、或いは爪……ううむ、あんな色の角や爪を持つ生物は兎天原に生息していただろうか?」
「あ、眼鏡をかけてサーバルキャット……バル先生だっけ?」
「如何にも——さて、我々が今いる迷宮図書館職員専用休憩室の外に、どんなモノがいるのか気になりませんか?」
気になるよ、そりゃもう。
さて、コーヒーカップを持った二足歩行のサーバルキャット型の獣人が現れる。
バル先生とメリッサが呼んでいるので、彼女の知り合いの獣人のようだ。
「おお、アナタは稀少動物の研究家であるバルモード氏では?」
「そういうアナタは考古学者であり、魔術学者でもあるジンフリード氏かな? おっと、そんなコトより、休憩室の外にいるモノだが、私の予想が正しければ……」
「な、なあ、ヘンな声が聞こえないか?」
へえ、希少動物の研究家ねぇ。
その姿からは想像できないかも――と、それはともかく、奇妙な声が聞こえるぞ。
メリッサを扉越しに串刺しにした得体の知れないモノの声か⁉
『キヒヒヒ、手加減シタツモリダッタンダガナァ。デュフフフ……殺シテシマッタカナ?』
「まだ死んでませんっていうか、あの程度じゃ再起不能にはなりませんよ、馬鹿ァァァ~~~!」
「メリッサ、挑発なんてやめろッ!」
『グラララァッ! 今、俺ヲ馬鹿ニシタナ……許ザンッ!』
メリッサの奴、余計なコトを言う——扉の向こう側にいる得体の知れないモノがキレたッ……ああ、休憩室の扉が一瞬で粉々にッ……来た……え、でも、姿が意外すぎるんですけど!




